第4話 宰相④ / 剣聖の謝罪

◇◇◇



《連絡の宝珠》と映像の魔術機を組み合わせることで、遠距離にいても、顔を合わせての会話が可能であった。


 そしてこの度、確実に攻略してみせると豪語した挙げ句、無謀な《時の迷宮》攻略に失敗し、たったの一階層にて、メンバー全員を死の危険に合わせ、一矢報いることなく逃げ帰ってきた勇者パーティとの会談が行われることとなった。


 会談の面子は、勇者パーティ、《アトラス》と《愛をこめて花束をシェリィ・フルール》という大手二大クランのマスター、レモネギルドのバレン、そしてアルカナ王と宰相たるマディソン───そしてよりにもよってパフィ姫であった。



◇◇◇



 宰相は開いた口が塞がらなかった。

 いや、それは、二人のクランマスターやバレンにとっても同様だったろう。

 彼らの目の前に写し出された映像には、勇者と、その隣には剣聖エリス・グラディウスがいた。


 会談が始まるやいなや、勇者は、


「はやくしろよ、これだけの人が君の行為を待ち遠しくしてるんだ。そのスカスカな頭でも下げることくらいは出来るだろう」


「わ、私は……」


 彼の言葉に剣聖エリスが困惑と哀しみと悲壮さがないまぜになった表情を浮かべ喉を震わせた。


「あーー!! もうっ!! 僕がやれと命じたことってそんなに時間がかかることかな!? こっちは棒を振るしか能のないお前と違ってケツカッチンなんだよ! おい! いい加減にしろよ!!」


 竜宮院は彼女に何かを指示し、まくしたてるようにがなり声を上げた。

 その場の者達は何が起きているのか首を傾げたが、彼女に与えられた命令の内容───それが何だったのかすぐさま明らかになった。


 エリスは、その場にくずおれる様に、両手両膝、その額までもを地に着けた。


「この度の、迷宮攻略失敗の責と、勝手に指揮を執り合同メンバー全員を危険にさらした責は、全て、私に、あり、ます。私ごときの頭で、足り、ると、は、思いませんが、どうか、お許しください」


 彼女は嗚咽を漏らし、震える声で謝罪を果たしたのであった。


愛をこめて花束をシェリィ・フルール》のマスターが悲鳴を上げた。


「あ、あ、今すぐにッッ!! やめさせなさいッッ!」


◇◇◇



 強烈な謝罪を繰り出され、出だしからペースを挫かれた二大ギルドは、勇者パーティへの責をこれ以上問わないこととなった。


 この成果は、剣聖エリスによる目を覆いたくなるような謝罪のみによって果たされたわけではなかった。


 パフィ姫が弁舌を振るった成果だ。

 元々学問へと傾倒し、政治のみならず魔術理論の構築などにも精通する稀代の才女たる彼女である。その能力を遺憾無く発揮し、クランマスター顔負けの弁護能力を発揮し、勇者を擁護したのであった。


 国としては、これで良かったのかもしれない。けれど、勇者の愚かな振る舞いと、色恋にあまりにも盲目なパフィ姫は───今回の件はマディソン宰相からすると非常に大きな失点であった。



◇◇◇




 エリス・グラディウスが幼い頃、父親に連れられて、王城の訓練場に顔を出すことは少なくなかった。


 マディソン宰相も、忙しい時間を縫いつつ、訓練場へと顔を出し、土産と共に騎士団の尻を叩きにいくことがあった。


 そういうわけで、彼は、エリスとは自然と顔見知りになり、己の娘と近しい年齢の彼女のことを非常に可愛がっていた。寝惚け眼ねぼけまなこを擦るエリスを騎士団員に笑われながら背中におぶったり、ちょうどお腹が空いたという彼女を食事処まで連れていき二人して甘味を食べたりもしたのだった。


 ───まーちゃん


 まだ幼い故に、『マディソン宰相』と言葉に出来なかった彼女が口にした名前であった。

 親である騎士団長は平身低頭謝罪していたが、不思議とエリスからそう呼ばれるのは悪くなかった。


 宰相は、十歳を過ぎた頃から活躍し始めた彼女の理解者であり、ファンであり、何より、もう一人の親のようなものであった。


 彼女の苦悩は知っていた。

 力になれず無力を感じていた。

 だからこそ、彼女が勇者にスカウトされ、無事に力を伸ばし、比類のない活躍したという話を聞いたとき、我がことのように喜んだのだ。


 それが、


 ───この度の、迷宮攻略失敗の責と、勝手に指揮を執り合同メンバー全員を危険にさらした責は、全て、私に、あり、ます


 地に頭を擦り、震える声でそう言ったエリスを思い出した。


 ───私ごときの頭で、足り、ると、は、思いませんが、どうか、お許しください


 マディソン宰相は一人で部屋にこもり「どうして……」と抑えることの出来ない涙を流したのだった。

 ここで勇者の失点は、挽回が不可能なところに達したのだった。






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