第5話 少年と祖父

「私は魔女様のもとにおりますものです」

 アカゴは黒の魔石を門の見張りに見せた。


 見張り番は魔法に長けたものではない。

 だが、黒色の魔石を事もなげに扱う少年。

 しかも、魔石の黒色が、濃い。

 魔女様のお遣いとしか思えない。


 お遣いが見えるのは、稀なこと。貢ぎものの受取への謝意を示された手紙くらいである。一大事だ。


「魔女様の遣いがお見えに!」

 城内を伝令が走る。そして。


「陛下が、お会いになりますと」

 国王に届くのも、あっという間。


「よくぞここまで」

 平凡と言われる国王だが、それはつまり、侵略をするような王ではないということ。


 王座から座して迎えてもらえたことに、アカゴは安堵した。

御寝台ごしんだいでなくてよかった』と。


「お身体にこの魔石を触れさせてもよろしいでしょうか」

「ご随意ずいいに」


 人を癒す魔法を習得しているわけではない。


 だが、魔女様の魔石は、何かを教えて下さるに違いない、アカゴはそう信じていた。


 すると、王の胃の辺りで、魔石の黒色が少し変化した。アカゴにしか分からない程。


「陛下、毎日欠かさずにお召し上がりになるものなどございませぬか」

 周囲のもの達が、会話を始める。


 侍従が一礼し、アカゴに伝えた。

「王太子殿下がお渡しになる薬がそうでございます」

「そちらをお見せ頂けますか」


 国王が肯くと、麻袋に入った薬がアカゴに渡された。


『魔女様、お願い申し上げます』

 アカゴは薬を一つ、魔石にかざした。すると、魔石が薬を吸い込む。


「国王陛下、この薬を魔女様がお調べ下さいます。もしもの時には」


「……分かりました、御遣みつかい殿」


「魔女様のお遣い? 本物か?」


 すると、おめ下さい、の声も聞かずにこちらに向かう不心得者が現れた。


 ……王太子だ。

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