第17話 嵐の山荘

 夕方、俺たちはリビングルームで、あの三人から一年前の情報を聞いていた。


「恭子が子供を連れてきたときは驚いたわ」

「そうだね。別れが失踪に近いものだったからね」


 恭子さんは高校三年のときに家出をした。メールから恋人と駆け落ちだったそうだ。付き合うのを両親ともめた上の駆け落ちだったらしい。


 その相手と言うのが、

「写真を見たけど、舌にピアスをするような奴だったわけよ」


 その見た目も白川夫婦は付き合うのを反対していた理由らしい。恭子さんは元々温室育ちのお嬢様でそれはご両親としては反対するわねと中原さんは頷いていた。


 恭子さんとはメールのやり取りが続いていたが、大学を卒業し社会人になる中で次第に恭子さんとの少なくなっていったそうだ。


「恭子は同窓会の五回目に来てくれたんだ」


 それが去年の恭子さんが失踪した同窓会だったそうだ。そして最終日、恭子さんは流星くんを連れて軽自動車で白鷺荘を出たのを最後に行方不明になっている。


「冷静なようだけど、こいつ、恭子に惚れていたんだぜ」

「ちょっとやめなさいよ。武志」

「優子はそんな勝利が好きだったよな」

「武志、やめないか」

「高校時代の話だろ」


 恩田さんは結露の付いたマグカップを煽り、ハードボイルドの本を読み始めた。談話室では一人一冊まで本を自由に借りることができた。中原さんはサスペンス、江口さんは評論、美弥は純文学、俺はミステリーを借りている。


「お酒、飲みすぎでしょ」

「今度は水だ」


 部内で三角関係か。グループ間のもめごとは恋愛が多いと聞くが、今回の事件にも関係しているんだろうか?



 それは俺たちがラウンジで食事を取っていた時だった。入り口からコートを着た男性が入ってきた。受付で熊さんと話しているようだった。


「外はひどい嵐ですよ」

「今、入浴や食事ができますがどうされます?」

「や、後でいいですよ」


 見たところ三十代くらいの男性だった。眼鏡をかけて真面目そうな横顔だった。


「ねぇ、ここで目撃された強面の男性と派手な女性って、恩田さんと中原さんだと思う?」

「本人たちの話通り違うんじゃないか?」


 二人にもそれとなく聞いてみたが、二人とも否定した。同窓会のある一年に一回しかここには来てないそうだ。


「恋人同士ってことはないかな? 二人して口裏を合わせているとか?」

「あの二人はそんな関係には見えないけどな」

「それは颯太が鈍いからじゃない? 少なくとも恩田さんは中原さんを狙っているみたいよ」

「それ本当か?」

「恩田さん口ではああいっているけど、チラチラと中原さんのことを気にしてるように見てるから」


 それには気が付かなかった。四角関係なのか? それより――、


「美弥、俺ってそんなに鈍いか?」

「うん、鈍いね」


 正直なところ、それは異性としてのアピールなのではとも思ったが、俺は怖くて告白できなかった。失敗したら今の良好な関係も崩れてしまうためだ。

 

 美弥は少し赤い顔で俺を挑戦的に見ていた。こいつ――、


「鈍いのは美弥の方じゃないか?」

「どうかな」

 美弥は赤い顔で楽しそうに微笑むと、目を伏せて食事に手をつけた。

 

 美弥は気が強い女子だがその分はっきりした明るい性格で、学校では人気だ。本人もそれは知っているはずで、異性と付き合った経験のない俺にとってはかなりハードルが高い相手だった。

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