第9話 天井の足跡

 いつものように学校に登校すると、なぜか昇降口付近に人だかりができていた。 


「どうしたんだ?」

 クラスメートの森里もりさと美弥みやに聞くと、

「誰かが天井に泥を付けてイタズラしたみたい」


 なんでも昇降口の天井に泥が付着しているのを生徒たちが見つけたようだ。天井にはさらに足跡が付いているという。学年委員の立川が群衆の真ん中で泥を確認していた。



「昨日から上級生の中村なかむら美香みかさんが行方不明だそうよ」

 放課後の学習室に立川の声が響く。

「行方不明っておいまさか!?」

「おそらく、子取り様ね」

「行方不明ってことは何か狙われた理由があるのかもしれませんね」 

「その中村さんだけど、美人局をしていたらしいよ」

 耳よりな情報があるということで会議に参加していた森里が口を挟んだ。

「美人局?」

「そ、男子とつるんでサラリーマンとか狙っていたみたい」

「悪いことをしてるな」

「うん、それに最近様子がおかしかったんだって」


 森里によると、中村は学校を休みがちになり何かに怯えているようだったと、中村と同じクラスの二年の先輩が言っていたそうだ。


「森里、その男子が誰なのか知っているか?」

「それがさ。行方不明になっている沼代先輩らしいよ」

「話が繋がったわね」

 二人が一緒に悪さをしてどうして行方不明になったんだろうか?

「そいつが子取り様の仕業だとしてさ、なんでそれが子取り様にバレたんだろうな?」

 北沢の疑問はもっともだった。

「確かにそれは疑問ね」

 黒板に堀口が疑問点を書いていく。

「あの泥も変よね。行方不明になった翌日にあるなんてさ」

 疑念は尽きなかった。

「その泥を見たけど、泥に付いていた足跡があったでしょう」

「そうなんか?」

「ええ、その足跡はサイズが平均より小さかった」

「サイズが小さいってことは女子よね。中村さんの足跡とか?」

「なんつうか、神隠しみたいだよな」

「立川、行方不明になった翌日に泥が付いていたってことはよくあったのか?」

「以前に一回だけあったわ。学校前の道路に付いていたそう」

 前例があったのか、でも誰がどうして、何の目的で付けたんだろうか?



「体調大丈夫?」

 保健室のベッドで横になっていると、森里が訪ねてきた。


 情けないことに足跡のことを考えていたら気持ち悪くなってしまい、こうして保健室で休んでいた。


「いやなこと話していいか?」

「うーん、やめとく」

「天井に足跡がどうやったらつくか考えたんだ。体を頭を下に持ち上げたときに足は膝から折れて下がるだろ」

 森里が殴ってきた。

「それは、そうね」

「足が天井に付くのは難しい。ただ一つだけ方法があるんだ」

「どんな場合よ」

「死後硬直のような状態の体が固定された遺体を運んだ時に付く」

「血液を泥で隠したってこと?」

 森里の顔から血の気なくなっていく。俺は頷いた。



「なるほどなぁ、それでルミノール液を作っているわけか」

「あぁ、ルミノール液があれば血痕がわかるからな」


 しかし、立川は手際がいい。慣れた手つきでメモを取りながらルミノール液の作成を進めている。


「立川とは中学が同じで腐れ縁なんだ」

 そう北沢が耳打ちしてくる。


 立川は中学までは三つ編みの真面目な女子だったらしい。それが見事高校デビューに成功したそうだ。昔からのしっかりとした性格を生かして見事に学年委員長になったらしい。


 逆に北沢は医者を目指しているらしく成績は上位らしいと立川から聞いていた。その垢ぬけた顔立ちから女子にファンがいるそうだ。ただいい加減な性格らしく、将来医者になったなら絶対に診てもらいたくないそうだ。


「できたわ」


 黒川がカーテンを閉めて電気を消した。暗い中、立川がビーカーの中の液体を一滴、大根に垂らすとその液体は青白く発光した。



 夜、俺たちは昇降口前に来ていた。部活動を終えた生徒たちが気になるのか集まっている。人が多い方がいいという立川の意見から、気にせずに進める。


 立川が霧吹きで昇降口の泥が付いていた天井にルミノール液を吹き付けると、星のような点々とした青白い光が見えた。

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