第4話 Never Say Die. ③

◇◇◇



 もちろん問題のある人物は魔法貴族だけではなかった。

 中にはクランの名を笠に着る者や、名貴族家出身の探索者なども大勢含まれていた。そういった面倒なやからは彼らの出身組織のまとめ役へと渡され、監督は委ねられた。


 しかし、全員が全員、この短時間で文句も言わずに戦線復帰を果たすかと言えば、そう上手くはいかない。

 特に名貴族家出身の探索者はややこしいことこの上なかった。アンビッシュをはじめとした、純貴族主義の魔法貴族達も非常に扱いにくい人員であったが、名貴族出身の探索者達は特に、諌められても素直に変わることのできないプライドに凝り固まった者達ばかりであった。


 そんな扱いにくい人員の総数は、困ったことに百を超えた。


 プルミー達、バーチャス戦線を取り仕切る者達は頭を悩ませた。結果、問題児達には、必ず信頼の置けるお目付け役をあてがうという月並みな方針で、何とかフォグ討伐を続けることを決定したのだった。それ以外やりようがなかったとも言える。


 それでもあぶれた者はプルミー預かりとなり、何故か三十人以上の問題児達が大集結した、大規模パーティが誕生したのであった。




◇◇◇




 小回りの効かない三十人パーティ。

 というか、規模がデカすぎてもはやそれはパーティではなく、より正確に言うなら一個小隊であった。

 彼らを引き連れて、これまで通りにフォグの探査と殲滅を行うのは不可能ではないが、非常に難しく、非効率的であった。

 なら三十人を再度小回りの効くいくつかのパーティに振り分けるか? いや、それが無理だからこそこの様な事態になってしまったのだ。


 多くの者がそのことを理解していたが、プルミーに下手に尋ねる者はいなかった。

 彼女は《鏡の迷宮》の脅威から長い間王都付近を護り続けてきたグリンアイズギルドのトップである。自分が言わずとも、深謀遠慮の彼女には何か考えがあってのことだろうと理解していたからだ。




◇◇◇




 プルミーは、もはや均衡が大きく傾きつつあることを悟っていた。

 報告から受けるフォグの増殖の仕方が、想定を遥かに上回るものであったからだ。また、データ的にも二度ほど、急激にフォグが増殖を始めたタイミングがあった。この様な急激な増殖がもう一度、二度起これば、あっけなく均衡は崩れるだろうとも予期していたのだった。


 彼女の推測は間違えておらず、かなり的を射たものであった。


 フォグが急激な増殖を始めたタイミングというのは、ノーブルに発現した《封印迷宮》が己の存在の力をバーチャスへと大量に移動させた時期であった。より正確にいうと、一度目のタイミングはヤマダが《水晶のヒトガタ改》を葬った時であり、二度目のタイミングはオーミが《天使改》を葬った時であった。


 こういった事実を知らずとも、プルミーは、バーチャス戦線にできることは、ノーブルで《封印迷宮》に突入したオーミやイチロー達が、《封印迷宮》───ひいては《封印領域》を滅ぼしてくれるまで、何とか耐え続けることだけであると理解していたのであった。

 

 だからこそ───集めた三十人は、明日か、翌明日か、近い内に必ず来るだろうフォグの大規模な襲来に必ず役立てなければならないと、彼女は覚悟を決めた。




◇◇◇




 

 プルミーは彼らを任されたと同時に、問題児達を呼び出し、一箇所にまとめての謹慎を言い渡した。不平を垂れる彼らには、たった一つの言う事を聞かせるだけで骨が折れた。


 翌六日目。その早朝。

 問題児達を叩き起こし、ギルドの訓練所へと有無を言わさずに連れ出した。




◇◇◇





「クライン、君は確かに強い。けれど上を見ればいくらでも上はいる。もちろん私もその一人だ。だから───」



 プルミーが告げた。


 彼女の射殺す様な視線の先には、人型ひとがたの穴にボッコリとめり込み、転がるようにして横たわったクラインがいた。


「文句があるなら、私を超えてからにしてもらおうか?」


 先程まで騒ぎに騒いでいた問題児達は、プルミーの圧倒的な実力を前に、顔を青くし、言葉を失ったのであった。







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普段怒らない人ほど怒ったときは怖いですよね……

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