第11話 ラストピース
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本来であれば《封印迷宮》を無力化したということで、魔導具を用いて、景気のいい狼煙なんかを上げて、お迎えを呼んで、ゆっくりとダベって待ってれば良いのだが、そうは問屋が卸さなかった。事態は未だに進行しており、時間には限りがあった。
だから俺は肩にアンジェリカを担いで、猛ダッシュで帰路へとついた。
「ちょっちしんどいけど我慢しておくれよ」
全力疾走してるのだ。揺れるとかいうレベルではない。
実際に先程から肩から「ビ、ビッダン、ボロジデ」なる謎の呻き声が聞こえている。
「舌噛むから口閉じとけよ」
俺がアドバイスするも、彼女───アンジェリカの喉から謎の音声が発せられ続けた。
だから口を閉じろと言うとろーに。
半刻ほどそうこうする内に、ボルダフの街へと辿り着いのだった。
ギルド本部までアンジェリカをこのまま担いでも良かったのだが、ぺしりぺしりと俺の背中を叩くではないか。さすがに鈍い俺でもわかる。これはあれだ、お米様抱っこは恥ずかしいとか言い出すあれだ。
「しゃあないなぁ、ほら」
これだろ? これをして欲しかったんだろ?
俺はアンジェリカを己の肩に座らせた。
「ちょっと! やめてよ! みんなこっち見てるじゃない! てか何なのこの運び方! やめて! 恥ずかしい! 下ろして!」
『何なのこの運び方』だって?
アンジェリカは、なぜこんな簡単なこともわからないのか。
俺は溜め息を一つ
「これは戸◯呂様抱っこ」
「と、とぐ……? え? え?」
「オレが戸愚○弟、オマエが○愚呂兄」
俺の説明に納得いかなかったのか、青筋を浮かべたアンジェリカはじたばた暴れて無理やり地面に下りたのだった。
「何がトグロよ! って誰が兄よ! アッタマおかしいんじゃないのっ!!」
確かに!!
言われてみれば俺も自分自身がおかしいような気がしてきた。
「何、『なるほど!』みたいな感じで手を叩いてるのよ!!」
一通り叫んだ後、彼女が頭を抱えて吠えた。
「ああああ!! もうっ!!」
「ちょっとした冗談じゃん……そんなに怒らなくていいのに……」
アンジェリカとちゃんと話すのは久しぶりなので、俺もどう接するべきか悩んだのだ。悩んだ末の行動がそれだった。俺の頭はどうかしてたとしか思えない。
「違う!! 私は本当はこんなことが言いたかったんじゃないの!!」
さらなる罵詈雑言に備えて、俺は身構えたが、彼女はそれを否定するかのように両手を大仰に振ってみせた。あれ?
「ああ……もう……」
「なんだよ」
「貴方が、臆病風に吹かれてパーティを抜け出したことは、この際置いといて───」
臆病風に吹かれてパーティを抜け出したとは、また、えらいこと言うてくれますやん、などと心中では、スンッとなりかけたけれど、
「《封印迷宮》で……私達を助けてくれてありがとう」
アンジェリカが帽子を手に取り、俺に頭を下げた。
「私も、ミカも、エリスも、貴方がいなければ全員死んでいたわ」
それに関しては間違いない。
「こうして無事に生き残ることができて、貴方には、いえ、貴方達には感謝をしても仕切れない」
本当に良かった。
彼女の感謝や謝罪といった気持ちが、俺だけに向けられたものだったなら、俺はここから先、胸にもやもやを残したままであったに違いなかった。彼女は帽子を胸に当ててさらに言い募った。
「聖騎士アシュリーを馬鹿にしたことは、本人にも直接謝りたい」
自身が軽んじられてきたアンジェリカは、自分は絶対にそんなことはしないと言っていた。あのときの───俺と共にあった彼女を久しぶりに感じられた、気がした。
「時間ならいくらでもある。《封印迷宮》に関する一連の騒動さえ終わらせてしまえばな」
俺の言葉に思うところがあったのか、彼女は視線を落とした。
俺はそれに気づかない振りをし、彼女へと告げた
「ギルドまで急ごう」
すっと彼女は帽子を
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ギルドに入ると、この時間なら間違いなくいるだろうアノンの元───彼に割り当てられた一室へと向かった。
「おっす」
俺が声を掛けると、一瞬呆気に取られた彼は、
「イチロー!!」
ガバリと勢い良く俺へと飛び掛かり抱き締めた。
「無事で良かったっ!!」
「おう! 無傷だぜ!!」
アノンは俺の背後のアンジェリカに気づいたのか、
「他の、みんなは? 無事なのかい?」
一瞬の内に、彼は我に返り、覚悟を決めた問い掛けをした。
「ああ、一応何とか、な」
「何だい? その歯切れの悪い感じは。何か言うべきことでもあるのかい?」
アノンが何かを察してさらに問うた。
「時間がないから詳しい説明は省く。
ノーブルに生じた《封印迷宮》は無力化したが、迷宮自体が消失したわけではない。恐らく今一番の戦渦に曝されているのは聖騎士ネリー・バーチャスの守護する地域のはずだ」
彼は黙って俺に先を促した。
「俺は今からアンジェリカと一緒にバーチャスへと向かう。だからアノン、《
全くもって都合のいい説明であった。
しかし、彼ならこの説明だけで十分に理解してくれるはずだ。
「了承したよ。イチロー。全てワタシに任せ給え。なぁに、ワタシとイチローの仲じゃあないか」
彼は何も聞かずに俺の意を汲んでくれた。俺はそんなアノンが大好き大好きなのだった。
「それより、イチロー。向こうに行く助っ人がたったの二人だけじゃあ、大変だろう。よし! ワタシが誰か適切なメンバーを探してやろう」
《
「準備とメンバー集めをしてくる。五分だけ待っててくれよ」
アノンが駆け足で部屋を出たのだった。
○○○
そうして、五分も経たぬ内に全てを終えてアノンは戻ってきたのだった。
しかもとんでもない味方を引き連れて。
「彼女は、有名な双剣の遣い手───《
彼は目の前の双剣士を紹介し、これでもかと胸を張ったのだった。
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イチローくんは少し元気になってますね
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