英雄譚(35) ヒーローたちは再会する。


「フーは、ボクをどう思う? ボクはまだ……覚悟が足りていないのかな」


 学園を出た後、ひろとは彼女に思っていたことを聞いてみた。

 行く当てもなく、学園の外を歩き回りながら、気を紛らわせるひろと。

 その瞳にはいつもの力強さがなく、顔も意気消沈と下を向いている。


 芹澤葵は、ぼっちな自分と初めて遊んでくれた少女だ。

 いかに敵対組織にあるとはいえ、ひろとは彼女を敵視できない。


『……私は、口出ししないわ』

「えっ?」


 ひろとは意外なように、きょとんと口を開けた。

 てっきり彼女から「甘いわね」と、そう咎められると思っていたから。


『これもまた、人の営みなの。友情や愛情、憎悪ひとつ取ってみても、そこには正解がないと思うわ。自分は、何をしたらいいのか。何をするべきなのか。――その選択肢には、際限がないの。人それぞれ見えている景色が違って、掴み取る未来も変わってくる。だからひろとも、一人で決めなさい。英雄として、【小峰大翔の王道】を作るには、誰かにおもねてはいけない。《ヒーローになる》とは、そういうことよ』


 大英雄らしいジークフリートたる助言だ。


 しかしひろとには、自分がどうするべきなのかが分からない。

 アイスストームは、倒すつもりだ。彼らはこれからも道理のない考えで人々を傷つけ、あの日自分が命を落としてしまったように、誰かが巻き添えになってしまうかもしれない。


 だけど、彼女……芹澤葵とは、戦いたくない。

 悪だと分かっているのに、戦えない。

 その意思決定には理論と感情が反発し合い、答えは決して導き出せぬまま、矛盾したまま問いそのものが破綻する。


 選ばなければならない――芹澤葵を倒すのか、倒さないのか。

 それはつまり、悪を討つのか、悪を見逃すのかという全く属性が異なる二択だ。

 葵を野放しすることはアイスストームへの加勢となり、それに加担したひろとも悪に近しい存在となるだろう。【英雄】として、断じてあってはならぬ在り方だ。


 いよいよ、決断の時だ。

 もしも、彼女と戦う時が来たら――自分は、彼女を傷つけられるのだろうか。


「あれは……」


 街を歩いていると、公園でブランコに揺られている青髪の少女が。


「また会ったね、ひろとくん」


 奇しくも、二人の再開は早かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る