第3話 心の傷口が開いた
○○○
「驚かないでね?」
「おう、どんとこいだ」
「なんでも《時の迷宮》にはボスモンスターが十二体いるそうなんだ」
そんなもんかい。
ボスレベルの敵がうじゃうじゃいる迷宮だってそらあるだろうよ。
「あれ、驚かないの?」
驚くなと言ったり、驚かないのかと尋ねたり、中々に忙しない奴だな。
こいつやっぱり俺の妹に似てて可愛いじゃないか。
何か色々と買い与えてやらないとな。ふへへ。
べったべたに甘やかしてやろう(使命感)
「すいませーん! はちみつティーはちみつマシマシでお願いします!」
言った側から有言実行な俺だった。
俺は知ってるんだ。ミランは甘いものが好きで中でもはちみつが大好物なんだ。
届いた飲み物をミランへと渡しつつ、頭を切り替えた。
今から《新造最難関迷宮》そのものについて考えてみよう。
例えば俺が最初にチャレンジし踏破した《鏡の迷宮》。
下位層には《
こいつら一匹でも地上に放たれていたら王国は崩壊していたのではないかと、当時ミカが言っていた。
「それってもしかして十二体が一度に出てくる、とかではないんだよな?」
「うん。《時の迷宮》は十二階層からなる迷宮で、それぞれの階の奥に、毎フロアごとに異なるボスモンスターが出るって話だよ」
一度に十二体なら中々に厳しいけれど、一体ずつならそれはもう、これまで巡ってきた迷宮と何ら違いはない。
「それから《時の迷宮》は邪神のダンジョンなんだって」
「なんぞそれ?」
「《時の迷宮》のモンスターは───とりわけボスモンスターは時間を操る禁術を使うんだって」
「禁術を使うモンスターと邪神とは何か関係あるんか?」
ミランの話を聞いてもいまいち要領を得ない。
「時間を操るのは神の
○○○
それは話が飛躍し過ぎだろう。
というかそれは────
時間操作は確かに凄まじい技術だけど、時間系統の敵とはこれまでにも何度か遭遇しているし、それを退けてもいる。
中でも特に苦戦したのは二回。
一つは《刃の迷宮》で遭遇した
こいつは、俺の《
こいつに関しては、俺にも相手と同速度以上で動ける術があったからどうにかなったが、城を出た直後の俺であれば、回復に次ぐ回復を重ねて泥沼のような戦いとなっていただろう。そして最終的にやられていた可能性も小さくはない。
もう一つは《力の迷宮》で戦ったボスモンスターである《カラクリ人形》だ。
まずは《力の迷宮》について簡単に説明したい。
アンジェが竜宮院専属(?)になって以降、彼らは俺の迷宮探索に同行すれども、俺が戦ってる
そして、《力の迷宮》探索時でもそれは当然のように行われた。
思い出すと傷口が開────
俺がカラクリ人形達に袋叩きにされているまさにその時のことだった。
───勇者様、お口を開けてください。
───あーん!
───ミカずるいわよ! 勇者様! 私もー!
───まあまあそんなに二人で僕を取り合わないでくれよ。『あーん』は順番だからね。ほら、あーん!
───さすが勇者様! あーんする姿も凛々しいです!
───ミカ! 私の『あーん』の時の勇者様の方が凛々しかったんだからね!』
───まあまあ二人とも『あーんオブ竜宮院』は逃げやしない! いつだって君達を待ってるんだからさ。ほら喧嘩しないでよ! ふふふふ!
あかんわ傷口が開いたわ。
頭が───脳がおかしくなりそうだ。
(深呼吸)
(深呼吸)
(深呼吸)
それはともかくとして(最後にもう一度深呼吸)。
そういう理由で《力の迷宮》は悲しいことに俺一人が単独で踏破する運びとなった。
最奥のボスは《カラクリ人形》と呼ばれるモンスターであった。しかもそれが八体だ。
初めてこいつを目にしたとき、ギアや導線が剥き出しのクソ雑構造に鼻で笑いそうになった。けれどそれは全くの油断だった。
《神話石》にひけを取らない強度を誇る謎の合金から出来ていた
そして脅威という点で見れば、硬さなどはおまけに過ぎなかった。
通常のダンジョンボスは一体のはずなのだ。
にも関わらず、俺の前に姿を表したボスである《カラクリ人形》は八体で現れた。
彼らの腕部にはどこかスタイリッシュな、腕時計にも似た装置が装備されていた。
彼らは俺と相対ししばらくすると、その装置のスイッチを一斉に押したのだった。
すると八体の機械人形が目で追えない高速でこちらへと迫った。俺は対処する間もなく取り囲まれボッコボコにされたのだった。
高濃度の光属性を付与して圧縮した魔力を、針状にして無数に飛ばす《
どれだけ素早く動こうが関係ない。そうすることでどこにも逃げようのない八体の《カラクリ人形》の全て破壊することに成功した。
確かにどいつもこいつも強敵ではあったが、邪神だなんて
一階層で引き返したことといい、大仰な物言いといい、これは恐らく
○○○
「『元々一階層で引き返す予定であった。迷宮攻略を成功に導くためには何度も試行することが必要なんだ』ってレモネの街のギルドマスターに言ってたそうだよ」
何度も試行するっていうけど、本当に次も挑戦するのか?
「『失敗は成功の母であるという言葉通り、何度も試行錯誤を重ねることで人類を救うことができるんだ!』って」
大層な言い分だ。
御高説ありがとうございます。
それなりに長い間一緒にいた竜宮院のことだ。俺には簡単にわかった。引き返したのは試行錯誤の結果でもなんでもない。
ただ単純に攻略を失敗したのだろう。
その証拠に取って付けたかのように《邪神のダンジョン》などと、自分のミスを少しでも転嫁するための流言を吹聴して回っているのだ。
そのやり口は、俺を陥れたときによく似ていた。
○○○
しかも今回はSランク探索者を十二人も追加して迷宮探索に挑んだそうだ。
そもそもアンジェ、ミカ、エリスの三人がいれば、今回の迷宮の話を聞く限り、一階層で苦戦することはない。
ミランに変に思われないように、時折驚いたり、質問を交えたりして会話を続けたが、俺の頭の中は《時の迷宮》に関してでいっぱいだった。
まず《
俺の好きだった野球ゲームならステータスに赤特で『センス×』が付与されてるレベル。
いやいや、そんなことはこの際置いといて。
ミランの話をまとめると《時の迷宮》で撤退せざるを得なかった敵の特性は、高速戦闘を行うこととミスリルの身体を持っていたことの二点となる。
どちらの特性も、勇者パーティが適切に動いていれば難なく撃破することが出来たはずだ。
高速移動する敵には、動きを先読みしたり、タンカーが上手く攻撃を捌くことで対応したり、俺の様に空間制圧したりと、対処するための方法はいくつかある。
まずエリスだったら先読み出来ただろう。
次にミカの結界についても言えることがある───結界の効果範囲を広げることで結界自体が多少薄くなることに眼をつむって、ミカが広範囲結界を適切に張っていれば戦いはそれほど厳しいものとならなかったはずだ。
最後にアンジェにしても空間を制圧出来る攻撃なんていくつも有していたはずだ。
敵のミスリルボディに苦戦したともされるが、そもそもエリスは《
○○○
ここからは竜宮院の行動を予測してみようと思う。
竜宮院の行動理念───それは『この世の全ては自分のために存在している』というものだ。
ならばこそ竜宮院は
アンジェには《刃の迷宮》と同様にオーバーキル狙いで発動までに大きな時間を要する《ナルカミ》を指示したかもしれない。派手好きで全てが自分の手柄になると思い込んだアイツなら間違いはないはずだ。
残るエリスは、合同した十二人を守りながら戦うだろう───それでもエリスなら一人で倒してしまいそうなものだけど……はてさてどうなることか。
恐らく竜宮院の迷宮攻略はこのような形になったのではないか、俺の予想は当たらずとも遠からずではないかと思う。
○○○
「話はこんなもんかな、ロウにいさん」
「おおー、ありがとうな」
「まだ昼過ぎだし何か用事あるんでしょ?」
「前と同じで買い物してから、今回は探索者ギルドに話でも聞きに行こうかなと思ってる」
「おおー! 探索者ギルド! さすがロウにいさん! やっぱり本物の探索者なんだね!」
パチパチパチと拍手するミラン。
へへっと俺は鼻の下に指を当てたが、今のセリフ的に考えるともしかして疑われてたのかい?
まあ、いいけどよ。へへっ。
「ミラン、それじゃギルドまで案内頼む」
「はーい! 任せてよー!」
異世界、ギルド、女の子連れ。
何も起きないはずがなく……。
───────────────────
『おもしろい!』と思った方は、
よろしければ☆レビューやレビューコメントや感想や作品フォローで応援してください!
作者が喜びます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます