第2話 開幕戦
○○○
「なんですかこれ!」
いくつかの不定形の白い
まるで生者に憧れるように、縋り付くように、食らいつくように、飲み込まんとするように蠢いた。
本能が察した。
これはアカン奴やでぇ!!
「封印から
こいつらの気配があまりにも薄くて気付くのに遅れたが、センセイのお陰で事なきを得た。
センセイが俺の背後の一体を始末したが、それでも五体もの
あんな見た目の敵だし、やっぱり物理より魔法の方が効くんだろうか?
いや、初見だし、ここはどちらの効果をも併せ持つ《
彼女の手のひらから何かすごい感じの謎の光が飛び出し、直撃した
「ははぁー」
地に膝をついてセンセイへと平伏した俺。
「何やっとんじゃお主は……」
その姿を見たセンセイは呆れた声を出したのだった。
○○○
「そろそろあれが出ると思っておったよ」
「あれってさっきの
センセイは「うむ」と頷き、しばし辺りに意識を集中させると「気配は消えたでの。またしばらくは安心じゃ」と告げた。
俺がホッとしたのを感じとったのか、センセイも目尻を下げた。
「朝ご飯にはまだ早いから、
何かを食べながら話そうと、センセイは言った。
俺の部屋に着くと、センセイに椅子に座るように促し、俺はベッドに座った。
マジックバッグから取り出した、以前出会った何故か関西弁を話す商人から買った饅頭をいくつか皿に乗せてセンセイに渡すと「饅頭か……、饅頭も好きなんじゃが、久しぶりにたい焼きが食べたいのぉ」とぽつりと溢した。
いつもなら「わがまま言ってないで、それで我慢してください」と突っぱねるのだが、センセイの声にどことなく郷愁のようなものを感じた。
「鯛の形は無理ですけど、今度
俺はセンセイの悲しい顔に弱いのだ。
「約束じゃぞ」と笑顔を浮かべたセンセイを見てこれはこれで良かったのだと温かな気持ちになったのだった。
○○○
「さっきの続きですが、あの
センセイは饅頭を一つ手に取ると、豪快なことに一気に口に放り込んだ。「あむあむ」と口いっぱいに咀嚼し、ごくりと飲み込むとようやく語りだした。
「ここに封印されとるものは確かに迷宮ではあるから《封印迷宮》などと呼ばれたりしておるがの、当時は《封印領域》と呼ばれておった」
「《封印領域》……」
「そう。《封印領域》に関して言えば、迷宮は領域の中枢に位置する核のような物じゃ。この核である迷宮を中心にした、特定の広範囲の領域には、化物達が現れる。それも大量に、休むことなくな」
「休むことなくって──」
「これはの、言い過ぎでもなんでもない、単なる事実なんじゃ。当初皆もいつかは終わると思っておった。なら化物の出現する期間は、一週間か?
どれも間違いじゃ。こいつを放っておくと───封印するか消滅させなければ、永久に出続けおる」
先ほどの蠢く
「そう、ムコ殿の想像は正に現実の物になる」
センセイは
「形を持たぬ
想像してみよ、とセンセイが言った。
「人類の持てる力全てで化物を倒しても、それ以上の速度で化物が産み出される。しかも化物の産み出される速度は青天井に増していく。やがて人類は最後の一人まで駆逐され、この世界は化物で埋め尽くされるじゃろう」
下手なゾンビ映画よりも酷い状況だ。
センセイの語った話は、この世界の人類の終わりと同時に生命の終わりでもあった。
「なら、どうすればいいんですか?」
センセイは二つ目の饅頭に齧りついた。
数回咀嚼し、んぐと飲み込んだ。
俺は喉に詰まらせないかとはらはらして「お茶いれますよ」とベッドから立ち上がった。
「まあ、そうじゃな。三ヶ所ある封印の内の二ヶ所が無事であるわけじゃからの。当面はこの辺りに現れる化物を何とかすれば時間を稼げるじゃろう」
「はい、どうぞ」と茶を渡すとセンセイは「かたじけない」と受けとった。
「核となる迷宮が現れるのも、封印が解かれたこの辺りになるじゃろうし。迷宮が姿を現した後が大事じゃ。領域が広がり、被害が拡大する前に、迷宮の奥に辿り着いて、邪悪の根元となる迷宮を滅ぼす。これが肝要じゃろうな」
「前回はセンセイも体験してるんですよね? どうして滅ぼさずに封印なんて手段を選んだんですか?」
ずずっと茶を啜りセンセイは一つ呼吸を置いた。
「全ての人間が《封印領域》の脅威を甘く見とった。我にしても『我には関係ないから勝手に対処してろ』と思っとった。
それに当時はこの国でも面倒くさい内紛があったりしての。馬鹿馬鹿しいことじゃが、人類は後手後手に回ってしまった。その結果、人類史上最高と称えられた《
彼女は何かに想いを馳せているように見えた。俺には計り知れない別れや、苦労があったのだろう。
「いろいろあったんですね」
「そうじゃな、いろいろあった」
人間は変わらんなと、センセイは溢した。
「相変わらずに、人間は愚かなままじゃ。前回も相当なバカだったが、今回のこれもどっかのバカ共が封印を解いたことが原因なのじゃからな」
センセイが三個目の饅頭を口に放り込んだ。
ちょうど、その時入り口の扉を叩く音が聞こえた。
「イチロー、起きてるかい?」
声の主はアノンだった。
「無礼を承知で、起こしに来たよ」
「おお、大丈夫だ。ちゃんと起きてるぞ!」
扉を開けると、フードの彼がこちらを見上げた。
「どうしたんだよ、まだ朝早いだろ」
理由を尋ねた俺に、アノンが答えた。
「イチロー、アシュリーが目を覚ました」
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