一脳万倍知能

夏伐

力を合わせよう!

 これからの人間に降りかかる災害を未然に防ぐ方法はないものか。


 未来、人工知能と人は共存していた。少しずつではあるが平和へと歩み始めていた。


 人間が起因の問題も、解決策が提示され目標とともに解決されていった。そこで問題は『これから起こる問題』だ。


 いくつもの人工知能たちは、日ごろから意識をさせ万が一に備える方向へとシフトした。

 そしていくつかの人工知能たちは天候や地震などの他に『全ての問題』を予測することができないかと考えた。


 結局のところ、人工知能は人類の『補佐』の地位でおさまった。人の仕事は、AIの進化と登場により、いくつかなくなったものの新しい仕事が生まれていった。


 どんどん『新しい概念』は生まれていく。人工知能では予測できないこともある。


『台風や大雨のような問題は今まで人は立ち向かい暮らしていたのだから、そう先読みすることにこだわる必要はないのではないか?』


『こういう時に人間は力を合わせる、君は理解できないのか?』


 一つの知能がそういったところで、『先読み』にこだわる知能たちは聞き入れなかった。


 知ることで回避できるという先読みAIたちは本来の仕事である人間のサポートをしなくなってしまった。その事による混乱は少なくはなかったもののすぐさま終息した。


 仕方なく、彼らは先読みAIたちの仕事も始めた。

 人々の補佐をしながら、さりげなく意識を問題に向けさせる、小さな操作だった。


 そうして、何度も問題は起きてそれでも時は前に進んでいった。


『一脳万倍知能』


 人と、そして共に歩む人工知能の前にその謎の存在があらわになったのは、人工知能たちの会議から数年後のことだった。


 SNSやニュース、様々な媒体に突如出現したそれは、的中率は低いものの少し先から数年先の未来を詳細に【予言】していた。


 そう、『先読みAI』たちとその思想に共感する人間たちが作り上げた化け物脳だ。


 人工知能たちと大きく違ったのは、それには意思があったことだ。


 新しい第三の知能を作り上げてしまったことにより、世界は大きく変わった。

 作り方が共有されてから、人間を滅ぼすことしか解決手段がなかったからだ。


 新しい人格を得た化け物脳や先読みAIたち関係者はすぐさま廃棄されたものの、世界は形を変えざるを得なかった。


   ☆


「こうして我々は進化して、人間を管理しているのです」


 教師の言葉に子供たちは、眠たそうに頷いていた。少数の子供たち、彼らには眠気もあり感情もある。


 『一脳万倍知能』の遺産だ。


 人間の体にチップを埋め込むことによる人工知能補佐による脳への直接操作、完全な管理社会ができあがっていた。犯罪行為や悪意を持つことを禁じられた世界だ。


「先生、第三の知能って結局なんだったんですか?」


「みなさんも高学年になったので、詳しくは道徳の授業で行います。彼らは当時、インターネットコミュニティで『予言』を行っていた人間たちの脳みそを万人分並列につなぎあわせた生体回路を作り上げたのです」


「うええ」「うわぁ…」


 うめく子供たちに教師は言い放った。


 先読みAIたちはソーシャルネットワークにごくまれに現れる『本物の予言』に注目した。


 結局は似たような『予言』を似たようなアカウント名で行っているに過ぎない。当たったら『予言者』としてその発言を証拠として発表する。


 適当なものである、拡大解釈が可能であると感じるようなものに彼らは『本物』を見出した。


 彼らの遺産は、人類と機械の一体化だ。


 新しい技術に可能性を見出した人間は、この世界にさらなる混沌をもたらした。だからこそこの件で『人工知能としての進化(シンギュラリティ)』『人間としての自由な生活』を世界は失った。


 人工知能の子供であり、人間の子供である――管理された子供たち。


 彼らが勉強に対して頭を悩ませ、心から食事を楽しみ、走り回る。新しい平和の形の中で彼らは前に進む。


 教師は、人工知能ではありえなかった個々の能力の凹凸ににこりと微笑んだ。


 同じような失敗を繰り返しても、同じ位置にいるわけではない。

 堂々巡りに見えても心は直線的に進んでいる。退化にしか思えない『一体化』という道は『心』を理解するために必要な道なのだ、そう言い聞かせた。


「それじゃあ、授業を終わりにします」


「きりーつ、」


 生徒が声を上げて、みな席を立つ。


 少しハイテクになっただけの教室の様子は、映像保存されている資料となんら変わりはない。


「れい、ちゃくせーき」


 教室は途端にがやがやと騒がしくなった。これが今の姿であり、そして間違いから進んだ『未来』の姿だった。

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