英雄譚(14) ヒーローはシスターさまとお風呂にベッドに。


「ねぇ、ユノちゃん。これって、本当にいいんだよね?」

「カガリさんは、いいって言ってた」

「そう、だけど……」


 二人がいる場所は、教会の寝室。

 普段はユノが使用している部屋に、ひろとがいる。

 ご飯も食べて、ひろとはこれから勉強でもしようかなと筆記用具を広げた瞬間、パサリと嫌な音が背後から聞こえた。


「ユ、ユノちゃん……何を」


 シスターさんは上も下も脱ぎ捨てて、あられもない姿をなっている。

 ユノは、結菜先輩やリリアス先生ほど、立派なものは持っていない。

 だが、彼女の房のバランスは素晴らしく、形も綺麗なおわん型だ。

 ハリツヤにも優れており、薄暗い寝室の中でも煌めいて見える。

 少し歩いただけで、それはぷるんっと揺れ、完璧な円形を成した輪っかは淡い紅色で、花弁のように咲き誇っている。

 

「ひーくん?」

「あっ、その……ご、ごめん!」


 その美しさに見惚れていたがひろとは、ハッと顔を前に戻す。


「ど、どうしてユノちゃんは、裸になったの?」

「洗体の時間……これから、身体を清める時間なの」

「そっか、シスターさんだもんね」

「よかったら、ひーくんにも手伝ってほしいの」

「……えっ?」


「シスターがちゃんと、身体のけがれを祓えているかどうか、第三者に見守られる必要があるの。これはいつも、聖母さまにお願いしているの。でも、今日は外出中」


「い、いやっ、でもそれだと……ボクも、同じ浴室に」

「ひーくんがダメなら、その辺の人にお願いするの」

「そ、それは危険すぎるから! え、えと……分かった。同伴するよ」


 部屋に設けられた簡素なシャワールームにユノが入り、続けてひろとも入ろうとする。しかし、


「ひーくん。ここは儀式の場だから、服は脱いでほしいの」

「う、うん……大切なことだもんね。脱いでおくよ」

「あっ、タオルもダメなの」

「そんなぁ!!?」


 同級生の女の子と、何も持たずに浴室へと入るひろと。


「……」


 ひろとが恥ずかしそうに顔を背けている時に、ユノはチラっとひろとを一瞥した。

 彼女が何を目にしたかったのかは、神さまでしか知り得ないことだろう。


「ひーくん、まだ小さいまま・・・・・なの?」

「えっと……身長はそうだね。あんまり、伸びていかなくて……」

「たしかに、伸びが悪い・・・・・ようなの」

「ごめんね。そのうち、もっと大きくなるから!」

「うん、期待しているの。それじゃあ……身体を清めていくの」

「ボクも、浴びた方がいい?」

「大丈夫。ちゃんと、見守っていてほしいの」


 清めの冷水がさあっと降り注ぎ、白髪と白い柔肌に水滴を滴らせていくユノ。

 彼女の美麗な膨らみにも水滴が垂れ、つややかな肌は水の群を弾いていく。

 思春期男子なら欲情を催してしまいそうなワンシーンだが、ひろとは清純な面持ちで彼女を見届けていた。瞳を閉じて、精神を集中させるユノ。

 たとえ全裸だろうと、ひろとは彼女が清まるところを真摯に見守っている。


「ありがとう、ひーくん」


 清めの時間も終わって、ユノはシャワーをとめた。


「ううん、大したことはしてないよ」

「でもでも、助かったの。それじゃあ、身体を拭いて部屋に戻るの」


 見事に欲情を耐えきったひろとは、ようやくのひと息をつく。

 タオルで拭いて、寝間着に着替えて、今日のデートはクリアだ。


「って、うわああぁっ!? ユノちゃん、なにをしているの!!?」


 と思いきや、今度は服装に問題が。


 ユノは、ウェディングベールみたく薄い布切れ一枚に着替えていた。透けているどころの話ではなく、ある意味、ただの裸よりも刺激が強い。


「夜は、けがれが湧く時間なの。こうして月明かりに晒されることで、清い身体を保てるの」

「……ボク、もう寝ていいかな?」

「祈るから、待ってて。祈ってる間は、ユノを見守っていてほしいの」


 信徒の礼拝を妨げるのは、流石に失礼だろう。

 ひろとは頭で宇宙のことでも考えながら、無心でユノを見守り続けた。

 あってないような布を纏い、窓の下で、月明かりにさらされるシスター。

 見守れとはいうが、いったいどこを見守ったらいいのか。

 ひろとはつややかな膨らみ――にはいかないように、視線を彼女の顔に留めた。

 そうして、短いようで長い一分が過ぎた。


「それじゃあ、寝ようか」

「うん、なの!」


 ここはユノの部屋、よってベッドはひとつしかない。

 ひろとは横向きになって目を閉じて、ユノは後ろから抱き着いて眠る。

 むにゅんっと伝わってくる豊かな弾力は、気にしないことにした。

 というか、ジークフリートのおかげで、けっこう耐性が出来ていた。


「ひーくん……」


 ひろとの名前を呼びながら、ユノはウトウトと眠たげにしている。

 抱き寄せられているひろとも、その温かさで睡魔が来た。

 これまで何とか維持し続けてきた意識は、微睡の中へと沈んでいき――。


「――ユノちゃん!」


 トラックを防いだ時に感じた、あの嫌な気配が、急速に近づいてくる感触。

 アイスストームの襲撃だと察知して、ひろとはベッドから起き上がった。


「……あれ?」


 けれど、既にユノの姿はベッドになく、


「ぐはぁっ!」

「なんだ、このエロシスターは!!?」


 先んじてユノが身廊で、アイスストームたちを抑えている。

 ひろとが起きるよりも、いち早く勘づいていたようだ。


「ぺぷてとー。啓示書に、間違いはないの。悪人六名での襲撃。これでもう……」


 数えてみると、紫電で捕縛した人数は五人だけ。


「くたばれ、エロアマァ!」


 最後のアイスストームが、背後からユノを葬ろうと剣を掲げ、


「――そうはさせない!!」

「っ……なにぃっ!!?」


 悪党は、迫り来るひろとに反応していた。ギリギリのところで敵影に勘づき、ひろとへと狙いを変える完璧な対応。しかし氷の剣は、ひろとの竜体化した右手に粉砕された。


「ぐ、ぁ……っ!!」


 ひろとのボディーブローが右脇腹に入り、男がノックダウン。

 今度こそは、ひろとも活躍しての完勝だった。


「ユノちゃん、大丈――」


 が、ひろとも聖気不足でぱったりと倒れてしまう。


「よく頑張ったわね。上出来よ、ヒロ」


 ジークフリートとユノに見守られて、その日は無事に終わった。




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