第11話 回想:《不死の迷宮》を想う
◯◯◯
俺は、油断だとか、焦燥だとか、孤独だとか、散々言ってきた。しかしそんなものは迷宮探索において、ただの言い訳に過ぎない。
そんな状態で探索すること自体、やはり俺は楽観的であったのだと言わざるを得ない。
心のどこかに『これまで同様に、次も何とかなるだろう』という考えがあった。それは今にして思えば傲慢どころか、思考の放棄ですらあった。
《不死の迷宮》の最奥の部屋のいたのは貧相な一体の
押したら倒れそうなくらい貧弱に見えた。
その予想は正しかった。
俺は一刀のもとに切り伏せた。
こんなものがボスなのかと肩透かしを食らい、帰還すべく真っ二つになって倒れた
びちゃぴちゃ───
何かが
振り替えると、胴から分断されたはずの
嫌な予感がした。
俺はすぐさま飛び掛かり、再び
嫌な予感は消えなかった。
俺の場合、得てして嫌な予感は当たってしまうのだ。
まさかと思った。
背筋を嫌な汗が伝った。
3度目も立ち上がった。
4度目も立ち上がった。
5度目も立ち上がった。
6度目も、7度目も、8度目も立ち上がった。
背中に嫌な汗が伝った。
事態を打開すべく、再生出来ないように灰になるまで魔法を撃ち込んでみたが、それも無駄だった。
灰は集まり、肉へと復元し、
さらに、事態はわずかではあるが、しかし確実に悪化の一途を辿った。
ならこいつら一体どこまで強くなるのか?
そんな疑問が脳裏をよぎった。
77回目。
それまで一刀の元に両断出来た
100回目。
これでも終わらない。何事もなく立ち上がった
相手は単なる《
敗れて立ち上がる度に強くなる《
114回目。
《
脳裏に浮かぶ嫌なビジョンが消えなかった。
俺はそれを振り払うように《
切って切って切りまくった。
そして525回目。
上段鎖骨箇所から《
肩で息をしながら、切られた脇腹の痛みに耐え、ポーションを呷った。
740回目。
《
もう立ち上がらないでくれと心から願った。
しかし俺の願いも虚しく、《
これ以降俺は、致命傷以外でのポーションの使用を節約し、《
800回目。
ついに魔力を温存している場合でないほどに追い詰められた。
窮地を凌ぐために、光魔法を用いて危機を脱したが、以後は《
苦渋の選択ではあったが、その作戦は功を奏した。
そして、それは1000回目のことだった。
当然のように起き上がった《
瞬間、血の気が引いた。
それまで効果的であった遠距離からの光魔法が通じなくなったのだ。
学習されたからか、度重なる光魔法に耐性を得たのか、それとも復活回数による仕様なのかは不明であったが、この時を以て《
こうして俺は再び戦術の切り替えを余儀なくされた。ここから生き残るには命懸けの検証をする必要があった。
その後、半刻ほど命を懸けて、《
そして1000回目。
《
この時点で俺と《
ただし単純な強さという点で言えば、まだ俺に軍配が上がった。相手の弱点属性である《
それならば、身体能力でゴリ押していけば、このまま《
しかし、次の1001回目。
その希望は脆くも崩れさった。
初めは気のせいだと思った。
けれど剣を交わして、悟った。
それまでの単純で微かな肉体強化とは異なり、《
それに比例するように
体格の強化───いったい、どこまで大きくなるのか───
千回にわたる《
1001回目。
1002回目。
1003回目。
俺の傷は確実に増え続けた。
限界はもうそこまで近づいていた。
一方の《
とどまる所を知らない《
1050回目。
俺の眼前の《
彫り深く、美しいまでに強大な筋肉がビクンと蠢いた。
豪ッッ!! 空気が切り裂かれた。
「くッッ!!」
これまでで最高の一撃が俺を襲った。
重さ、速さ、そのどちらもが空前絶後だった。それでも何とか歯を食いしばり、聖剣で弾き返した。
強化され続ける《
一瞬の判断ミスが致命傷に繋がる恐怖。
そいつに駆られて判断を狂わさぬように、俺はひたすら冷静であれと、己に言い聞かせた。冷静さを欠けば生きて帰ることは叶わない。
そんな極限状態で、どれくらいの時間打ち合いを続けただろうか。それでも俺は紙一重で《
そして───
今でもはっきりと思い出せる。
運命の1051回目。
徐々に悪化していた潮目がここに来て一気に激流へと様相を変えた。
まずは、平時の頃であれば、腐るほどあって使い切れない───そう思っていたポーションの数がついに残り一つとなったのだ。
それのみならず、ついに最後の切り札たる《
強化に強化を重ねた《
《
さすがと言うべきか、この技があれば、いくら強化を重ねた《
しかし、ただ一つ懸念があった。
この技の弱点とも言える、大量の魔力を喰らう異様な燃費の悪さだ。
それこそが、難敵である《
だから───俺は弱点である燃費の悪さを即興で克服する必要に迫られた。
あるのは閃きか死かという単純な二択。
しかし俺は賭けに勝った。
《
これが効を奏した。
魔力消費を大幅に減らすことに成功し、何とか相手の隙を突いた超加速で《
そして1079回目の討伐を終え、これまで通りに俺は、いつ終わるともしれない《
俺の失敗は「今回の再生もまったく同じだろう」と決めつけたことだった。
そしてここが運命の分岐点であった。
1080回目。
俺が《
何故か再生が背後で起こった───それもこれまでの再生と比ぶべくもないほどの瞬間的な再生速度で。
振り向いたときにはもう遅い。
俺は背後から強襲された形になり両腕を切り飛ばされた。
両腕がないと、回復もままならない。
ようやくそこに思い至ったが、後悔すれども万事休す。俺は「嗚呼、みんな」と天を仰いだ。
《
走馬灯もスローモーション現象もない。
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