第13話 子取り様の正体
「待ってください!」
プールサイドで俺は叫んだ。
「どうしたんだ?」
とユウさんが振り返り怪訝そうな顔をする。
「真犯人がわかりました」
「緑坂、本当なの?」
「ああ、今から説明する」
俺は本を開いて、
「この本は英語で書かれている。当然、読む向きは日本語とは逆の左からになります。そして問題なのが、栞は血のページよりも右側に挟まっていた。いいですか、読んでいる先のページに栞が挟まっていたんです。つまり、遡って読んでいたことになる。あの小説はミステリーでない物語だ。ミステリーじゃない限り、戻ってページを読む人なんてまずいません」
「でも君さ、あの本には血が付いていたじゃない?」
「はい、それは血の付いていたことと矛盾します。つまり、これは偽の証拠、犯人が意図して配置した罠です。犯人は目立つようにわざと立てて本を置いたんです。でもこれはおかしい」
「どこがおかしい?」
「地震ですよ。地震が起きているのを知っている人間ならこんな不安定な配置をしたりしない。犯行時間が限定され正しい犯人が絞られるわけですからね」
偽の証拠を仕掛ける犯人ならそんなへまはしないはずだ。
「だから犯人は地震を知らない人間だ」
「でも緑坂、あの地震を知らないってそんな人いるの?」
俺は左手にあるプールに目を向けた。
「緩和剤の中にいた人たちだ。ここにあるプールだ。プールに浮いているか泳いでいれば地震に気が付かない可能性がある」
「犯行時にプールに入る奴なんていると思うか?」
「返り血だ。あんたたちは体に付いた返り血を消すために犯行後にプールに入っていた」
立川が素早くルミノール液をユウとハルに吹き付けた。すると、奴らの服は青白く発光した。それは亡くなった生徒たちの血の痕跡だった。洗っても残っていたんだろう。
「まったく、高校生がルミノール液とか反則だろ」
ユウは素早く近くにいた立川を後ろ手に手錠のようなもので拘束し、こちらに駆けてきた。
眼前にレンチが振られる。俺はとっさにドライバーでかばったが、勢い余ってそのまま、プールに落ちた。
水面に顔を出すと頭上に衝撃を受けた。痛みに呻き、気が付くと水面が真っ赤に染まっていた。
「まさか、俺たちが意図してないことを推理で指摘されるとはな!」
ユウの目はギラギラと輝き、口元には笑みが浮かんでいた。
「ハル、お前が本を立てたりするからだぞ」
「ごめん、だってそんなの気が付かないでしょ」
ハルは森里の首元にナイフを押しやった。
「北沢くんとか言ったな、その場に武器を捨てろ! でないと」
ユウのレンチが頭部に当たる。俺は痛みと衝撃で溺れそうになるのをなんとかこらえた。
北沢は包丁を構えたまま震えていた。
「北沢、武器は捨てずに逃げろ!」
「うるさい!」
俺はプールサイドから距離を取ってかわしたが、痛みで意識が朦朧としてきた。そのとき、不意にバチバチという音が聞こえ、気が付くとハルが倒れていた。
「武器を捨ててあたしたちから離れろ! でないと大事な彼女さんの心臓が止まるぞ!」
森里はハルの首元にスタンガンのようなものをあてがっていた。
「降参だ」
ユウは武器を捨てて手を挙げて大浴場の方に離れて行く。俺はその隙にプールサイドに上がった。
「緑坂、大丈夫かよ!?」
「なんとかな、助かった森里」
「仕込んでいたのよ」
森里はスカートを上げて見せてくれた。腿のあたりに黒いホルダーのようなものが括り付けられている。隠し持っていたらしい。
「早く逃げよう!」
北沢はユウが落としたレンチを手に取った。森里は拘束されている立川を立ち上がらせて、俺たちはヴィラのエントランスに向かった。
「どこに逃げる?」
「俺たちの元の部屋だとすぐにばれる。マスターキーを持ってきた」
俺はポケットから鍵を取り出して見せる。
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