第7話 サイド・アソート・パック①

【探索者娘三人組の場合】


 大型テーブルに五人の女子が腰掛けていた。


「それでねっ! 『ヴオオオオ!』って声が響いたのっ! 驚いた私達が顔を上げるとねっ、三メートル半はありそうなハイパーグレートオークがいたのっ!」


 そう述べたのは採取組の中でも一番小さなリル。彼女は日本でも中学生で通じる愛嬌のある見目みめをしていた。


「いえ、あれは四メートルはありましたわ。そんな巨体が急に現れたもんですからもう終わりだと思いました」


 採取組で一番大きな少女トォールが答えた。彼女は三人の中で一番丁寧な言葉使いであり、三人の中で最も豊かな身体つきをしていた。


「そうそう! オークの口元からこぼれた涎が顔にかかったとき『あ、死んだ』って思ったな」


 二人を補足したのが、三人の中でも、ちょうど真ん中の背丈でショートカットのスレンダー美少女ミディ。彼女は言葉遣いと身なりのそのどちらもが、どこか中性的であった。


「そんなときだよねっ」とリルが、ここからが話の肝だぞと言わんばかりに声を上げた。


「そうですね、忘れられませんわ。凛々しいお顔と勇気ある行動」とトォールはどこかぼぅっ・・・とした表情で追従した。



「『お前達は逃げろ! ここは俺に任せて先に行け! 大丈夫さ、お前達を護るためなら俺は何者にも敗けやしない!』」


 ミディが両手を広げて、その人物のマネ(?)をした。


「その場から逃げるかどうか逡巡する私達に────」


 ここ・・こそが今日最大の見せ場なのだぞと。



「『───別にアイツを倒してしまっても構わんのだろう?』」


 そういってキメ顔でみんなの方を見た。


「ズルいーっ! リルが言おうとしたのにっ!」



「あぁ、クロ様、貴方は今どこで何をされていますの?」


 ずっと聞きに徹してた二人の内一人が、


「おーい戻ってこーい」


 相変わらずぼぅっ・・・としてるトォールの目の前で手を振った。



「つーかさー、私この話100回は聞いてるんだけど……」と聞き手の内のもう一人がポツリと漏らした。


「そもそもクロ様って何?」「さあ」「ねぇ」「何?」「これいつまで続くのかな」「一月ひとつきじゃ全然足んないと思うわ」



 誰かが救った彼女達の夜は、今日も騒がしく夜がけてよいくのだった。










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【ミラン親子の場合】



「かあちゃん、今日は仕事休みだろ?」


「ええ、そうよ」


「なんかさー、近頃休みの日もおめかししてないか?」


「ななな、何の話?」


「なんかかあちゃん、最近さー」


「もう、なんなの! そ、それよりミラン」


「なに?」


「あー、仕事の方はどうなの?

 最近ほら、無理とかしてない?」


「それ昨日も聞いたよね? 何回言わせるんだよ」


「あはは、そうね、私なに言ってるのかしら。あー、それよりミラン」


「だから、なに? オレももう少ししたら仕事の時間なんだ」


「最近、ほらほら、最近ほら、何かあるでしょ」


「かあちゃん、いい加減にしないと怒るぞ?」


「い、いやねぇ。何も怒ることないじゃない」


「かあちゃん最近さ、何か変だぞ!」


「私は何も変じゃないわよ! ほらこのとーり身体も元気だし! ロウさんのお陰でね」


「かあちゃん逆に怪しすぎるよ」


「そうそう、ロウさんに今度お礼しなきゃね。最近ロウさんとは会ってないの?」


「んー、」


「どうなのミラン? ロウさんやっぱり忙しいのかしら」


「たまに街で会うけどねぇ。『大飯食らいが二人いるから街には前より顔出すようにするよ』って言ってた。


「私のこと何か言ってなかった?」


「『かあちゃんが感謝してた』って伝えたら『別に気にすることはないよ。それよりマーロさんには無理をしないように伝えてくれ』ってさ」


「ああ、ロウさん」


「何かかあちゃん熱でもあんのか?」


「熱なんか、ないわよ! もう! それよりミランいつロウさんに会うの? 会ったときにはウチに連れてきなさい」


「なんでそんなに必死なのさ」


「必死とか必死じゃないとかそんな話をしてるんじゃないの。今度ロウさんに会ったときは必ずウチに連れてくるのよ? いいわね?」


「わかったよ! 話が終わったならオレは仕事に行くからな! かあちゃんも、ロウにいさんの言ってた通りゆっくりしろよ!」


「わかったわ。ミラン気を付けてね。変な人には付いていってはダメだからね!」


「はーい」



◇◇◇



「ロウさん───」


「かあちゃーん! 帽子忘れたーっ!

 って何ガラス瓶抱き締めてるの? これポーション入ってた空瓶じゃん」


「こ、これはキレイに洗って返さないといけないなって」


「かあちゃーん、いったい何回洗うんだよー」


「ね、念には念を入れてよ! もうっ!」



 誰かが護った彼女達の一日は、今日も平穏に過ぎていくのだった。







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【眼鏡の商人ちゃんの場合】


 彼の瞳の奥にある、鈍色の光を見た。

 寂しい色だと思った。それと同時にそんな色をさせたままではいられないと思った。

 自分でも戸惑いを覚えるほどな不思議な衝動であったが、だからといってその感覚を手離そうとは思わなかった。


 もしも、彼と会うことがあれば、彼の過去を聞きたかった。

 そして私の話を聞いて欲しかった。

 これまで艱難に耐えてきた人が持つ悲しい過去を、そのお互いの心を、もしも真実の意味で交わし合うことが出来るのなら、それこそがこの世の中で最もまことの幸福なのかもしれない。


「黒髪で、どこか陰を感じさせる青年よ。それで間違いないわ、彼ほどの実力があれば、さぞや名のある探索者に違いないわ」


 だから今日も私は彼を探している。




 誰かが助けたこの女性が、その誰かを探し求めるのは、苦難に喘いできた彼女が、平穏に向けて一歩踏み出した証左なのかもしれなかった。





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