第3章 勇者パーティの撤退

第1話 勇者の撤退と聖女の噂①(時の迷宮)

◇◇◇




 勇者である竜宮院は、世間一般で無能だとされている聖騎士山田が実のところ、このパーティにおける迷宮探索で、最も高い貢献度を誇っていたことを知っていた。

 というか、さすがに知っていないとヤバかった。


 ただ、ことここに至ってもくだんの迷宮での実戦経験が全くない竜宮院はその難易度を全く実感することが出来ずにいた。

 したがって、竜宮院が山田への評価を相当甘く見積もっていてもそれは自然なことであった。



 竜宮院は考えた。

 次の探索もそろそろ果たさねばいけない。


「ああ、クソッッ!! もっと・・・我慢して一気に・・・・・・・ことを運ぶべき・・・・・・・だったのに!! 山田が急に暴れるからッッ」


 彼は既にパーティを去った山田に対して憤慨した。

 そして世間体などを守るためにも、近い内に必ず果たさねばならない次の迷宮探索について思いを馳せた。けれどすぐさま「誰か呼べばいいか」と結論付けた。

 自分で出来なければ他人の力を使えば良い───これこそが彼のいつもの思考であった。


 こうして勇者パーティと別のハイレベルパーティとの合同探索の話が持ち上がることななったのだった。




◇◇◇




 竜宮院がギルドに合同探索をしたいとのむねを伝えると、ギルドマスターの部屋へと通された。

 有能なギルドマスターによって竜宮院の意見は受け入れられ、すぐさま近隣に滞在する数パーティの名が挙げられた。


 これまでも群がる町娘やそこそこの貴族の次女、三女などから誰がいいかなぁと選ぶことはあった。そのときにも自尊心が満たされ興奮を抑えきれなかったが、今回はそれとは比べものにならぬほどに格別であった。


 この世界のSランクパーティという、誰からも羨望の眼差しを向けられるエリート達の情報が記載された資料を、ぺらぺらとめくりながら「誰にしようかなぁ」「お、この見処みどころあるねぇ」「こいつは面構えが気にいらない」などと、もったいぶって選ぶ立場にあることに、竜宮院は己の興奮を隠し切れず息を荒げた。果てに彼は、ズボンの中で固く屹立するそれを抑えることが出来なかった。



◇◇◇



 パーティを選出するにしても、一応彼なりに考えはあった。

 勇者パーティには剣聖エリスと賢者アンジェリカがいる。

 つまり相手を葬り去る決定打は十分に保有している───ということは単純に魔法発現の時間稼ぎ要員と、数で迫られたときの露払い要員さえいれば問題は解決じゃあないか───このように考えた竜宮院は自分のとてつもない明晰さに畏れ戦きおそれおののき己の身体を両の手で抱き締めて震えた。



 彼の言うところの経済系UTuberに言わせると、

「上に立つものは、ある程度は現場を見なければいけない」

「下から上がってくる『問題なし』の9割はウソ」

「どんな場面だろうがPDCAは怠るな」

「何事にも正確な情報が必要」

「情報精査にもやり方がある」


 どれもこれもが当たり前の話であったが、ことあるごとに彼らの名前を嬉々として挙げる当の竜宮院は、実のところ何もわかってはいなかった。



 竜宮院は次の迷宮についても、迷宮自体の脅威も、山田が抜けた場合の戦闘も、自分達の戦力も、合同パーティの情報も、合同した場合の連携も、何一つ把握出来ておらず、彼の頭にあったのは迷宮攻略後の自分の名声についてだけだった。




◇◇◇



 レモネの街を出て、馬車で一時間ほどのところにその迷宮はあった。

 探索を予定されているこの迷宮は《時の迷宮》と言った。

 時の迷宮の探索は一階層で止まっていたが、その脅威は入り口から少し進んだ序盤の部屋から、逃げるように撤退した別口のSランクパーティより伝えられていた。


 曰く「ダンジョン自体に特性があり、身体を思うように動かせない」

 曰く「何らかの訓練が必要だ」

 曰く「訓練と準備を怠れば全滅必至」


 これらの情報に加えて時の迷宮を探索するにあたり、以前の迷宮探索の時に比べてさらなる有益な情報があった。

 その情報をもたらしたのはとある・・・アイテムだった。



◇◇◇



 かつて山田がパーティにいたころ、ダンジョン攻略の際に発見されミカに配分された特殊アイテムがあった。

 そのアイテムは使い手を選び、使い捨てであったが素晴らしい効果を持っていた。

 名称を《迷宮鑑定+の宝珠》といった。



 使い手は希少とされる上級ダンジョン鑑定師に限定されたが、勇者パーティの名声故か、すぐさま相応の人物が呼び寄せられた。


 乗り気ではないまま、迷宮の前まで連れていかれた彼はしぶしぶ、そのアイテムを用いて鑑定をおこなうこととなった。

 結果、彼は《時の迷宮》のあまりの禍々しさに奇声を発して、意識を失った。


 二日後にようやく目を覚ました彼は、震えながら《時の迷宮》の詳細な情報を伝えた。


 彼によると、迷宮は全部で十二階層からなり、それぞれの階層の奥にボスが鎮座している。

 そして最も恐ろしいことに、十二体のボスはそのいづれもが《時》を操るのだという。

 そう。彼は《時》を操ると言った。アルカナ王国では《時》を操作する魔法は禁忌であり、神の領域とされていた。


 鑑定士の男は《時の迷宮攻略合同パーティ》を集め、彼らを前にして「もう無理だ」「神に喧嘩を売るようなものなんだ」と涙ながらに詳細を伝えた。


 うなだれて涙を流す鑑定士の男を前に、合同パーティに恐怖や不安からか沈黙が訪れた───その時、彼の肩を竜宮院が鼓舞するように叩いて声を張り上げた。


「無理ではないッ!! 僕が! ミカが! アンジェが! エリスがいる! そして何より君達がいる!

僕たちの力が合わされば不可能はない!『1+1=2』などでは決してないんだ!『1+1=無限大』なんだッ!!」



《時の迷宮攻略合同パーティ》の全てのメンバーが迷宮の攻略を確信した瞬間であった。






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