第15話 ぺいっ

○○○



「先程三人で話し合いました。封印迷宮の攻略が可能であるなら、誰が攻略しようと構わないという結論に至りました」


 それこそが彼女達が俺達を待っていた理由だった。告げたのは聖女ミカだ。

 はっきりと『一緒に扉を開けましょう』と言えばいいのに、遠回りな提案だと思った。

 俺は聖女ミカをじっと見た。

 こんなにも彼女の顔を直視したのはいつぶりだろう。

 彼女は怯むことなく、俺から目を逸らさなかった。

 アンジェに目を向けると、彼女は帽子のつばで目元を深く隠した。

 そしてエリスはずっとうつむいたまま顔を上げることはなかった。


「二人はどう思う?」


 アシュとセンセイに尋ねたものの、答えは聞かずともわかっていた。

 俺の心情を理解しているかのように、二人はただ単に頷いてみせた。


「貴女達の意見に了承したい。準備が終わり次第、一緒に扉を開けよう」


 三人へ向けて、俺はそう答えたのだった。



○○○



 いろいろと渦巻く感情を飲み込みつつも、俺は再度腹ごしらえをはじめとした、ボスへのアタックの準備をこなし、全員が戦闘準備に入ったのを確認し───


「いくぞ」


 扉を両手で押し、部屋へと足を進めたのだった。

 室内は完全な闇であった。


「おい! みんな! 気をつけろ!」


 みんなへと注意を促しながら、光魔法で灯りを付けるも───


「センセイ! アシュ!」


 二人からの返事がない。


「ミカ! 結界を張って身を護れ!」


 しかし返事はない。


「アンジェリカ! 万が一に備えて《超複数断層氷結結界ミルフィーユ》の詠唱を始めろ!」


 何故かみんなの気配が読めない。


「エリス! 何が来ても不思議じゃねー! 構えを解くな!!」


 相変わらず誰からも返事はなく───そしてしばらくすると、遥か前方に強烈な光が生まれた。呼び掛けに応えないメンバーを気に掛けつつも、仕方なく俺はじりじりと歩を進めた。


 光の元へと到達すると、そこで一際強烈な光が発生した。俺は堪らずに目を閉じた。しかしそれもしばらくすると収まり、やがて恐る恐るまぶたを開けると───


「あーっ! やっぱりだよ! クソッタレ!」


 辺りを照らすのは月明かりと星空だった。

 俺の視野に広がったのは終わりの見えない荒野───それも、無数の剣が突き立てられた荒野だ。


 センセイやアシュどころか、ミカ達もここにはいない。けれど分断された向こうにセンセイがいてくれるから安心か───と考えたところで背後に一つの気配を感じた。

 一瞬でグラムを抜いて背後の気配にそれを突き付けた。


「───聖騎士ヤマダ殿」


 グラムを喉に突き付けられ、声を漏らしたのは、いったい全体どういうわけか、剣聖エリスその人であった。

 










◇◇◇








 彼女は、能力のほとんどを温存したまま、ここまで封印迷宮攻略できたことに、確かな手応えを感じていた。

 前回の失敗を糧にし、彼女は成長を重ねてきた。対策を広めることにも成功した。

 対策は、丁寧で迅速なフォグの討伐という単純なものであったが、それこそが《封印領域》を滅するための最重要案件であった。その事実を知らなければ、間違いなく人類は再び悠長な対応を採っていただろう。その場合、今頃は人々はフォグの群れに飲み込まれ、前回の《封印領域》の二の舞───どころか、亡国の事態にも発展していたはずであった。


 それでも彼女は《天使改》との戦闘を終え、《封印迷宮》に脅威を感じていた。

 このまま戦闘を続けていけば、自分はともかく、五人が無事で乗り切れるか確信を持てなかった。

 だから犠牲を最小限にするためにも、前回のボス部屋同様、今回のボス戦も、最悪の場合自分一人で処理してもいい、そんな決意を固めていたのであった。


「我がおるから、ぬしらは緊張せんでいいからのう」


 彼女は落ち着かせるように皆へと声を掛け扉をくぐったが、すぐさま周りから他メンバーの気配が失せたことに気づいた。視界を確保するために仕方なく光の球を呼び寄せると、視野の先にある強烈な光を見つけた。

 そこに駆け出したが、その先で───


「なん……じゃと……」


 彼女───センセイは戦慄わななき、声を漏らした。

 彼女の辿り着いた場所は、四階層ボス部屋とはほど遠い、まさに《封印迷宮》の入口であった。







─────────

これにて今章は終わりです。

数話インタールードを挟んで封印迷宮攻略に戻ります。


わたくしごとで恐縮なのですが、

『聖騎士の俺が〜』のコミカライズ最新話をマンガBANG様にて掲載しております。

今回は作者お気に入りのあの美少女が初登場するお話だったりします!

よろしければ一読お願いします!

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