第4話 呪術師ヤマダ

○○○



「とうちゃーく!」


 俺の十メートルは先にいる元気っ娘ミラン。


「ロウにいさーんはやくー! ほら走って走って!」


 俺を急かすように、その場でランニング状態で足踏みをした。


「おおーここかー」


 ギルド前にようやく到着した俺の目の前には、バカデカい石造りの建物があった。

 すぐに中に入ろうとするも、何故か入り口の扉が西部劇調の両開きの扉になっている───これは日本にいるときに異世界転移がテーマのアニメやら漫画やらでよく見たギルドの造りであった。


 ギルドに限らず、日本にいたときに見たフィクションとよく似ている建物が出てくるのは、もしかすると俺と同じような転移者や転生者が、それらの建設に関わっているからではないだろうか。


 などと予想しながら、俺は扉を開いた。


「おじゃましまーす」


 足を踏み入れた瞬間からさらに既視感たっぷりの光景がそこに。


 これだよこれ。

 まるで実家のような安心感だぜ。


 ギルドの中には何故か食堂居酒屋のような飲食施設が備わっているんだよな、わかります。


 そんで、まだまだ昼間なのに赤い顔した人達が「ういー!」などとエールの入ったグラスで乾杯してたり───やっぱりしてるやん! これよこれ!


「だからよー言ってやったんだ」


「あんたもーその話何回めよー」


「いいじゃねぇか」


 これだよ! これこそが俺の求めてたギルドだよ!

 俺がギルドの光景に興奮していると、後ろからちょいちょいとミランに肩を叩かれた。


「にいさんあんまりじろじろと見ちゃダメだよ。ケンカになっちゃうから」


 確かに。不躾な視線を投げ過ぎたかもしれん。


「うむ、気を付ける」


 とは思うものの、俺の意思に反して、俺の超性能を誇る山田イヤーはどうにも彼らの話を拾ってしまう。


「ところでよー」


「あによ?」


「街も景気良いし勇者様々だな」


「だなぁ」


「これはここだけの話なんだけどよ」


「でたーここだけの話ぃ」


「いいわよ。喋りなさいよ」


「この前勇者パーティが新しい迷宮探索始めたろ?あれなんだけど変だと思わなかったか?」


「何がよ」


「その前の迷宮は一回の探索で攻略してんだぜ? それが一階層を調べただけで帰ってくるなんてことあるか?」


「ああー、確かにぃ。けどよぉ。あちらさんが潜ったダンジョンは今回俺達がチャレンジしてるAクラスダンジョンとは訳が違うんだからそんなこともあるだろうさぁ」


「違うんだよ。この間一緒に行ったろ? 隠れ山から降りてきた《火炎龍ランチャードラゴン》の討伐によ、Sランククラン《旧都ビエネッタ》所属のパーティーとよ」


「行ったわね」


「今からする話はそのときに聞いた話さ。どうも勇者パーティの足を剣聖が引っ張ったそうだ」




○○○



 俺は彼らの後ろの席に座り、ミランに手招きをした。

 給仕に俺のエールとミランのはちみつを入れたホットミルクとクッキーを注文した。

 何ごとかと尋ねるミランに目配せして、しばしの時間待つよう意思を伝える。

 話の続きに耳を傾けた。


「私の聞いた話と違うわそれ」


「あれだろ? 《さまようなにがし》にいるお前の友達経由の話だろ?まあ話は最後まで聞けよ。何も矛盾はしちゃいないからよ。

 お前が聞いた話は大方予想が付く。

 一階層のボスモンスターから死傷者が出ることなく帰還出来たのは剣聖のお陰。剣聖が前衛で獅子奮迅の働きをした。こんなところだろう?」


「そうよ」


「それは何も間違っちゃいねぇんだと。ただ本来の剣聖の力だったら一階層のボスくらい朝飯前なんだとよ。実際に前回の最奥のボスを仕留めたのは剣聖らしいしよ」


「待てよぉ、それじゃあ剣聖が手を抜いたってお前は言いたいのかぁ? 俺は剣聖を見たことがあるけどよぉ、とても手を抜く様な娘には見えなかったぞぉ?」


「そう。二人とも間違えてないんだ。彼女は全力を尽くした。けれど何らかの事情があって本来の力を発揮出来なかった」


「あによぉ、その『何らかの事情』ってやつは?」


「ここからが俺の聞いた話だ。大手クランのトップが二人と、レモネギルドのほら───遣り手で有名なギルドマスターバレン氏と、勇者パーティを交えた話し合いがあったそうなんだけどよ」


「それは聞いたわ」


「その場でよ、どうも剣聖があげつらわれたそうなんだ。『どうして勇者の指揮を無視するんだ!』『どうして全力を出さないんだ!』って」


「みんなの前でってこと?」


「そう。みんなの前で。謝罪させられたんだとよ。けど、謝罪しようが何しようがそれだけじゃ原因の解明にはならねぇ。じゃあどうして全力を出さないなんて判断されたかというとよ───」


「もったいぶんなよぉ」


「───それはよ、どうも聖剣を使わなかったそうなんだよな」


「どうしてよ?」


「それがよ、使わなかったんじゃなくて、使えなかったんじゃないかって話だ」


「それは単なる憶測でしょ?」


「いーや、どうも抜剣したときに鼻血を垂らしてすぐに鞘に戻したって話も出てる」


「鼻血が出たから何よ? 何だってのよ?」


「お前も察しが悪ぃなぁ! ここまで言えば普通わかるだろ! 聖剣か剣聖のどちらかが呪われてんじゃねぇかって話だよ!」



 呪い?

 エリスが呪われてる?

 くそっ!誰がエリスに呪いを───



「はぁ、わかったわ。呪われてると仮定して、じゃあ誰が呪いなんてものを施したのよ」


「勇者パーティによ、ほら、前いたじゃん?」


 んん?


「あー、ああ、逃亡聖騎士ヤマダのこと?」


 え、俺?


「そう。どうもその逃亡聖騎士様が、聖剣に呪いを施した張本人だって話だぜ」


 俺えええええぇぇぇぇーーー?!




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