第2話 剣凪②

◇◇◇


 オルフェリアの輝かしい才能はすぐさま国へと伝えられた。

 国は彼女を放っては置かなかった。

 ランデは才ある者は国の資源であると理解していたのだ。


 そうしてある日、国から派遣されてきた騎士がオルフェリアの家に訪れた。

 実際に彼の目で少女を見極め、それ如何によって対応を考えるという名目であった。



 少女と剣を交わすも、結果は辛くも騎士の勝利となった。

けれどそれは異常とも言える結果であった。

 の騎士は王国管轄の剣術学校の指南役となるまでは、王国騎士団の幹部にまで登り詰めたほどの強さの持ち主であった。



 国から派遣された騎士と、打ち合う姿を見たオルフェリアの両親は、我が子にはとんでもない剣の才能があるのだと、二人で手を合わせてぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。


 けれど、相手が、普通のそんじょそこらの騎士ではなかったということ、その彼とほぼ互角の打ち合いをしたこと、それがどれだけ異常なのかを聞くにつれ、次第にことの大きさに気付いて、その顔を青くしていった。




◇◇◇




 その後、国からのスカウトという形で、オルフェリアは国が運営する剣術の学校に入学する運びとなった。

 両親も、最初は断っていたものの、このスカウトは娘のためであるというセリフと、娘は将来名を残す剣士となるという、口説き文句により、泣く泣く、まだ九歳である娘と離れて暮らすことを了承した。


「学校が休みの日はお父さんとお母さん二人で会いに行くからね」


 涙を流して言った母親にオルフェリアも号泣し、母と父にひしっと抱き付くも、まだ十歳であったオルフェリアは他の十歳児に比べて遥かに成熟した精神を持っていたので、心のどこかで仕方ないかぁとも思っていた。




◇◇◇




 学校生活は退屈だった。

 何から何まで規則、規則、規則。

 それでも自分に利があればまだ良かった。

 切磋琢磨出来る同級生に、自分の成長を託すことの出来る教師───彼女にとってそのどちらもがこの学園には存在しなかった。


 同級生はどいつもこいつも大したことなく、彼女はその圧倒的な強さゆえに、同級生どころか上級生や教師からすら腫れ物のように扱われ、またたく間に孤立を深めたのだった。


 別に構わない。私には両親だけいればいい。

 それは彼女の本心であったが、それだけでは苦痛ですらある学校の退屈さを我慢することは難しかった。



☆☆☆




 そんな折、同級生が飛び級制度について話をしているのを耳にした。

 オルフェリアはこれだと思った。

 何とかこのままやってけば、予定より速く上に上がれるに違いない。

 彼女はそれだけを頼りに、一人寂しく訓練を重ねた。




 その日も一人で、学園内の人目に付かないところで、基礎訓練をこなしていた。


「お、オメーはこん前のお嬢ちゃんじゃねーか!」


 背後から声が聞こえた。振り向くと、以前彼女のスカウトに村に派遣されてきた騎士だった。

 オルフェリアは目を見たままぺこりと頭を下げた。


「何だオメー、ハブられてんの?」


 かかっと彼は笑った。見た目通り粗野でデリカシーのない人間だとオルフェリアは思った。


「そっちは、こんなとこにいて仕事サボってんの?」


 と負けじと言い返した。


「かーっ! かわいくねーガキだわー!」


 むっとしたオルフェリアは間髪置かずに、


「かわいくねーガキですいませんねー」と返答した。


 彼女の両親は娘が物心付く前から「やられたらやり返すんだぞ!」「やられそうになったらとりあえずやってしまいなさい!」と何度も何度も言い聞かせてきたのだった。


 普段は物腰柔らかで、子供と離れる際には涙していた両親ではあったが、まるで武闘派ヤクザのような教えであった。


 そんな両親の教えは彼女にもしっかりと根付いていた。


「けっ! ガキのくせに減らず口叩きやがって」


「そのガキと良い勝負したのは誰ですか?」


「ああああああ」



 これがオルフェリアが口には死んでも出さずとも、密かに自分の師であると認めることとなるシモンズとの出会いであった。



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