第14話 彼女を信じている 

○○○



 アシュが勇者パーティに探索の再開を告げに行き、その間に俺は、テキパキとテントを片付けていた。

 アシュが何やら彼女達と話し込んでいたが、しばらくすると戻ってきた。


「彼女達から先に行かせて欲しいと頼まれた。今回の先行に関しては、自分達が先に迷宮攻略を成し遂げたいからという理由ではないのだと、お願いだからと、頭を下げられてさ───」


「いいよ」


「私は君達の話も聞かずに勝手に彼女達に───ってええっ!!」


「別に構わないよ。あいつらにはあいつらの考えがあるんだろ。俺にはそれが何かわからんけど、まあなんか理由があるんだろ」


 彼女達を無条件で信じる───なんてことは俺には出来ない。そんな俺でも信じられることはある。

 それは彼女達の実力だ。

 ボス戦では散々だったとは言え、彼女達三人の実力がずば抜けていることは誰が見ても明白だ。


 だからといって、俺が了承したのはそれだけが理由ではない。


 何より、彼女達に先行させる提案に頷いたのはアシュだ。彼女には三人を信じるにたる何かが見えたのだろう。俺はアシュを信じている。だから、勇者パーティの三人が再び先行することにも、納得している。もしもその結果、それが誤りであって、三人が俺達に刃を向けてきたとしても、俺は後悔をしない。



◯◯◯



 アシュが先行を了承したことを伝えると、勇者パーティ三人は、四階層へと降りていった。

 しばらく時間を空けてから、彼女達の後続として四階層に降りた俺達であったが、どこまでも代わり映えのない景色は相変わらずで、サーチアンドデストロイをしながらも、無味質素なダンジョンを歩き続けた。


 雑魚を倒しても倒しても終わらないダンジョンを歩き続ける。本当にもう、うんざりなほど歩き続ける。揺蕩たゆたう思考の中で、ふと、先を行く彼女達三人は大丈夫だろうかという不安が頭をよぎった。


 けれど蛇蝎だかつの如く嫌われている俺が「おい、お前達、大丈夫か? 調子はどうなんだ? お腹空いてないか? ほら飴だよ」などと声を掛けようものなら、罵詈雑言が飛んでくるに決まっているのだった。それなのに、あいつらのことを考えてしまう俺は、どうしようもなくバカなのだった。


 俺が悶々としていると、隣でセンセイがうんざりした様子で、空気を抜いてる最中の浮き輪のような溜め息を漏らした。


「オーミさん、こんなとこで気を抜いちゃ駄目だ。少しの気の緩みが命取りになることもあるんだから」


「ふぁっ!? すまぬ!!」


 アシュの言うことはもっともであった。しかしセンセイの気持ちも非常にわかる。歩き初めてからもう何時間になるだろう。とうに俺の時間感覚は消え失せ、時計型の魔導具がなければ今がどのくらいの時間なのかがわからないほどであった。しかし俺にもピンチが訪れる。うっかりあくびをしてしまいそうに───


 あかん! アシュに怒られてしまう!

 こうしてあくびを噛み殺しつつも、長らく戦々恐々としていた俺は閃いた。

 そうだ!! こういうときはトークするに限るんだぜ!! 


「センセイ」


「ひゃんじゃあああぁぁ」


 目だけはキリッしていたセンセイだったけど、あくび堪えた猫の様な顔は誤魔化しきれなかったようだった。


「センセイ……まあ良いんですけど、それよか、センセイは俺以外の転移者と会ったことってあるんですか?」


 アシュも既に俺が転移者である第四の聖騎士ということを理解しているので、俺は話をぼかすことをやめていた。


「おー、この時代に転移された者はぬし以外知らんが、これまでには何人かうたことがあるのう」


「へぇー! やっぱりあるんですね! どんな人だったんですか?」


「どいつもこいつもずば抜けた戦闘能力の持ち主だったよ。特に転移勇者はとんでもない数のスキルを持っててのう。あやつらがおらなんだら、この世界は幾度となく滅びておる」


 センセイが遠い目をした。

 その表情は何かを懐かしんでいるようであった。


「いろんな奴がおったな。《護剣リファイア》の名付け親も転移者だったし。他にも、我がうた中で《舞台》というレアなスキルを持っておった奴は特に一風変わっとった」


《舞台》というスキル? 割と持ってる人が多そうだけど……勇者パーティの舞台をやってた人達なら持ってても不思議ではないような。


「なんじゃムコ殿、不思議そうな顔しおって。話は最後まで聞けぃ。大事なところはこれからじゃ。そもそもあやつがこの世界に転移してきた頃じゃが、舞台なんてものはこの世界には存在せんかったのよ」


「つまり……、この世界に存在しない概念に関するスキルを持ってたってことですか?」


「そうよ。まさにその通り。だからの、あやつは、『舞台のないこの世界に《舞台》というスキルを持って召喚されたことは、自分に与えられた、この世界に舞台という文化を根付かせるという使命なんじゃないか』って言っておった。腕っぷしはもちろんとんでもないものがあったが、あやつはモンスターを倒すより、向こうの舞台の再現と、それを広めることの方に尽力しておったよ」


 俺もこの世界で舞台を観たことがあった。

 俺が超絶ディスられていた舞台であり、嫌な思い出ではあったが、純粋に舞台としてみたとき、その出来は素晴らしいものだった。


「俺も観ましたよ。魔法を使った演出なんかもよく考えられてて見応えありましたよ」


 光魔法をはじめとした様々な魔法を駆使した、視覚や聴覚にダイレクトに訴えかける良い演出であった。


「今ある舞台の演出のほとんどはあやつが創ったもんなんじゃよ。いつも『向こうの世界の舞台と魔法との融合を果たしてみせるわ』と息巻いておった」


 ふと、疑問がよぎった。

 その《舞台》スキル持ちの勇者は地球に帰ったのだろうか? それとも───


「ようやく、かのぅ」


 先行した三人の気配が、止まった。

 先程と同じ───彼女達はこの階層のボス部屋の前へと辿り着いたのだ。

 俺達は足早に彼女達の元へ急いだ。







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わたくしごとで恐縮なのですが、

本日『聖騎士の俺が〜』のコミカライズ最新話をマンガBANG様にて掲載しております。

今日は作者お気に入りのあの美少女が初登場するお話だったりします!

よろしければ一読お願いします!


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