インタールード☆

第1話 剣凪①

 まただ。またやらかしてしまった。


 オルフェリアは先ほどの戦闘を思い返し後悔に苛まれていた。


 戦闘の優先順位を誤ってしまった。

 雑魚敵などの露払いと、後衛へ攻撃を通さないための盾───この二つは彼女に任された最も重要な役割だった。


 なのに心が、はやった。


 いつもならもっと用心して確認を怠らないはずが、全ての雑魚敵を始末したと、確認も早々に、戦いの前線に加わった。


 それが原因で、遮蔽物から飛び出したモンスターが後衛のヒーラーへと襲い掛かることとなった。


 リーダーの「早く戻れぇぇぇ!」との声のお陰で、ギリギリで何とかリカバーを果たしことなきを得たものの、一歩間違えれば、後衛の二人の命が危うかった。


 原因としては、敵が隠れやすい遮蔽物の多い荒涼とした岩肌の大地での戦闘だったこともあるし、相手が頭を使うタイプの獣だったのも不味かったか。


 いや、それは単なる言い訳だ、とオルフェリアは自分を戒めた。




◇◇◇


 オルフェリア・ヴェリテ。

 彼女は年齢や経験不足からリーダーではないももの、まさしく所属するパーティの中心的人物であった。


 元々、彼女という剣士に対する風当たりは強かった。原因は彼女の役割と技術の噛み合いの希少さだった。


 彼女の役割は、超攻撃的盾だった。

 要するに、盾を持たず、双剣で敵の攻撃を受け、弾き、回避し、後衛職やスキル使用で無防備になる仲間を護ることが彼女に課された主な働きであった。

 また襲い来る雑魚を殲滅したり、殲滅後は前線に加わって、引き続き盾をこなしつつ大物の討伐に参加することも彼女にとってはよくあることであった。


 けれど、これらを器用に切り替えてこなす剣士はこれまでほとんど見られなかったので、彼女の役割とその実力が周囲から理解されることは難しかった。


 当初は抜群の見目麗しさからギルドの客寄せパンダ───つまり単なる色物の人気取りの美少女剣士───に違いないという色眼鏡で見られていた。

 さらにはギルドやクランの内外関わらず、ベテランの盾職の戦士達から女性に盾職が務まってたまるかという敵意を向けられることも少なくなかった。


 けれど、彼女がその圧倒的な剣技を以て、次々とダンジョン攻略に貢献し、探索者ランクを上げていくにつれ、そのような偏見ややっかみ混じりの批判は声を潜めていった。


 苦労は多かったものの、出世の速度という点で言えば彼女の人生はそれなりに順調と言えた。

 現に、彼女は歴代でも上から数えた方が早い速度でSランクへと登り詰めたのだった。

 アルカナ王国でも彼女のレア職である"剣凪ソードダンス"を知らない人はいないほどであった。




◇◇◇



 けれどここ最近、オルフェリアの中に迷いが生じた。

 迷いが彼女の剣を鈍らせ、聡明なはずの判断力を奪った。


 だから、ここ数回の探索の全てが不調であった。

 思うように、剣が振れなかった。


 心に焼き付いたあの・・場面が脳裏に焼き付いて離れかった。



 師匠と、弟子が極限の状態で打ち合っていた。

 すべての感覚を極限まで削ぎ落として、剣術のみに没入した一種のトランスのような状態。

 見ているこっちが、引き込まれるような、剣術と言う名の純粋行為───


 己の両手に目を向けた。

 両の手に持ったそれぞれの双剣が以前とはまるで別の物のように感じた。


 彼女───オルフェリアは掌を見つめ、過去に想いを馳せた。




◇◇◇




「心で見て、心に焼き付け、心で繰り返せ」


 オルフェリアが幼い頃に聞いた、自らが勝手に己の剣術の先生だとした人物の言葉だ。


 アルカナ王国に接する南東の方に位置する国ランデ───さらにその南の方の地域が彼女の出身地だ。


 ランデは乾燥地帯ではあったが魔石の発掘が盛んな地域で、経済的には豊かであった。


 国の政治的な状況も平和なもので、国民にも経済的な支援と還元が十分になされていた。教育などにも力が注がれていた。

 そのため、ランデの子供達は幼い頃から無償で教育を受けることが出来た。剣術の指南も国の教育方針の一つであった。


 普通の家庭の、普通の両親を持つオルフェリアであったが、彼女には剣の才能があった。

 それも見る人が一目見ればすぐ分かるような類い稀たぐいまれな才能であった。


 ランデの国の各街にそれぞれ剣術道場のようなものが用意されていた。オルフェリアの住む地域にももちろん、三つの道場が存在していた。


 オルフェリアの通った道場の指南役が、彼女が剣を振り始めてから二日目に指南を放棄した。


 若干九歳の少女ではあったが、指南役の剣の振りを、すぐさま模倣し、さらにどのように剣を振ればより最適なものになるかを瞬時に理解し、実践して見せた。


 指南役はすぐさま自分には荷が重すぎると、恥や外聞もなく別の道場へと彼女を預けた。くだんの指南役は、情けない、恥ずべきだ、俺なら死んだ方がマシだと、散々っぱら剣術師達の間で笑い者となった。けれど周囲の者が笑えなくなるまで、それほどの時間を要さなかった。


 それから一月ひとつきも経たない内に、街の剣術指南役や剣術自慢達は皆「自分には彼女の才能を扱うだけの能力はない」と諸手を挙げて降参したのだった。




────────────────────今章が始まりました。

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