第13話 彼がここにおらずとも良い理由①
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ミラン姉妹に冒険者としてお話をせがまれたので、ぼかしながらも自らの経験を彼女達に語った───その直後に話を戻したい。
○○○
俺の話を聞いたミランは遠慮がちに俺に尋ねた。
「あの話、あー、さっきロウにいさんがしてくれた話ってさ、あれって勇者リューグーイン様達の英雄譚でしょ?」
ミランの問い掛けに、俺は、驚きの余り言葉を返せなかった。
「ロウにいさん、そんな風に知らない振りしたってダメだぞ。オレをからかってるのか? 分かってるんだぞ、そうやってふざけたってさ、もうタネは割れてるんだ」
俺の反応を見てミランはどう思ったのか、腕組みして、俺を横目で伺った。
「いや、タネって言われてもよ……お前が何を言ってるのか俺には皆目検討もつかん」
「ロウにいさんさー、じゃあ、たまたまロウにいさんの話と、リューグーイン様の話が似たような話だってのかよー?」
「いや……それは」
状況が、掴めず、ぐらりと、目眩がした。
「すまん、ミラン。
良かったら《勇者リューグーイン》とやらの英雄譚を俺に教えてくれないか?」
疑いの眼差しのまま、仕方ないなぁとミランが話してくれた内容は、俺には到底信じがたいものだった。
○○○
これは俺と竜宮院が召喚されて以降の話だ。
俺が主力となって攻略した《新造最難関迷宮》は以下の七つである。(その内の四つは俺の単独攻略)
《鏡の迷宮》
《光の迷宮》
《力の迷宮》
《不死の迷宮》
《氷の迷宮》
《炎の迷宮》
《刃の迷宮》
そのはずが、いずれのダンジョンもが、竜宮院を中心とした勇者パーティで攻略したこととなっていた。
パーティに加入したミカ、アンジェ、エリスとの逸話も、かなり話が脚色されておりそのいづれもが竜宮院と彼女達との絆を深めたエピソードとなっていた。
ミカと竜宮院の二人で無茶なダンジョンアタックに挑んだ話。
初級魔法しか使えない魔法使いのアンジェリカを賢者のレベルまで押し上げた話。
伸び悩んでいたエリスと地獄のような訓練をこなし、彼女を最強の剣士へと導いた話。
その全ての話で、俺がいたはずのポジションに竜宮院がすっぽりと納まっていた。
そして、逆に俺のポジションはと言えば、悲しくなるくらいに酷いものだった。
話の中の《聖騎士ヤマダ》は小太りで訓練もしない怠惰な性格の人物だった。しかも女と酒が何よりも好きで金にだらしないとくる。そのくせに戦闘になるといつも勇者達の足を引っ張る厄介者だった。
《聖騎士ヤマダ》はそれだけにとどまらず、自分をことさら大きく見せる見栄っ張りで、他者を見下す傲慢さを
話はそれでは終わらない。
極め付けとして、
○○○
ミランの話が終わる頃、夜の終わりを告げる鳥の鳴き声とともに微かに朝日の気配を感じた。
「ふぁ」とミランが口に手も当てずにあくびをした。
無理を言って、まだ子供のミランに遅くまで話をさせてしまったことに罪悪感を覚えながらも、思考のほとんどが、ミランの話してくれた内容について割かれていた。
「すまんかったなミラン! 明日は、感謝の気持ちに何か旨いもんでもご馳走するよ」
「んーっと、オレ考えたんだけど、ロウにいさんさ、まだどうも納得出来てないだろ? わかるよー」
納得いってたまるか!と叫べるものなら叫びたかった。
「だからさ、明日はご馳走の代わりに、劇場に連れてってよ! 今、ちょうど【勇者リューグーインと刃の迷宮(剣聖との出会い編)】やってるから! オレ見たかったんだよね!」
なんなのその演目……?
人間は、度を超した不可思議な事態に遭遇すると思考がシャットダウンしてしまうという。
まさにそれに近い状況だった。
「今やってるリューグーイン様のお話はさ、脚本の監修もリューグーイン様自体がされたってので今超話題なんだよ!」
「お、おう。その劇場だか、なんだか知らねぇけどよ、俺が納得出来るってんなら、ミランだけじゃなくて、マーロさんもフィオも連れてってやるよ」
「やったー! ロウにいさん大好きー!」と喜ぶミランを前にしても、俺はそれどころではなく、色々と頭を抱えたい気分だった。
○○○
劇場で繰り広げられたリューグーインの活躍譚を、最後の少しとカーテンコールを残し、俺はその場から離れた。
もうそこにはいられなかった。
劇場を出てあてどなく歩いた。
とにかく人のいない所に行きたかった。
劇場が歓楽街のど真ん中に位置していたこともあり、中々その願いは叶わなかった。
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