第24話 協力者

「当時、文化祭で演奏を録音した音楽を聴く鑑賞会をしていたのよ」

「崎田さんは準備室で何をしていたんだ?」


 緑坂みどりざか颯太そうたが聞いてくる。ナチュラルショートの黒髪に普段は眠そうな瞼が、真剣な目になっていた。顔つきはこういう時は妙にりりしい。ミステリー好きらしい男子だ。

 

「祥子先輩は去年の文化祭の演奏を聴いていたんだと思う。コンクールの準備を兼ねて、毎年の文化祭ではオーケストラ部が体育館で演奏し、その演奏を放送部に録音してもらっているのよ。ドアを開けた時にその音楽が流れていてわかったの」


 あたしは紅茶を一口飲んだ。颯太が珍しく入れてくれた紅茶だ。


「崎田さんは犯人について何か言ってないのか?」

「うん、祥子先輩は見てないと言っているけど、先輩は誰かのことを庇っているんだと思う」


 病院で入院している祥子先輩はいつもの笑顔が消えていて、事件のことを聞いても口を閉ざしてどこかぎこちなかった。あれは何かを隠している。 


「直観か?」

「そう、それに額に傷を負っていることから犯人を目撃している可能性が高いんじゃない?」

「その可能性が高いな。美弥、かばっている相手が誰かわかるか?」


 あたしは首を横に振った。


「で、コンクールが近いのにオケ部ではみんな疑心暗鬼になっているみたい」


 部員たちの様子を思い出してため息をついた。あの雰囲気は一緒に演奏できるようなものじゃない。


「でも、ミステリー部のお前がなんでオーケストラ部にいたんだ?」

「それは助っ人で、ヴイオリンの演奏をするって言わなかったっけ」

 あたしは嘘を付いた。演奏することは颯太には伝えてない。


「お前、意図して黙っていただろ」

 と颯太が目を細める。

「演奏を聴かれるのが恥ずかしかったからよ」

「美弥が演奏していたなら聴きたかったな」


 颯太は残念そうな顔をしていた。そう言う顔はやめてほしいな。


「一応言っておくけど、俺はただのミステリー好きで探偵ではないから解決できるかわからないよ」

「二度目だから知ってる。犯人探しに協力してほしいの」

「了解、同じミステリー部のよしみで協力はする」


 颯太は微笑んだ。その顔を見てあたしはドキッとする。たぶん、安堵もあるけど、頼りにしてしまっているんだろうなと思う。だからあたしも本気で手伝おうと思った。


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