第14話 世界の終わり、あるいは始まり

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 いつだったか、学校の先生が言っていた。

 新大陸を目指したコロンブスの船が、アメリカ大陸に辿り着いたときのエピソードだ。


 彼らの船が島に近づくのを見た先住の人々は、"世界の終わり"を感じたのだそうだ。


 何を大袈裟な、と思うかもしれない。

 けれど彼らにとって、"世界の終わり"とは"彼らのコミュニティの終わり"であった。

 

 つまり彼らにとって"世界"というのは、彼らの"コミュニティ"であり、それが彼らにとっての"全て"であった。


 だから未知の脅威に触れた彼らは"世界の終わり"を予感したのだった。



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 俺達は《封印迷宮》の内部を進む。

 内部は予想通り、外から見たものとは明らかに違っていた。

 洞穴や洞窟といった原始的な入口とは異なり、内部に足を踏み入れると、石造りの通路に壁面───のように見えるが実質それは謎の物質によって構成された石のようなもの───そしてどこまでも続く広大さがあった。


 しかしどうも、センセイに以前から聞いていたはずの《封印迷宮》とは様相が異なっている。

 本来ならば迷宮から溢れ出るはずの屍人グールも骨戦士も姿形さえ見えなかった。その静けさは異様ですらあった。



◯◯◯




 なるほど自分達の生活圏こそが、この世の全てという彼らの考えは、よくよく考えてみると少しもおかしなことではない。


 彼らはコミュニティの終わりに世界の終わりを感じた。それと同様のことは、俺達の日常生活でも言えるのではないか。


 コミュニティという単位をもっともっと小さい極小の単位───すなわち自分に落とし込んだとしても、終わりの感覚は成立し得るだろう。


 極端な話ではあるが、学生であれば、テストで赤点を取り、留年が決まったとなれば、世界が終わったように感じるだろうし、社会人であれば、取り返しのつかないミスをしたとき、世界が終わったように感じることがあるかもしれない。


 俺達人間は、何をしたところで自分以外の視点を持つことはできない。

 もちろん、人の視点を想像することは可能だ。けどそもそも、俺が他者の思考を想像したところで、それはどこまでいっても俺という存在が想像しているに過ぎず……"俺"が"俺"である限り、"俺"というフィルターを外すことはできない。


 俺は俺の人生を生きている。

 誰かにとっての人生の終わりが、そいつにとっての世界の終わりであるのと同様に、俺にとっての世界の終わりは俺の人生の終わりである。



◯◯◯



 敵に遭遇しないまま、結局広大な一階層を歩き切り、下へと続く階段が発見した。

 階下へ降りると、そこも一階層と同様に化け物がいない───と思ったところ、何やら前方から戦闘の音が聞こえた。


 音から察するにそれほど激しい戦闘ではなく、しばらくすると静けさが戻った。



◯◯◯




 俺はあの日、確かに世界の終わりを感じた。


 何度も裏切られ、隠れ山にて倒れたあの瞬間、俺は死に触れた。


 精神、肉体、共に極限にあった俺は、確かに世界の終わりを感じたのだ。




◯◯◯



「ムコ殿にアシュ、気付いたか?」


 センセイが俺達に問うた。



◯◯◯




 俺の世界は、セナのお蔭で再構築された。




◯◯◯



 あの三人・・・・の気配に気付かないわけがない。

 それはアシュも同じようで、彼女の表情がこわばったのがわかった。


 特にその身体の内に、抑えようにも抑え切れないほどの清浄なる魔力───聖力とさえ呼ばれるそれを秘めた女性を、俺はこの世界に一人しか知らなかった。


 しかしここで止まるわけにはいかない。

『南無三』と心の内で呟くと俺は先へと進んだ。

 そして、その先には、やはり俺達の予想通り───




◯◯◯



 世界が滅ぶのは、あまりに簡単だ。



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「貴方は───」



 俺達を見た三人・・の内の彼女が発した。



◯◯◯



 だからこそ今、この瞬間が───

 世界の終わり、あるいは始まりなのだ。









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レビューをくださった方と、ギフトをくださった方に近況ノートにて感謝を述べさせていただいております。よろしければ一読を……。

サポ限の方でアンジェリカの2話目をお読みでない方はよろしければそちらも……


今回のお話で今章は終わりです。

次からはみんな大好き竜宮院さんのお話となります。よろしくね!

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