第13話 Hopes and Dreams

○○○



 竜の背に乗った俺達。

 順番は前から、御者、オルフェリア、俺、アンジェリカであった。

 先程のやりとりを踏まえてか、それともアノンより推挙されし謎の無名の俺を間に挟んでいるからか、オルフェリアもアンジェリカも、お互いに自分からは話をしなかった。


 沈黙が痛いほどであった。

 まあ、確かに、ほら、俺を間に挟んで、オルフェリア氏とアンジェリカさんが話をするかと言われると、想像しづらい部分はある。二人の間に他意はないはずだ……と思いたい。しかし俺は、沈黙に耐えかねて、溜め息くと、アンジェリカへと話しかけた。


「《光の迷宮》攻略した後、プルミーさんに連絡してねぇだろ。一度くらいはプルミーさんに連絡取ろうとも思わなかったんか?」


 アンジェリカは俺の問い掛けに沈黙を貫いた。俺は、自分の語気が多少なりとも強くなったことに気づいてはいた。


「別に責めてるわけじゃなくて……ただどうだったのか聞いてるだけだ。そんなに難しく考えないでくれよ」


 彼女が返事をするまでしばし時間を要した。

 そしてやがて、


「プルさんに連絡は……していないわ」


 彼女の返答は予想通りのものであった。しかし、その続きは予想外のものであった。


「どうして私は、こんな大事なことを……忘れて───違う、そんな必要はないとあのときの私は───」


 彼女は頭を抱えてぶつぶつと呻き出した。


「おい、いきなりどうしたんだよ」


 アンジェリカは俺の問い掛けにも答えず、何かを呟き続けた。


「大丈夫か?」


「……大丈夫かどうかは、私には、もう、わからない」


 彼女はそう言ったきり何も話さなくなった。

 機を伺っていたのか、そのタイミングでオルフェリアが声を上げた。


「そろそろ着くはずよ。わたしにはあなた達が何を話してるのか、わからないんだけど、少しばかり到着後の話をしましょう。といっても、大したことじゃないわ。あなた達は好きな様に動きなさい。どうせ協力しようったって、付け焼き刃の連携なんてものは、たかが知れてるから」


 彼女は前方を眺めたまま俺達へ語りかけた。


「おいおい、言い分はわかるけど、力を合わせないと勝てるものも勝てなくなるぞ」


「何もわたしは力を合わせるつもりがないとは言ってないの」


「じゃあ───」


 どういう意味で? と俺が尋ねようとしたとき、彼女は、あごを上げ、背中側に体全体を反らし、どこか挑発的な視線をこちらへと向けた。シャフ度というやつだった。こんなにシャフ度が似合う女性を生まれて初めて見た。


「わたしが貴方達に合わせてあげる」


 初見で俺やアンジェリカの技量すら知らない彼女に、そんなことが───


「出来るから言ってるの」


 まるでそれがこの世の理かのように、


「───わたしを誰だと思ってるの?」


 彼女───オルフェリア・ヴェリテはそう告げた。

 

 そしてちょうどそのとき竜の御者が俺達へと声を発した。


「あちらです。見えてきましたよ」


 未だに彼方ではあるが、彼の指した方角に、確かに巨大な三つ首龍が見えた。のモンスターがあまりにも大き過ぎて、相対する者達が豆粒のようであった。サイズ差があり過ぎて、縮尺が何かもうおかしなことになっていたのだった。


 そして何より、龍を前にして立ちはだかったのは、バーチャス戦線のかなめとも言われているプルミーさん、その人であった。


 のそりと動いた三つ首の、それぞれのあぎとが光輝いた。そこには、離れていてもわかるほどの莫大な力が集中していた。


 そして三つ首龍それぞれの首から力の塊が一気に解き放たれた。


 一つは上空を突き破り、一つはプルミーさん達の背後の山をぶち抜き、一つは彼女達へ向かった。


「《煉獄の門ヘルゲート》」


 彼女の呼び掛けに従って、ほのおに、包まれた荘厳な門が圧倒的な存在感と共に呼び出された瞬間を、俺は目にした。


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