第12話 悲喜劇

○○○



「その聖剣はまさか……、貴方は、いえ、貴方様はもしや勇者様では?」


 サークレットにバトルドレスを身にまとった少女は問うた。

 それに相対する、長身で端正な面持ちの男性が、


「そう。僕が───僕こそが、護国救世の英雄である勇者リューグーインだ!」と力いっぱいに答えた。


 長身碧眼の男性───勇者リューグーインは、彼女へと手を差し伸べ、


「君の力が必要だ。剣聖エリス・グラディウス。この僕と一緒に、この世界を救ってはくれまいか?」


 少女へと真っ直ぐに願い出た。


「勇者様。私なぞが、勇者様に同行しても良いのでしょうか? 勇者様のパーティには《神の写し身》であると名高い聖女ミカ様と、《賢者を超えた賢者》とちまたで噂のアンジェリカ様がおられますゆえ、私のようなしがない、不才の剣士が、本当に御同行してもよろしいのかと……」


 少女は己の心情を血を吐く思いで吐露する。

 うつむいて、胸に手をやり苦しそうにする少女。


「なんだ、そんなことか」


 勇者リューグーインはふふんと微笑み、髪をかき上げた。


「つまり君は自分に自信がないんだね?」


 少女は厳かに、そしてかすかに首を縦に振った。


「大丈夫だよ! 君には誰にも辿り着けない剣の才能がある! 僕にはそれがわかる!」


 リューグーインを正面から見据える少女。

 彼女に向け、リューグーインは言葉を重ねた。


「君の才能は僕が見極めた! 僕が君の才能を開花させるまで君の師となり君を導こう!」



 場面が暗転する。




○○○





「そう、そう、もっと速く!」


「はい! 師匠!」


 指導するリューグーインと、彼の指導をこなす少女。


「速く! もっと! もっともっと! そう! そこだ!」


 さらに指導に熱が入るリューグーイン。


「はい!」


「そう、そう! 今だッッ!」


「ハイッッッ!」


 彼の指導のお陰で何かを掴んだ少女が、ビュッ! と剣を振るった。


 彼女はこの瞬間に覚醒したのだ。



 場面は暗転する。




○○




「オデは戦うのが怖いんだ! 死にたくないんだど!」


 小太りの男性が涙を浮かべて声を張り上げた。


「けれど、僕達が戦わねば、誰が戦うと言うのか!」


 勇者リューグーインは、この世界のためにも怠惰や弱気を許さんと声を荒げ、畳み掛けるように小太りの男性に問うた。


「君は、君は……この世界が滅びてもいいのかい?」


「オデにはこんな世界は関係ないど! 自分だけ無事ならそれでいいど!」


 小太りの男性も負けじと叫び返し、その場からもたもたと走って逃げたした。


 悲しそうな表情のリューグーイン。


「どうして、僕の気持ちをわかってくれないんだ……」


 リューグーインは投げ掛けるように、


「どうして、この世界がどうなっても構わないだなんて言えるんだ───」


 辛そうな表情を浮かべて、


「───ヤマダ」


 と呟いた。



 場面は暗転する。




○○○




「エリス、君が龍骨騎士を倒すんだ」


「はい。私に任せてください」


 バトルドレスの女性は力強く応え、その隣にいる女性二人が笑顔を浮かべ頷いた。


「良い返事だ。こっちの宝剣のボスモンスターの相手は僕達に任せたまえ! 行くぞ! アンジェ! ミカ!」


「「はい!!」


 女性二人───いかにもなシスター服の女性と、黒い帽子を頭に乗せた女性が、リューグーインの鼓舞に対し元気よく返事した。


「勇者様、貴方を全ての攻撃から御守りいたします」


「私は、貴方に授けられた魔法の数々で敵を粉砕しますわ」



 勇者。聖女。魔法使い。剣聖。


 彼ら英雄達が揃ったのだ。

 ああ、何と心強いことか……ッッ!!

 どれほど凶悪な超高難易度とされるダンジョンのボスモンスターを前にしても、彼らには一片の恐怖心すらもなかった。



 場面は暗転する。



○○○




「オデも戦うど! オデも聖騎士だ! オデは聖騎士ヤマダ! 龍骨剣士! 覚悟するど!」


 勇者一団の決意に水を差すように、小太りの男が、バトルドレスの少女を差し置いて、龍骨剣士の前に名乗り出た。


「ぶっひひーーーーッッ!!」


 威勢が良く雄叫びを上げるも、剣を構えることで精一杯の小太りは一太刀も交えること無く、龍骨剣士にバッサリと切られたのだった。


「ヤマダ、訓練なんて一度もしたことのない君がどうして……」


 悲しそうに呟いたリューグーインはミカに指示を出した。


「ヤマダを救ってやってくれ」


「けど、魔力が!」


 魔力切れが近いのか青白い顔をしたシスター服の女性は簡単には受け入れられなかった。


「構わない! この戦いヤマダに回復を施したせいで不利になろうと! 僕は───僕達は負けやしない!!」



○○○



「いまだ! アンジェ!」


「わかりましたリューグーイン様! 《連鎖式チェインフレア》!!!」


 魔法使いの女性が放った魔法の斜線上に、再び小太りの男性が飛び込んだ。


「オデが報償金をもらうんだど! 女も抱くど! 美味しいもの食べるど! 旨い酒も呑むど! ぶーひっひっひ!」


「アンジェェェェ!! 魔法はキャンセルだ! ヤマダを死なせてしまう!!」


「けどリューグーイン様、この機を逃せばっ!!」


「大丈夫だ! 僕が何とかしてみせるッッ!」



 場面は暗転する。



○○○



 聖剣を握ったリューグーイン。

 その彼の手に、バトルドレスの女性、シスター服の女性、黒い帽子の女性達が、各々それぞれの手を重ね合わせた。


「これが僕達の絆だああああああ!!」


 彼の裂帛れっぱくの気合いと共に彼の手にある聖剣から謎のビームが飛び出した。

 その謎の絆ビームは宝剣のモンスターを飲み込み星空へと消えていった。


「あとはお前だけだ!」とバトルドレスの少女が声を上げた。


「エリス、あとは君に任せた!」


「ハイッッッ!」とリューグーインの信頼に応えるべく、声を張り上げた。


「これが師匠との修行で身に付けた技だぁぁぁ! デュアル・エンジン!!」


 少女の謎の技で、よくわからない謎のエフェクトが発生し、龍骨剣士は「オミゴト」と残し、謎の消滅と相成った。



○○○



「今回は危険な探索だった! これからも危険は伴うだろう! けれど僕達なら! どんなダンジョンだろうが! どんなボスモンスターだろうが! 絶対に負けやしない!!」


 ダンジョンから抜け出したリューグーインパーティは彼を中心に、お互いをねぎらっていた。


 とそこへ、シスター服の女性が「リューグーイン様、聖騎士ヤマダ様がおられません! 確かにさっきまで一緒にいましたのに!」


 狼狽うろたえるミカに、


「構わない! 彼も僕達が護るべき人だ! 彼がここにおらずとも! たとえ彼が逃亡者となろうとも! 僕達のするべきことは変わりやしない!」


 弱者をも───逃亡者をも護るべき民だと考えたリューグーインのセリフに全米が泣いた。






 そこから、彼等のやり取りがまだ続くようだったが、俺は隣のミランに「疲れた」と一言だけ告げて劇場をあとにした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る