第3話 可愛さ

 5月6日の朝、僕は支度を始める。


 僕は大して友達と遊んだりする事はないので、ちゃんとした服なんてごく僅かだった。


 自分にできる最大限のファッションを注ぎ込みできたのが、白Tに黒カーディガンを羽織り、黒ズボンで固めるといったシンプルなものだ。


 しかし僕は白Tの腹の辺りに、ミートソースの染みが付いていたので、急遽カーディガンを閉めるコーデに変更した。

 まぁこれはこれでありだなと、気を紛らすようにした。


 朝ごはんを食べた後、いつもより入念に歯を磨く。男の準備はまず歯からと、なぜか父に常々言われていた。


 よし、大体準備出来たなと全体鏡を見て、確認する。

 忘れ物の確認も欠かさず行った。


 行こう、そう決意して向かったのは先はマックだった。


 僕は約束の10分前に着いた。印象をなるべく下げたくないからである。


 5分後、坂本水から連絡が入る。


「どこー?」


 僕は一瞬、集合場所を間違えかとあたふたしたが、何度確認しても今いるマックである。


「あ、いた!!!!」


 少し遠くから元気な声が聞こえてきた。

 声がする方向に体を向けると、華奢な女の子が僕に向かって走ってきている。


 こんな事あるんだなと、自分を嘲笑うかのような気持ちになる。


「改めまして!私坂本水っていいます!今日は来てくれてありがとう。」


 僕は初めて坂本水を見たが、あまりの可愛さに一瞬時が止まったかのように思われた。


 艶のある髪、薄紅色の唇、おまけに細い足までついている。まるで女優さんだ。


 僕が会えるような人ではなかったと思う。


「あ、よろしく!」


 あ…から始まるのが根暗の特徴だ。第一印象はおそらく下がったであろう。


 僕たちは流れるように、空いてる席に座る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る