第2話 勇者の撤退と聖女の噂②(合同パーティ結成)

◇◇◇



 竜宮院は物事に名前を付けることが好きだった。


 そうすることで名付けた対象の上に立ったような気分になれたからだ。そしてこの傾向は幼少期から見られた。両親は己の息子が物事の正式な名称を覚える前に、何でもかんでも勝手気ままに自分で名前を付けてしまうことに手を焼かされたものだった。


 もちろん、高校に入学する年齢になったときも、もちろんその性癖のようなものは健在であった。

 己の性癖に従順な彼は、例えば、利用出来そうな知人達にあだ名を付けたりもしていた。


 そして今、この異世界でも、彼の下卑た性癖は発揮されることとなった。

 竜宮院は《新造最難関迷宮》について、今更ながら名称が長過ぎると不平を漏らし、その挙げ句、『ニュービー』と『ex』を掛け合わせた《ネクスビーダンジョン》あるいは《ネクスビー》と呼ぶようにと国内の全ギルドに呼び掛けたのだった。


 これまでに数多くの《新造最難関迷宮》をクリアしてきた勇者様からのお達しということで、誰もが「ちょっ! これダサすぎ!」とは思えど口にすることは出来ずに、すぐさま認められた。


 目の前で誰かから「ネクスビーダンジョン」と呼称される度に、竜宮院は何らかの粉でもキメたときのように恍惚とした表情を浮かべた。



 今回だってそうだ。

《時の迷宮合同探索パーティ》も勇者竜宮院によって《アルカナの救世主達アルカナセイバーズ》と呼称することが定められた。


 これには竜宮院も脳内麻薬ドバドバのドバであった。




◇◇◇




 さて、竜宮院により《アルカナの救世主達アルカナセイバーズ》に抜擢されたパーティは二組のSランクパーティであった。


 どちらも大手クランに所属するトップパーティであった。

 まず一つ目のパーティは《さまよう珠簾ワンダリング・ゼフィランサス》といった最近話題の、メンバー全員がうら若い乙女で構成されたSクラスパーティであった。


 二つ目のパーティは、かつて世界有数の探索者とされた有名な探索者イライザをリーダーに据えた《翼ある双蛇カドゥケウス》という──もちろん全員が女性のパーティであった。


 どちらも女性のみで構成されたパーティである。

 このことから分かるように、竜宮院にとって最も大事なことは、実力や能力ではなく、見目麗みめうるわしい女性であるかどうかであった。


 もちろん、上記の二つのパーティはどちらもSランクだ。

 けれどSランクという最上位の冠であるが故に、Sランク下位とSランク上位では、その実力差は計り知れないほどの差があるということを、竜宮院は全く知らなかった───いや、知ろうとしなかった。



 レモネのギルドマスターであるバレンはアルカナ王国に点在する幾つかの大型探索者ギルドのギルドマスターの中でも指折りに有能な人物だとされていた。


 若輩の頃に彼にお世話になった探索者が、今では上級ランカーになった、などの話は枚挙に暇がない。


 そんな彼だからこそ、それこそ期待の新人から、いぶし銀のベテラン冒険者といった数多くの人物の実力や性格といった、詳細な情報を把握していた。そして彼はその情報を適宜運用する能力にも長けていた。しかし、その有能さゆえに彼は竜宮院と関わる上で、不遇を強いられることになるのであった。



 竜宮院が合同探索をバレンへと提案した際のことだ。

 成功後の妄想で頭の容量がいっぱいいっぱいであった竜宮院は、既に人の話を聞ける状態ではなかった。

 向かい合ったソファーで、相対して、懇切丁寧に竜宮院へと迷宮攻略やパーティ選抜に関してアドバイスするバレンは、竜宮院にとって、英雄たる自分へと無益な意見をさえずる邪魔者でしかなかった。


「色々なご意見ありがとう。で、君は勇者なのかい?」


 険の立った声で竜宮院が尋ねた。


「え……?」


 バレンは勇者の真意を掴むのに一瞬時間を要した。


「僕にごちゃごちゃと偉そうに講釈を垂れるぐらい能力があるのなら、君が自分自身で全てをこなせばいい。ネクスビー攻略も。パーティ集めも」


「勇者様、そのような、つもりは」


 バレンは苛立いらだった様子の勇者へと頭を下げた。


「勇者である僕がいなくて出来るんならッッ! 自分達の力だけでやってみろッッ! この未開の猿どもがッッ!」



さまよう珠簾ワンダリング・ゼフィランサス》はその潜在能力も含めて最近Sランクに上がったばかりの、期待の星と目されてるパーティであった。

 また《翼ある双蛇カドゥケウス》はリーダーのイライザを除いて、未だ成長中とされているメンバーを主体とした、こちらも突出した一人と期待値込みでギリギリSランクに認定されたパーティであった。


 このやりとりがあったとき、竜宮院が真摯にバレンの意見を取り入れていたら、少なくともこの後彼らを襲う悲劇は回避できただろう。






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