第12章 さよならの温度

第1話 甘くて、青い

◇◇◇



 オルフェリア・ヴェリテ。

 彼女はクラン《七番目の青セブンスブルー》所属の《剣凪ソードダンス》の少女であった。将来を嘱望された彼女であったがとある・・・事情から、クランでの活動休止を申し出、今現在では、アルカナ王国最南端の地であるボルダフにて、大商会会長の愛娘であるソフィア・ゴアの護衛の任務に携わっていた。


 ───そのはずであった。


 護衛のためソフィアの屋敷で寝泊まりしているオルフェリアであったが、その日ソフィアとラウラの二人から開口一番で言われたセリフに一瞬考え込み、


「聞いてないわ」


 とだけ応えたのだった。


「オルフェちゃん、ごめんなさい……」

「ごめんなさい……」


 オルフェリアは、やんちゃお嬢様二人から《封印領域》とやらから漏れ出たモンスターの討伐を頼まれたのであった。


「おねがーい」「オルフェさんにしか頼めないの」との二人の言葉は、完全な泣き落としであったが、オルフェリアには通じず、彼女は憮然とした表情を浮かべていた。


 それもそのはずであった。なぜなら今現在オルフェリアは彼女達の護衛として雇われているはずなのだ。

 それなのに《封印領域》から漏れ出たモンスターを退治するようにと、本来の護衛とは全く関係のない仕事を頼まれたのだ。

 そもそもの話だ。しばらくの間、この大都市を根城にし、破格の報酬で請け負った護衛をこなし、そのかたわら、探し人の情報を集めるというのが、彼女の主たる目的であった。


「私はね、何も別に引き受けないと言ってるわけじゃないの。私に話を通す前に《七番目の青セブンスブルー》から了承を取ったことを怒ってるの」


 オルフェリアは、自分でも甘くて、青い、とはわかっていた。けれど彼女達二人に対して護衛する側される側といった即物的な関係を超えた、それなりに気の置けない友人関係を築けていると思っていたのだ。

 だからこそ、己にフォグの討伐を頼む前に、己の頭をまたいでクランへと話を通したことに腹を立てたのだ。


「ごめんなさい……私が知ったときには、既に父が───いえ、違いますね。

 父がやったことは私の責任です。オルフェさん、本当にごめんなさい」


 ソフィアが深々と頭を下げた。


「はぁー」


 オルフェリアは溜め息をき、頭をガシガシとかくと、


「あーーーっ!!」


 とひとしきり喚いた。

 何も彼女は、友人のつむじを見たかったわけではないのだ。


「わかったわ。貴女の謝罪をもってこの件はもう終わりにしましょう」


 オルフェリアは懐の深い女であった。

 彼女の一言でかばりと頭を上げたソフィアと、おてんば娘には似合わない申し訳なさいっぱいの表情のラウラが、挟み込むようにオルフェリアに飛びついたのだった。


「ありがとうございます」


 そう静かに告げると、ガシッとオルフェリアの腕を抱きしめたソフィア。


「辞めちゃうかと思った」


 心情を吐露し、ひーんひんひんと涙を流すラウラ。


 オルフェリアは今日何度目かになる溜め息を自然といた。けれどそれは決して嫌な感情から出たものではなかった。







────────────

オルフェリア参戦決定!…というお話でした。

短いけど許して。

それからサポーターの皆様、アンジェリカの過去話③を近況ノートに掲載しておりますのでよろしければそちらを一読お願いします。

これで、プルミーさんのお話に繋がります。

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