第11話 クローズドサークル
俺たちは廃ホテルを脱出した。どう逃げてきたかはもう覚えていなかった。
森里は道の真ん中で嗚咽していた。その横で立川が青い顔で座り込んでいる。
「緑坂、お前は大丈夫か?」
「なんとかな。北沢は平気そうだな」
「俺は医者を目指しているから、ある程度は慣れてるんだよ」
「そうか助かる。とりあえず黒川たちと連携して警察に連絡するために受付のあるロッジに向かおう」
しかし、ヴィラに戻るとそこで黒川の遺体を見つけた。エントランスの休憩スペースで黒川はうつ伏せに倒れ、頭部を滅多打ちにされていた。北沢が安否を確認していたが首を横に振った。悪夢のような出来事の連続に俺たちは言葉を無くしていた。
黒川の周囲を確認する。遺体の近くには本が縦に立っていた。争った際に落ちたんだろうか? とにかく今は――、
「立川、北沢と一緒に堀口を探してくれ。森里は俺と泊っている客を集めるぞ」
カップルらしき男女と家族連れの夫婦らしき男女を呼んだところで、俺は廃墟で見た遺体を含めて説明した。夫婦らしき女性は貧血で倒れそうになり夫が支えた。
「これはひどいな」
カップルらしき男性が絶句する。その顔立ちは整っていて髪は茶色に染めている。大学生のような二十代くらいの男性だった。黒川の遺体を見て口に手をやっている女性の方は目を引く美人で同じく二十代くらいだった。
「僕たちは悪いけど、警察が来るまで部屋で待機させてもらう。子供もいるんだ」
夫婦らしき神経質そうな三十代くらいの男性は俺たちの意見を聞かずに妻を支えて部屋に戻って行った。
それから少しして立川と北沢が戻ってきた。
「堀口さん、部屋にいなかったわ」
「ねぇユウ、わたし怖い」
「ハル、大丈夫だ。俺が何とかする」
ユウさんがハルさんを安心させるように肩に手を回し抱きしめた。
「とりあえず受付に行きましょう」
「そうだな。俺の車もある」
受付のあるロッジは何者かに入り口のガラス戸が壊れされていた。
「これ、誰がやったのよ……」
「とりあえず中に入って電話が使えないか確認しましょう!」
「ユウさんたちは車で警察に連絡をお願いします」
「あぁ、わかった。お前たちも気を付けろよ」
ユウさんたちは赤い派手なスポーツカーに乗り込んでいた。
ロッジ内は散々な様子だった。機械類は壊されて電話もコードが切られていた。名簿には昼間と同じで俺たちを除くと二組しか予約はない。受付奥にかけられている鍵も四部屋分の鍵が抜けていた。
「ねぇ、これ見て!」
森里のいる受付には机があり、その上に写真立てが置かれていた。校門前で撮影したんだろう。その写真には緑坂高校と書かれた正門の隣にうちの高校の制服を着た男子が立っている。
「この写真の男子に見覚えがある。そう一年目の行方不明者の松田雄太くんよ」
「立川、それは間違いないのか?」
「ええ」
立川は立ち眩みしたのか、壁に手をやった。
そのことについて考えたいが今は周囲を警戒しつつ武器のようなものを探すべきだ。俺は鍵棚からマスターキーを手に取り、近くの工具箱からドライバーを手に取った。北沢も包丁をもっていた。
車の停まる音が聞こえて俺たちは外に出た。ユウさんはスポーツカーから降りるなり首を横に振った。
「ダメだ。車で見てきたが道路は土砂崩れで塞がれている」
「なんですって!?」
俺たちは動揺した。これはミステリーでいうクローズドサークルだ。森里が不安そうな表情で俺を見てきた。彼女の肩に優しく触れる。
「とりあえず、武器を持ってヴィラに戻りましょう。ここだと犯人に遭遇したら隠れる場所がない」
「事情をしっかりと説明してくれよ、君たち」
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