第14話 子取り様の箱庭
俺たちは二階の暗い部屋の中にいた。ベッドで北沢がガーゼや包帯を巻いてくれる。
「傷は残りそうか?」
「これなら平気だ。安心しな」
「さすが医者の卵だな」
「いいから安静にしていろよ」
北沢に言われて俺はベッドに横になった。熱が少し出てきたようだ。頭が少し重い。
「ごめんなさい。私が不甲斐ないばかりに」
立川が泣きながら謝ってきた。
「気にするなよ。相手が悪すぎる」
相手は何人も生徒を殺したシリアルキラーだ。
「崖崩れって本当なのかな」
「あいつらの言葉だから嘘だろうな」
「俺、助けを呼んでくる」
「いや危険すぎる。相手は車を持っているんだ。ここに留まって朝を待った方がいい。朝になればあいつらも諦めて逃げるはずだ」
さすがにあいつらもここに来た人間を一人残らず殺したりしないだろう。ところが時間が経つにつれ何かを見過ごしているような強烈な違和感を感じた。
ドアの方からギリリと音が聞こえた。そしてガタンという音と共にドアが蹴破られた。
応戦しようとした森里のスタンガンを弾き飛ばし、遅れて来たハルがそのまま彼女を羽交い絞めにした。
北沢が持とうしたレンチはユウが遠くに蹴飛ばした。ユウは手にバールを持っていた。
「スタンガンなんて危ないもの持っちゃダメじゃない!」
ハルは満足そうにナイフを森里の首に押し当てる。
「どうしてここがわかったんだ?」
「お前の血だよ。お前たちと同じことをしたわけだ!」
ユウは残虐そうな笑みを見せた。
「もう殺しちゃおうよ」
「まあ待てってハル。緑坂だったか、色々聞きたいことがあるんじゃないか?」
「どうして俺たちが遺体を探しているってわかったんだ?」
「お前たち有名だぞ。学校でルミノール液を使ったって聞いてすぐにわかった。そしてあの廃墟を調べていたことから遺体が見つかるのも時間の問題だって悟ったわけだ」
「堀口はどうした?」
「あの子は二番目に殺したな。不用心にもドアを開けるから首を絞めてやった」
「クソ野郎が!」
北沢はそう叫んで涙を流した。
「犠牲者の松田さんはお前たちの最初の犠牲者なんだろ?」
「ああ、そうだ。あの廃墟でいじめをしているときにな。殺してしまったんだ」
それは予期していなかったことだったらしい。ユウたちは遺体をあの廃墟に隠すことにした。というのもあの廃墟を管理していたのがユウの親族だったそうだ。そしてそのままユウたちは高校を卒業した。
それからユウたちはお金を稼ぐために犯罪に手を染めたらしい。
「裏の仕事には無知な若い子を使うのがいいんだ。あいつらは弱みを握ってやると従順になる」
いじめや、万引きをしていた生徒を動画を撮って脅し、さらに重い罪の犯罪をさせてその様子を録画し、亡くなった生徒たちを自分たちのいいなりにしていたようだ。
男子なら窃盗、女子なら売春、薬の売人をさせて稼いでいたらしい。そして、警察に逃げ込むようなそぶりを感じたら始末してあの廃墟に遺体を放置していたようだ。
「あの松田の遺体は見つからなかった。だったらこれからも見つからないはずだ」
そう話すユウの目はギラギラと輝いていた。
「最低だわ」
立川が泣きながら吐き捨てる。ユウは捕えた獲物を見るように満足げに笑っていた。
そのとき、ドアの向こうからバットを構えた受付の髭を伸ばしたお爺さんがゆっくりとこちらに向かって来た。
「残念ながらそろそろお別れだな」
ユウは俺に向かってバールを振り上げた。
その瞬間、お爺さんがバットを振り下ろした。それからはあっという間だった。ユウが倒れ、ハルが気が付きとびかかろうとしたところにバットで殴打する。ユウとハルは床で倒れて呻いていた。
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