第9話 vs 《封印迷宮第三階層守護者》①

○○○



 かつてをなぞるようであった。

 ボス部屋の重々しい扉を開けるとそこには───目の眩むような光を纏まとった女性天使型モンスターがいた。

 そいつはばさりと純白の翼を羽ばたかせると、優雅な笑みをたたえた。


 こいつは───《光の迷宮》のボスか?

 けど何だか羽がちょっと……いや、かなり違うような……?


「センセイ! アイツと戦ったことがあります!


 俺は一気に、そして簡潔に伝える。


「アイツは触れることはできますが、物理攻撃を無効化します。光属性も完全に無効化します!」


 防御面だけでない───真に恐ろしいのはその暴風の様な攻撃性能だ。


「近距離戦では達人級の肉弾戦を、そして遠距離戦ではミカの結界を容易く破壊するほどの貫通性能の高い羽を無数に飛ばしてきます!」


 これが知ってることの全て───


「ふむん。仔細把握した。ぬしら、大船に乗ったつもりで菓子でも食いながらゆっくりしておれ。我に全てを委ねればよし」


 センセイが不敵に笑ってみせた。


 おおー! やっべー!

 頼もし過ぎる!

 センセイカッケー! やったぜ!


「《いわお》」


 センセイの声に従い、空間にぽっかりとした真っ黒な穴が空いた。彼女はそこに手を突っ込み何やら取り出してみせた。その正体は先程も見た《短剣》であった。


「こやつは我のお気に入りの一つでな」


 何だかわからないけど凄そうな武器だった。

 どう凄いのかはわからないけど。


「参るぞ」


 悠々と歩を進めるセンセイ───その神々し過ぎるたたずまいに後光が射していた。

 相対する《天使(?)》はセンセイを甘く見ているからか、はたまたそういう仕様か、センセイが己のテリトリーに入るのを待った。


「こやつの所持者として、化物───おぬしに待ち受ける未来を教えてやろう」


 センセイが言い切ると同時に《短剣》で空間に光の残滓を残し何らかの記号を描いた。

《天使(?)》が警戒するも───もう遅い!!



「《光龍の遺産オセル・シフト・フィッシュ》」



 センセイが力ある声を発した。

 それと同時に彼女が空間に描いた記号から目も眩まんばかりの《光の龍》が飛び出し、そいつは大顎を開くと、《天使(?)》のか細い肢体を粉々にせんと鋭く巨大な牙を剥いた。



○○○



光龍の遺産オセル・シフト・フィッシュ》───センセイが先程、フォグを一掃する際に用いていた技であった。


《遺産》、《継承》、《生まれ変わり》の意味を持つルーン文字である《オセル》───こいつを時計回り90度に回転させることで、センセイは通常の《オセル》の図形に《魚》の意を与えた。

 本来の意のもとに、爆発的な成長を遂げた魚は《龍》へと生まれ変わり、まるで芝刈りゲー並の勢いで《天使(?)》を飲み込んだのだが───


「だから、言ったでしょセンセイ!! このおバカ!!」


 光属性無効───センセイの繰り出した光の龍は《天使(?)》をすり抜け、「ぐぎゃああああ」なる悲しき咆哮と共に姿を消したのだった。南無。


「なん……じゃと……?!」


「『なん……じゃと……?!』じゃないんですよ!! 何カッコつけてんですか!! 俺が光属性無効だって言った側から光属性プッパするだなんて! 何やらかしてんすか!!」


「今のは…………うむ、小手調こてしらべじゃ」


 その間は何ですか! というセリフをぐっと飲み込んだ。俺とセンセイが馬鹿なやり取りをしている間に、《天使(?)》が両手を広げ───いわゆるすしざんまいポーズをとった。その輝かしい体躯が浮かび上がり───の敵の羽が───羽がッッ!!───ジャキンジャキンジャキンッッ!! と広がった───よく見るとその羽はどこか機械的で───つうかこれ機械か───ッッ!!


 機械羽が《天使(?)》の背中から計十二のパーツへと分かたれ飛び出した。そいつはあまりにも俊敏に、そして精密緻密な動きで、ピユンピユンと宙を飛び回り、まるでどこかで見た遠隔操作兵器の如く、センセイへとオールレンジからビーム(!?)を雨霰の様に浴びせたのだった。


「ビャあああああああぁぁぁぁ!!」


 センセイの叫び声が響いた。

 

 

○○○



 やっぱりだった。

 以前闘った《天使》よりも、今センセイと相対している《天使》の方が強い。

 以前戦った《天使》の羽は、純白の鳥類にも似たものであったのに対し、目の前の《天使》のそれは、スーパーロボットものアニメに登場する、物語後半に出てくる主人公専用発展機じみたものとなっていた。

 言うなればこいつはただの《天使》ではなく、もはや《天使改》なのだった。

 あかん!! 世界観壊れるゥー!!


 それはともかくとして、無数のビームがセンセイに炸裂し、煙を上げていた。それでも《天使改》は追撃の手を緩めることはなく、《機械羽》を忙しなく制御し、これでもかとセンセイへとビームを発射し続けた。


 やべーよ! やべーよ!

 フレームを把握しないと攻略不可なクソ弾幕ゲーも裸足で逃げ出すようなビームの弾幕であった。爆風でたまらずに目を閉じた。これじゃあ近づけない!


 前回の《羽》ですらミカの結界に穴を開けたのだ。あの数のビームが当たったら……と背筋が凍るのを感じた。

 しかしそれでも、センセイの結界が破られる前に、一刻も早く助けに行かなきゃと、俺が覚悟を決めたところで、


「《イサ》」


 センセイの厳かな声が響いた。

 それ共に、宙に刻まれた《ᛁ》の文字が鈍い輝きを放った。







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