第5話 陽キャ孔明(自称)①

◇◇◇



「ありがとうね」


 彼───竜宮院王子は自分のグループに入れてやったオタク少年から借りていた小説を返した。

 そのオタク少年こと斎藤栄助───彼は竜宮院達と友人として付き合うようになってから、一気に垢抜け、ショタ好き属性の女子生徒達から急激に支持を集めた。



「読んでくれたんだ! 早かったね! 昨日貸したばっかりだったのに!」



 斎藤栄助は、自分の憧れである竜宮院が、己の趣味を共有してくれたことに、目を輝かせ、捲し立てるように語り始めた。「貸してくれないかな?」と頼まれたので貸したが、心のどこかで、それは竜宮院の社交辞令に過ぎないのではないかと思っていたので、実際に読んでくれるとは夢にも思わなかったのだ。



「主人公のキリヒトには憧れちゃうよね!

 ぼくは今、異世界転移ものや異世界召喚ものにハマっててさ、やっぱり彼ら主人公には自己投影しちゃうよね!」



 竜宮院の目の前で熱弁している斎藤栄助は、いわゆるオタクという人種であった。

 また彼は、学生ながらそれなりに知られたゲーム大会の上位に顔を出すほどのゲーマーであった。それにPCの操作はお手の物で、ボカロで曲を自作したり、他にも竜宮院には理解出来なかったものの、プログラム言語がどうとかこうとか、とにかく、竜宮院にとって未知の分野での有能さを誇る少年であった。

 


「ああ、中々面白かったよ。異世界に召喚されて、反則級の強さを得て、無双。フィクションだけれども、実際に自分がその立場になったら気持ち良いだろうね」



 竜宮院は嫌な顔を一切見せずに微笑みを浮かべたまま斎藤栄助に共感の意を示した。



「竜宮院くん……ステータスオープン!! なんちゃって」



 気持ちの高まりを押さえきれずに斎藤栄助が作中のキャラの物真似を始めた。


「まったく……」


 竜宮院は呆れ顔を見せつつ、


「君は本当に何をしているんだ……ステータスオープン!!」


 などと調子を合わせ、二人して笑い合ったのだった。 



 それはいわるゆ学生二人の微笑ましい一幕にも見える。

 しかし実情は全くの別物であった。

 竜宮院にとって何より大事なのものは己の利益である。だから斎藤との付き合いは、いわゆるその分野の知識が、これから先に出会うかもしれないオタク属性を持つ人達とのコミュニケーションツールとなり得るかもしれないという損得勘定によるものだった。

 つまるところ、竜宮院にとって斎藤栄助とのこのようなやりとりをはじめとした、付き合いの全ては、そしてそっち・・・方面の知識を手に入れるための労力や時間のその全ては、冷徹なまでに単なる先行投資であり、それ以上でも以下でもなかった。


 そこに友情の介在する余地はない。



◇◇◇



 竜宮院は目を覚ました。

 彼は夢をみた。

 それは学生生活の夢だ。


 彼はぼやける頭で周りを見渡した。

 そこは王公貴族御用達の宿舎であった。


 宿舎などという言葉を使ったが、建物の作りはもちろん、接客や食事や寝具から、何から何まで極上のものである。

 竜宮院は自身の有能さを知らしめるべく、この世界で素晴らしいと言われるサービスなんて大したことはないだろうという粗を探したが、残念ながらケチのつけようがないものであった。


「チッ!」


 彼はそのことに不満を感じ、顔を歪めて舌打ちをした。腹立たしい感情のまま時間を確認すると、待ち合わせの時間を大幅に超えていた。

 けれど彼は、


『まあ別にいいか。待つことで彼女達も幸福を感じているだろうし本望だろう』


 すぐにそう思い直し、急ぐという選択肢を全力で投げ捨てたのだった。


 起き上がった彼の背後───ベッドの上でモゾモゾと動く気配がした。一晩を共にした二人の女性のものだった。

 彼女達はこの辺りで最近出来た高級娼館のナンバー1とナンバー2であった。竜宮院が莫大な金と「僕は勇者だぞ」という、ある種の権力をちらつかせることでくだんの娼館から無理やり持ち帰ってきた女性だ。


「起きろ」


 彼の温度を感じさせない声。

 そこに肌を交わした男女の情は一片もない。


 彼の声で娼館トップの女性が目を覚ましたが、もう一人は未だに夢現であった。


「おい、お前が起こせ」


 彼の表情に危機感を抱いた女性が、急いで同僚へと起きるように声を掛けた。


「あのさ───」


 彼の言葉を聞いた瞬間虫の知らせか、彼女は ヤバいと感じた。


「この一夜は君達と僕とのビジネスなんだよ。僕は顧客クライアントで、君達は商品を提供する側だ。なのに君達は顧客クライアントが目を覚ましても、未だにぐーすかと寝こけたままだ。君達にプロ意識はないのかい?」


 一晩丸ごとの貸し切りだった。

 そもそも竜宮院の相手などしたくなかったが、拒否権のなかった彼女達は仕方なく、長い時間精魂果てるまで奉仕を求められた。


 そもそも、極度の疲労から起きれなかったが

それはお前も同じで、お前だって今起きたばっかりだろとは思えど、彼女は口にはしなかった。

 早く服くらい着させてよ、と竜宮院に対し女性は内心で毒づいたが、そんなことには全く頓着せずに、彼は執拗にいちゃもんを続けた。


 そうしてしばらくするとトップの女性は気づいた。

 眼の前の男は「ビジネスだ」とか「クライアント」がどうとかこうとか無意味な能書を垂れ流してはいるが、要するに彼は、この街でも一流とされている女性私達に対し、説教し優位に立つことで、何らかのとてつもない快感を得ているのだ───


 だって、昨夜から早朝に掛けて何度も何度も致したはずの彼の息遣いと、彼のソレ・・は、説教が長くなるに伴い、興奮に猛っていたのだから……。


 竜宮院の隠し切れない異常性に気付いたトップの彼女は背筋を震わせた。

 彼女は挨拶も早々に、やがて目を覚ました同僚をと共に、急いで着替え、竜宮院をそれとなく褒めそやし、彼の気が逸れた瞬間に、部屋から極力自然を装って立ち去った。






────────

ついにお待ちかねの竜宮院回ですね!

彼のお話はまだまだ続きます!


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