第4話 少年と母

「大きくなって……」

 母は、ひと目でアカゴが我が子であると気づいた。

 髪と目の色もそうだが、恐らくは、魔力。魔女の証を示す必要もない。


 アカゴは、無意識に他者の魔力を吸収していたらしい。魔力持ちの母からは特に多く、ということだったのだろう。

 魔女のそばで成長した今、そのようなことは、ない。


「ありがとうございます」

 自分を生んでくれた人。


 自らを顧みず、魔力を惜しみなく与えてくれた母。

 深く、深く、感謝している。


 だが。


「母上、申し訳ありません。僕は……」


「分かっております。魔女様によろしくお伝えして。魔女様のご迷惑になってはいけませんよ」

 さすがは、魔女に守られた国の魔術師。

 魔女の隣に立ちたいという息子が、誇らしいのだ。


「はい。では、母上、魔力をお返し申し上げます」

 薄い白色の魔石に、込められる限りの魔力を。


「こちらをお持ち下さい。魔女様から頂きました特別な魔石です。母上、ありがとうございました」


魔石を渡された母は、実に誇らしげだ。

「こちらこそ、ありがとう。貴方に渡した以上に返された気がいたします。これで、薬の調合が更に……」


「国王陛下のお身体を癒す薬を、主様でしたらお作りになりますわ」

 つい、言ってしまったのであろう。


 母の侍女は、申し訳ございません、と頭を下げる。


「国王陛下はご体調が? 魔女様はそのようなことは仰っておられませんでしたが」


「私は今、薬草園付の魔術師として働いていて、陛下の御為の薬を納品させて頂いているの。ご用命の品が全て、ご体調が悪い方が飲まれるものばかりなのよ」

 国王陛下のための薬に、万が一があってはならない。第五王子の妻であったものに取り扱いを任せるというのは、よい案と言えよう。


 魔女は、国王については特に何も言ってはいなかった。新聞に書かれている程度のことは、アカゴも知っている。


 そもそも、森の魔女は王宮には深くかかわらない。王宮も、貢ぎものの選定のみ。そういう不文律らしい。


 だが、自分なら。アカゴは思った。


 正直、血は繋がってはいるが、国王陛下は、アカゴにとっては母ほどに強く思う方ではない。


 だが、父上ならどうなさるか。

 母上と、胎児の自分を守り抜かれた方。ご自分の父上に、と可能なかぎりのことはなさるだろう。


「母上、これから、王宮に伺います。陛下のご体調を回復申し上げることができるかも知れませんから」


 きっぱりと、アカゴは言った。




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