第19話 vs 《封印迷宮第四階層守護者α》①
○○○
突き立てられた千剣の荒野に
端正な顔立ちの金髪の男性だった。彼の装備は俺と似たような物であった。一目でそれなりに業物だとわかるプレートなどで、動きを阻害しない程度に急所を守っていた。
「久し振りですね」
男は俺達へと軽く手を上げた。
『いったいどちら様でしょうか?』とは聞かなかった。聞かずともわかったからだ。
「そっちこそ久し振り」
まるで久方ぶりに顔を合わせた旧友のように俺達は軽く挨拶を交わした。
これほどまでに攻撃的な剣気の持ち主を俺は一度しか見たことがなかった。エリスもようやく思い当たったのか───
「まさか! 貴方はあのときの龍骨剣士か───!!」
驚愕の声を上げたのだった。
「ふふ。ようやくわかりましたか。僕の
エリスが気付けなくともそれは何も不思議なことではなかった。俺達は彼を龍骨剣士と呼んでいるが、彼の身体はかつて《刃の迷宮》で
「何ですか? 僕の身体が気になりますか?」
彼の態度は気安く、まるで知人に接するときのようだ。
「当然だろ。そのバカみたいな剣気がなければ、あのときのアンタと今のアンタが同一人物だと言われても、俺は信じなかったろうよ」
俺の返答に、龍骨剣士が「ふむ」と相槌を打った。
「それもそうですね。けどそれはともかく、僕のことは《
その名前には聞き覚えがあった。
とある小さな街を一宿一飯の恩義で、超災害級モンスターである《
元々は侮蔑から《
「《
彼の話は聞いたことがあった。
元々彼はスキルを持たない人間であった。しかし彼は周囲からの嘲りや苦難に屈することなく、スキルに頼らずにひたすらに剣を磨き続けた。常軌を逸した訓練の果てに、やがていつしかマスタークラスの剣士となった彼であったが、ある日、神のいたずらか、彼を伝説の剣士たらしめることになる
「僕が《
つまり、彼と戦うには純粋な戦闘能力のみが要求される、ということだ。
「本当の僕はもうこの世には存在していません」
彼がどこか唄うように語り始めた。
なら、ここにいるアンタは───という俺の心情を読んだかのように彼は続けた。
「ここにいる僕は迷宮が産んだコピーに過ぎません」
コピー? 自我だってあるし───
「自我なんてものは大海をたゆたう小舟みたいなものです。僕の自我を含めた情報は───」と話したところで《
「セキュリティが掛かってるのか、あまり詳しくは話せません。けれど、まあ、僕の持つこの剣と───」
彼は自身の剣を掲げた。星明かりに照らされた彼の剣は俺のグラムにそっくりであった。
「───君の持ってるそれは同一の剣です。どちらも僕が愛用してた魔剣グラムのコピーに過ぎません」
俺の剣の方がより黒を基調にしているという点───つまり色合いが若干違うという点を除けば、確かに全くの同一の剣であるように思われた。
「どちらも魔剣グラムではややこしいので、僕が名前を付けてあげましょう。どちらも偽物ということですから……僕のグラムは《グラムコピー》、君のグラムは《リプリントグラム》───でどうでしょう?」
「『どうでしょう?』って言われても、別にそれで構わねーけどよ……」
名前がややこしいので、黒グラムと白グラムでいいじゃん……というのは野暮か。
「まあ、そうですね、僕がオリジナルのコピーに過ぎないというのは、同じ剣が二本存在することからもわかってもらえたと思います。
そういうわけで、前回の僕に関して言えば、迷宮が、『僕が倒した《
俺達に説明してるのか、それとも自身に語りかけてるのか、彼の飄々とした語り口からはもはや判別がつかなかった。
「今回もまた、迷宮が僕を呼び寄せようとするから、今度はあんなブサイクな身体じゃなくて、何とか僕自身の身体で現れてやりましたよ」
彼がしてやったりといった調子で笑った。
「そして僕が君達二人をこっちに呼んだのには理由があります。ちっこい嬢さんは前に僕を倒しましたからね。そっちの少年は当時のお嬢さんより明らかに優れた使い手でしたし」
彼から放たれた剣気がさらに凄みを増した。
「まあ、そういうわけでそろそろ始めましょうか」
彼は剣を俺達に向けた。
「どちらからでも構いません! さあ!」
どうも彼は一対一をご所望のようであった。
○○○
「私にいかせてください」
エリスが俺へと頭を下げた。
「私は、この《封印迷宮》にて、雑兵の露払いしか果たせておりません……」
俺は黙って彼女の話に耳を傾けた。
「それはもちろん、私の実力不足がゆえのことですが、それでも私は、《封印迷宮》攻略の一助となりたいのです。その機会を今一度、私に与えてくれませんか」
単純に手柄を立てることに躍起になってるのなら断っても良かった。けれど彼女からはそういった浅薄な様子は見受けられなかった。それどころか彼女は何かに思い詰めているようだった。
「わかった。剣聖殿に任せる」
俺の返答に、
「任せてください」
彼女は張り詰めた表情で応えたのだった。
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