第3話 Never Say Die. ②

◇◇◇




 問題が露呈したのは、その翌日である五日目の昼過ぎであった。

 とあるパーティがルートの見回りを行っているときに、やけにフォグの数が多いことに気づいた。その数が余りにも異常であったため、すぐさま上層部へと報告がなされた。

 状況の変化には何か理由があるはずという彼らの考えによって、迷わずに四つのパーティが該当の場所へと送られたのだった。


 彼らは報告の場所に近づくにつれて、ことの重大さを認識した。そこには想定を超えるフォグがびっしりと存在していた。それは目的地に近づくにつれ数を増し───


 派遣された複数パーティは問題の地域へと到着し、一時間も経たない内に、もはやこれまでと同様の方針サーチ&デストロイフォグの討伐を行うのは不可能であると悟った。


 フォグの数があまりにも多過ぎたからだ。


 彼らの眼前で、そこらかしこにうようよと、不定形の化け物や骨戦士や屍人グールが蠢いていた。


 パーティのヒーラーがその光景に悲鳴を上げた。



 しかも最悪なことに、フォグの一部は既に、センセイやイチロー達の言うところの《トークン》を経て《ジェネレイター》へと至っていた。

 複数パーティの責任者は、一刻を争う状況であると認識し、メンバーでもっとも身軽であった斥候の少女に、上層部へと事態の深刻さと、フォグを殲滅するには派遣されたメンバーの五倍以上の戦力が必要であることを伝えるように言い聞かせ、その場から送り出した。

 そして、彼女以外のメンバーはその場に残り、覚悟を決めて異常な数のモンスターの討伐に当たったのであった。




◇◇◇




 斥候の少女からの報告に、プルミーをはじめとしたバーチャス戦線の上層部達は様々な反応を示した。


 プルミーは、半ばこうなると思っていたのか顎に手を当て思索に耽り、聖騎士であるネリー・バーチャスは幼少期より聞かされてきた悪夢が現実のものになりつつあることに己の身体をかき抱いた。

 ある者は、宙へと視線を移し大きく溜め息をき、またある者はこうなった原因の特定に躍起になった。


 彼らの共通見解として自信を持って送り込んだ複数パーティからの報告と要求に対し、聞き入れないわけにはいかなかった。


「ここで戦力をケチって逐次投入でもしてみろ。それこそまさに前回の二の舞いではないか」


 プルミーがみんなにその旨を伝えると、貴族集団が何やら口を挟んだ。けれどプルミー達はそれには耳を傾けることなく、すぐさま余裕がありなおかつ信頼のおけるパーティのリストアップを始め、考える時間こそが惜しいと、問題の地域へと要求された以上の戦力を送り込んだのだった。




◇◇◇




 報告に従ってかなりの人員を派遣したことで、従来のルートを見回りしている者達にさらなる負担が増した。

 このまま状況が悪化してしまえば───という最悪のケースがプルミー達の頭を過ぎったが、それでも送り込んだ人員がフォグ討伐に一段落着けば状況は以前の様に戻るのではないか、とも思った。プルミーにしては楽観的であったが、そうとでも考えないとやってられなかった。

 バーチャス戦線をまとめる役目は既に信頼の出来る者に任せてプルミー自身もフォグの討伐に当たっていた。

 この段階で既に、バーチャスでの人員に余裕はなかった。




 プルミーが自分の分担分の討伐を終え、スクルドのギルドへ戻ると、バタバタという人の走り回る音や怒号が飛び交っているのが聞こえた。


 話を聞くとどうも、報告にあった地域の見回りをしていた者達がこれまでに手を抜いていたというではないか。

 プルミーもおかしいとは思ったのだ。見回りのルートは一つのパーティがフォグの見落としをしたとしても、カバー出来るように決められたものであった。通常通りに殲滅を続けていれば、これほどまでに困難な事態になることはなかった。しかし、たった一夜明けただけでフォグが予想外の異常な増殖を果たしているではないか。


 フォグに原因があるのか、それとも見回りをしたパーティが何かをやらかしたのか、上層部も恐らくは後者でないかとは勘づいていた。


 そこまでいけば話は簡単だった。問題のルートを担当していた全てのパーティの者達から話を聞けば良かった。

 後ろめたい者達が我先にと取り繕いはしたが、百戦錬磨の有名クランを束ねる者達には通用しなかった。


 こうして、聞き取りが続けられた結果、いくつかのパーティがあからさまに手を抜いていたことと、それを扇動したのがアンビッシュをはじめとした魔法貴族達であったことが発覚した。

 その中でも、アンビッシュの有望株であるクラインは相当に酷いものであった。


 もしも日本からの転移者であるヤマダがそれを目にしていれば、長髪をすくようなポーズと共に、


「ハァイ! 腐ったミカンは取り除かなきゃいけませぇん!!」


 などと、謎のモノマネをしたに違いなかった。



◇◇◇




「どうしてこの俺様がこんな雑魚狩りなぞしなきゃいけねーんだよ」


 歳の頃でいうと16、17の少年が不貞腐れてこたえた。

 彼は上層部の猛者を前にして、ソファに全体重を掛けてどっかりともたれかかった。


「依頼だっていうからわざわざ来たのによ、来る日も来る日も雑魚狩り雑魚狩り。本当にいい加減にしてくれよ」


 彼は「かったりー」などと呟きながらテーブルにドカっと両足を乗せた。


「俺の力が必要なモンスターがいるからっつーからわざわざ遠路はるばるこんなとこに来たのによぉ! 怒りたいのはテメェらじゃねぇ! 俺の方だぜ!!」


 全く悪びれる様子のない少年は、やはりというべきか、純貴族主義集団のアンビッシュの申し子───クライン・アンビッシュであった。


「俺様を誰だと思ってんだ? あん?」


 彼の様子にプルミー達は心底から溜め息をいたのだった。



◇◇◇



 結果からいうと、クラインに反省は見えなかった。

 さらに言えば、彼だけではない。

 聞き取りは続けられ、クライン以外の組織内における危険因子が炙り出された。結果リストに挙がった者達はクライン同様にガチガチに凝り固まった思想や主義の持ち主達であり、彼らはこぞって己に非はないと言い張ったのであった。


 この時点で今回不始末を起こした者は全員を帰すべきだ、という意見が出たが、人員不足の状況がそれを許さなかった。


 結局のところ、彼らを戦力として用いなければならない、けれど更生はもちろん言い聞かせる見込みのない者達を上手く扱うにはどうすればいいか? という問題に直面したが、猛者達によって導き出された答えはシンプルなものだった。


 それは単純に、彼らを力で押さえ付ければいいというものであった。


 そうして何故か、プルミーをリーダーとした、彼ら問題児(?)達で固められた大規模なパーティが結成されることとなった。

 

 既にかなりの重責を担っているプルミーの負担は、ここから先、さらにとんでもないことになるのであった。


 



 

 

 

 

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