第2話 開かずの校長室
「早速だけど説明してもいい?」
駅前のファミレスで森里が聞いてきた。俺は頷く。女子とこういった場所に来たことがなかったので緊張してしまった。
「一つ目が開かずの倉庫っていう話なんだけど」
それは五年前の話だった。当時の校長先生がある日を境に行方不明になったそうだ。地域住民や教師たちが探したが結局見つからなかったらしい。
「その行方不明の校長先生が松原雄一って人ね」
松原校長はそれ以降姿を見せなくなった。引き継いだ理事たちによって学校運営は何とかなったそうだが、当時、松原校長が使っていた自室は彼の事前に作成していた遺言状から鍵をかけられて封鎖されることになったそうだ。今でもそこは暗いカーテンで仕切られ開かずの部屋となっている。
「何か月も経ってね。その校長室から異臭がしたそう」
生徒の声を聞きつけた教師たちが室内を調べたようだが、遺体等は見つからなかったらしい。
「夏になると決まって異臭がするんだって、で気味が悪いのが」
森里は顔をしかめて、
「カタカタって深夜に物音が聞こえるらしいのよ」
と俺を見てきた。
「それは家鳴りかもな」
「家鳴り?」
「旧校舎は木造だから空気中の水分を吸って、木材が膨張やその逆で水分がなくなり収縮することで音を出すことがあるらしい」
「そうなんだ」
音の方は説明が付くが異臭の方はわからない。
「異臭の方は実際に嗅いでみないと何とも言えないな」
「旧校舎ってもう警察の調査は終わって解放されているから明日でも見に行かない?」
本庄が亡くなった旧校舎を探索するのは気が進まなかったが、本庄の無念を晴らすためだと自分に言い聞かせて、俺は頷いた。
翌日、調べてわかったのが、校長室の鍵自体は理事の方で管理しているらしく学校には置いてないそうだ。せめて室外だけでも確認するため、放課後、俺たちは旧校舎に向かった。
中庭から旧校舎に入ると一階ホールはがらんとしていた。隣で森里が息を飲んだ。ついこの前、ここで本庄が亡くなったんだよなと考えてしまう。
ホールの吹き抜けの階段から二階に上がると、左手奥に校長室という表札が見えた。異臭はしなかった。
黒みがかった木材の扉に付いた真鍮製のドアハンドルをひねってみたが、鍵が確かにかかっている。その下には「いえたよ」「はるか」と気味の悪い文字がドアに刻まれていた。それも屈まなければならないほど低い位置だ。
「なにこれ」
森里が背筋を震わせる。確かに気味が悪かった。
周りを見てみると、角部屋になっていて窓が少ないため少し薄暗く気味悪さを助長していた。
「噂だとこの中を教師たちが調べたんだよな」
「みたいね。室内側に窓がないから確認できない」
旧校舎の他の部屋には室内側に窓があるのになぜか校長室は室内側の窓がなかった。おまけに外側からは黒っぽいカーテンが閉められている。
「本庄はこれを一人で調べていたのか?」
「うん、あの子は記者を目指していたから」
森里が悲しそうに目をそらして、
「あたしも手伝うべきだった」
友達思いの子なんだろう。森里の気持ちは伝わった。しかし、調べてみたいが鍵がなければこれ以上は何もできない。
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