第12話 血の付いた本
「なるほど、その子取り様が犯人だっていうのか?」
ユウさんは手に持っているレンチを見ていた。
「間違えないと思います。あの廃ホテルには生徒の遺体がありました」
「でも、どうやって遺体を見つけた?」
「ルミノール反応です。それで血痕を追いました」
「なるほどね。僕たちは巻き込まれたわけか」
ユウさんはため息をついた。俺は謝った。
「その写真を持っていた管理人さんが怪しいな。行方不明の生徒なんだろう」
「はい、立川の話では顔が同じだったそうです」
最初の犠牲者の生徒の写真を管理人が持っていた。普通に考えれば、あの管理人は犠牲者の親族なのかもしれない。廃墟の犠牲者の中にその生徒がいたのか気になる。
「北沢、廃墟の中の遺体の人数は七人で間違えないか?」
「俺も七人だった。遺体の数は一致しているぜ」
となるとその生徒の遺体もあの中にあったことになる。
ヴィラのエントランスに戻ると、黒川の遺体が嫌でも目についた。
「よし、俺たちが調べよう」
とユウさんが遺体に近づく。
「それはさすがにまずいのでは?」
「立川さんだったか。警察がいない今は非常事態だ。自分たちの身は自分たちで守るしかない」
「この人、ちょっと変に真面目だから」
ハルさんが苦笑いをする。
ユウさんは遺留品を調べて回る。俺も黒川に手を合わせて遺体や遺留品を眺める。遺体は頭部を滅多打ちにされていて、血が床に飛び散っている。その遺体は木製のベンチのすぐ前に倒れていた。ベンチの後ろにはツツジや木々が植えられている。そして遺体のすぐ横にあの本が縦に立っていた。
よく見るとその本には血のようなものが付いている。ユウさんも気が付いたらしい。
「開いて見よう」
ユウさんが指紋を残さないように器用に服で本を掴んで開く。英語の本で血が付いているのはちょうど真ん中くらいのページだった。
「物語ですね」
「立川、この本のことを知っているのか?」
「ええ、フランスが原作の純文学よ。前に黒川くんに聞いたことがあるわ」
立川は視線を落とす。
「栞が付いているみたいですよ」
森里の言葉にユウさんが右のページをめくっていくとあるページに小さな栞が挟んであった。
「本にも血液が飛んでいることや、遺体の状態を見るに犯人は返り血を浴びた可能性が高いです」
俺はここにいる人たちの衣服を確認していく。ユウさんとハルさんはプールから上がったばかりなのか、髪は少し濡れて水着の上から上着を羽織っている状態だった。逆に俺たちは今朝から同じ服を着ている。誰の衣服にも血液などの跡はなく、先ほどの夫婦の衣服にも血液の跡はなかった。
「レインコートのようなものを羽織っていた可能性もあるな」
「そうですね」
返り血では犯人は絞り込めない。何か他に証拠はないだろうか?
「この本自体はどうだ?」
ユウさんは本に目を向ける。
「本に血が付いていることから本を広げた状態で頭を殴られ、その本に血が付いたんだろうな」
それは俺も異論はなかった。
「亡くなった子の後ろには草木がある。犯人は正面から来たと考えるべきだ。そしてこの子は犯人が来ても本を閉じなかった。つまり、犯人は顔見知りだったんだ」
「それってどういうことユウ?」
「君たち学生の中に犯人がいるんだ。もしくは今ここにいない堀口さんだな」
その言葉に俺たちは互いに顔を見合わせる。ユウさんの言葉に疑心暗鬼になっていた。
「君たちは廃ホテルに向かう前、どういう風に合流した?」
「男女別です。わたしと森里さんが先にいて、そこに緑坂くんと遅れて北沢くんが」
「俺はトイレに行っていただけだ。その時は黒川は部屋にいたぜ」
北沢の顔は強張っていた。
確かに北沢は「トイレに行ってから合流する」と言っていた。
「悪く思わないでほしい。君を含めた男子がグルの可能性も考えられる」
「緑坂はそんなことしないです!」
森里がキッとユウさんを睨んだ。
「俺はやってないです」
「それを論理的に説明できるか?」
それを言われると否定できない。話の主導権を完全にユウさんに握られてしまっていた。
「それよりも動機的に怪しいのは管理人じゃないですか?」
森里の言葉にハルさんが優しく彼女の肩を叩いた。
「とりあえず、僕たちは安全を確保したい。疑いのある男子の君たちとは距離を取らせてくれ。僕たちは大浴場を使う。君たちはそれぞれの部屋で別れるかして救助者を待つんだ」
異論は上がらなかった。俺は何か違和感を感じて思案する。何か見過ごしたものがある気がした。
「緑坂、お前も俺が犯人だと思ってるんだろ!」
「いや、違うんだろ。犯人が分かったぞ!」
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