第6話 陽キャ孔明(自称)②
◇◇◇
竜宮院は勇者パーティの三人と待ち合わせていた。場所はレモネギルドの一室である。
彼はギルド内に部屋を一つ借りていた。
施設内にイチ個人が部屋を借りるというのらおかしな話であったが、「そんなことは関係ないね」とばかりに、彼は一銭も払わず、この街にいる間はいつだって自分の好きにして良いという条件でその部屋を借り受けていた。
目が飛び出るような横暴さではあるが、レモネギルドのマスターを務めるバレンは、竜宮院からの圧力の前に、泣く泣くそれを認めたのだった。
しかし当の竜宮院はそうすることが当たり前のことだと思っていた。というか、むしろ逆に『英雄を率いし勇者が使ってやってるんだから感謝しろよな』とすら考えていた。
うーん、面の皮が厚い。
しかし、『新造最難関迷宮を攻略するため』という御大層な大義名分を唱えて、バレンからもぎ取った部屋であったが、悲しいかな用いられることはほとんどなかった。用いられるとしても、これまでパーティメンバーへと迷宮攻略について相談するときに数回利用された程度であった。
◇◇◇
竜宮院はギルドの自室(?)の扉を開けた。
そこには、座りもせずにその場で
その様子に彼は満足し、満面の笑みを浮かべた。
「待たせたかな?」
髪をかき上げて声を掛けた。
そのセリフほど無益なものはない。
正確な待ち合わせ時間を、既に三時間は過ぎており、待ち合わせの予定より相当前から待っていた彼女達は、非常に長い時間をそこで無為に過ごしていたのだった。
しかし竜宮院の問い掛けに、
「いいえ、今こちらに到着したばかりです」
「私も! 今来たとこ!」
彼女達は気遣いと微笑みを見せた。
たまらないっ! たまらないよぉぉぉ!
彼女達の
彼女達はトロフィーだ。
それも最高級のトロフィーだ。
三人はこの世界の全ての人間が称賛する英雄であり、憧れの対象なのだ。
そんな彼女達が自分を心から慕いご機嫌を伺っているではないか。
そう考えただけで竜宮院はまさに『頭がフットーしちゃいそうだよぉぉ』状態になるのだった。
彼は取り繕うように「まあ立ち話もなんだし座りなよ」と彼女達へと上辺だけの気遣いを見せた。それに対して、
「まあ、勇者様はお優しいですわ!」
「さすが勇者様!」
ミカとアンジェリカが褒めそやした。
竜宮院はそのことにさらに気を良くしたが───彼女達の隣の剣聖少女がどこか心ここにあらずなのを見て、興奮が覚めていくのを感じた。
「力しか能のないチビゴリラはこれだから困る」
竜宮院は眉を
その言葉を受けて俯いたエリスに、彼は多少の溜飲を下げ、何とか気を取り直した。
「そんなことよりも今日集まって貰ったのは───」
彼はようやく今日のテーマを話し始めたのだった。
呑気なものだった。
王都にいる宰相の怒りは、今この時点でピークに達しようとしていた。
ここから彼が、もう少し慎みを持って、もう少し思慮深い行動を取っていれば、物語は大きく姿を変えたはずであった。
◇◇◇
今回の話し合いのテーマはずばり『剣聖エリス・グラディウスが聖剣を使わなかったこと』である。
「『使えなかった』んじゃなくて『使わなかったんだろう』?」
竜宮院は
「無理というのは、途中でやめてしまうから無理になるんだよ。途中で剣を抜くのをやめなけば無理ではなくなるんだ」
悪しきブラック企業の教えにも似た精神論オブ精神論であった。
「ここで聖剣を抜け」
「でき、ません」
「良いから抜けよ」
「勇者様、本当に抜けないのです!」
「俺がッ!! この勇者がッッ!! 優しくしている内にさっさと抜けッッッ!!!」
竜宮院が甲高い奇声を発した後、隣の二人に顎で指示を出した。
「エリスさん、勇者様のご命令です。こればかりは仕方ありません」
「そうよ、単純な話よ。抜いちゃえばいいのよ。何かあっても私達がいるから問題ないわ」
二人も竜宮院と同様に、エリスへの圧をさらに強めた。
「うう、う」
呻いて、震える様に柄を握り締めたエリスであったが、彼女は意を決し、
「ああ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
叫び声と共に聖剣を一気に抜き放ち───鼻血と、そして血を吐きそのまま意識を失ったのだった。
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