第26話 流れていた音楽

 当時流れていた音楽を確認するため、CDプレイヤーのあるあたしの家で聞くことになった。


「美弥ってお嬢様だったんだな」


 確かにあたしの家は一軒家だけど、


「お嬢様って程かな。ほんとにお嬢様って人なら知っているけど」

 

 そう、あの麻衣先輩のことだ。


 あたしは男子を自宅に呼んだことがなかったので緊張した。颯太もどこか居心地が悪いのか何度か座りなおしている。


「早速だけど、音楽聴かせてくれるか?」

「うん、ちょっと待ってね」


 あたしはCDプレイヤーから音楽を流した。


 今流れている曲がドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第4楽章だ。


「ここのヴイオリン上手いな」

「そう、ありがと」

 正直嬉しかった。頑張って練習したところだったからだ。


 あたしは曲を聴きながら文化祭のパンフレットで曲名を確認する。

 

 一曲目がベートーヴェンの交響曲第5番「運命」第1楽章

 二曲目がドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第4楽章

 三曲目がチャイコフスキーのくるみ割り人形「花のワルツ」だ。


「曲の間の切れ目がないな」


 それは松木さんが短気なせいだ。


「指揮者の松木さんのせいよ。あいつせっかちだから拍手が鳴りやむのを待たずに演奏する癖があるんだって」

「余韻がないのはもったいないな」


 その通りだと思う。拍手音が曲の開始時にもろかぶっている。


「準備室にかかっていた去年の音楽はどうだった?」

「曲名は麻衣先輩に聞いて来たよ」


 一曲目がドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第4楽章

 二曲目がプッチーニの「トゥーランドット」 

 三曲目がチャイコフスキーの白鳥の湖「ワルツ」だ。


「CD持っているけど聴く?」

「ああ、頼む」


 あたしは音楽を流した。颯太は腕を組んで真剣に聴いていた。


「選曲は誰がしたんだ?」

「去年は分からないけど、今年は部長の祥子先輩と指揮者の松木さんらしいよ」

「そうか、音楽にもドアを開けて閉じるくらい静かな瞬間はなさそうだな」

「賑やかな曲だからね」

「こうなったら、ダメ元で恩田さんに頼むしかないな」

 


「それで、本当に犯人がわかるのか?」

「はい、おそらく犯人がわかります」

「おそらくって言われてもな」

 

 恩田さんは警察署で悩んでいた。


「よし、わかった。いいか、絶対に多言するなよ」

 あたしたちは頷いた。えっ、これってすごくない。



「やっぱり、音楽の隙間なんてないよね」


 警察署の一室であたしたちは音楽を聴いていたが、曲の隙間には拍手があり、結局、ドアを開閉できるほどの無音の区間はなかった。

 

「どうするの?」

 と心配になって颯太を見ると、颯太はなぜか笑顔だった。

「むしろ好都合だ。恩田さん、もう一点だけいいですか?」

「こうなったらお前を信じるぞ。なんだ?」

「床に落ちていたメトロノームは針には血が付いてなくて、その目盛りに血が付着していたのは間違いないですか?」

「そうだ。間違いない」

「美弥、音楽科に奨学金のような制度はないか?」

「特待生ならあるけど」

「誰が特待生か分かるか?」

「松木さんと祥子先輩よ」

「そうか」

 

 颯太は目を伏せて難しい表情をしていたが、目をあげて、


「犯人が分かったと思います」

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