英雄譚(11) ヒーローは裸のお付き合いが大事。


「ね、ねえ、フー……これから毎日、こうしなきゃなの?」

「当然よ。それともひろとは、わたしと【同調】したくないのかしら」


 その日の晩、ひろととジークフリートは、再びベッドの中へと入る。

 昨夜と同様、今回も裸だ。

 お互いが一糸纏わぬ姿で、肌と肌を絡め合わせていく。

 ひろとはされるがまま、ジークフリートは彼に覆い被さって、クスッと意地悪気に笑う。


「そ、それは……英雄として、しなきゃだけど」

「そう。少しでも早く、わたしと【同調】するには、密接に繋がり合うことが大事なのよ。ほら、ヒロにも見えてきたでしょ?」


 二人の身体が密着し合うと、ポウっと淡い光が、暗い室内を照らし出す。ひろととジークフリートの魂が共鳴するかのように、光は二人の間で結ばれている。


「ほんとだ……こうすることで、フーとの関わりを強くしているんだね」

「ええ、だからこれからは毎日、一緒に寝るのよ」

「任せて! ヒーローになるためにも、ボクも頑張りたいんだ!」

「その意気よ、ひろと」


 しばらく二人はベッドの中にいたのだが、突然、ジークフリートが毛布を払いのけてひろとの上で馬乗りになる。


「ふぅっ……ちょっと、熱いわね」

「……っ」


 線の細い彼女の全身が露わとなり、ひろとはまたどきりとする。

 視界を覆い付く、真っ白な肌だ。

 下から見上げた彼女の身体は、どこかいつもと違って見える。


 華奢ではありながら、痩せこけているわけではない。

 幼くもほどよく肉つきがあって……こうして見上げると、彼女の純朴な胸が、いつもよりも大きく見える。

 ただのアングル的な違いなのだが、ぷっくりと立ったその双峰は、ひろとのよこしまな欲求を掻き立てる。いや、年頃の男子なら、誰だって掻き立てられるだろう。


 そうして耳まで顔を赤く染めるひろとに、またジークフリートはクスリと笑む。


「だ、だったら、窓を開けるとか……」

「大丈夫よ。すこし、身体が火照ってるだけだから」

「風邪じゃない? あっ、氷枕とか、取ってこようかな」

「ふふっ……心配ないわ。英雄は、風邪を引かないのよ」


 心なしか、ジークフリートの頬もちょっぴり赤らんで見える。


「でもでも、頬っぺたがすこし、赤いような……」

「冗談はよしなさい。わたしが恥じらうことなんてないわ」

「ボクも、フーくらい堂々としなきゃだね」


「そうよ。だからひろとは、わたしからたくさん学ぶべきなの。いまこうして……手と手を絡めて、わたしがひろとの上に乗ってる状況すらも、よく観察するべきなの」


「そっか! 英雄との違いを確認することで、ボクもフーに近づくんだね!」


「ええ。所詮、わたしたちの魂は、些末な肉の器に閉じ込められているだけなのだから。変なことは考えず、純粋な見方で捉えなさい」


 ジークフリートのアドバイスに倣って、ひろとは邪念を払って彼女を観察する。

 

「でも、ちょっとこの態勢も、すこし熱いわね……」


 するとジークフリートは、前のめりに姿勢を変えた。

 彼女は両手でひろとの顔を挟み、ぷるんと小さな実りが垂れる。


「ボクは、英雄。ボクは、英雄。ボクは、英雄。ボクは、英雄……」


 邪念という邪念を殺し切って、ひろとはその蠱惑的な絶景を、ただの風景として昇華した。


 ジークフリートのきめ細かな肌は、宝石のようにキラキラと輝き、肩や鎖骨に描かれる曲線は、陶芸品の域に達している。


「フー?」

「何でもないわよ、ほら、早く魂の【同調】を進めなさい」


 彼女の美しい白肌を辿っていくと、ツンと出っ張った未成熟な果実が。

 ……なんだか、いつもよりピンと張っている気がする。

 これもアングル的な問題なのだろうか? 上から見えるか、下から見るか。

 角度を変えただけなのに、こうも大きく見えるなんて本当に不思議だ。


「フー、やっぱりその姿勢はつらいんじゃないの?」


 彼女の身体はぷるぷると小刻みに震え、けれど表情は平坦に取り澄まされている。


「久しぶりの、腕立て伏せみたいなものだから。すこし、張っている・・・・・ようね」

「あっ、そっか! この態勢で、二の腕を鍛えているんだ……」

「ふふっ、英雄は筋トレも欠かせないのよ」


 そういう問題ではないと思うが、ひろとは満足気に納得した。

 再び視線を巡らせようとした時、ジークフリートは耳元でこう囁く。


「触って、みたいのかしら?」

「っ!?」


 ひろとは驚きのあまりに絶句して、ジークフリートはそんな彼の変化と表情を楽しんでいる。


「だから、触ってみたいのかしら?」

「え、えっと……どこ、を……」

「どこでもいいわ。これも【同調】を早く進めるため、契約者とは密にしないと」

「で、でも……えっと、お風呂でも、ほら」


「たしかに、既にひろとは、わたしの身体を触ったことがある。でもそれは、ボディータオル越しよね? 直接……ではないのよ」


「だ、だけどさっきは、直接……」


「緊張、していたでしょ? それに、あれはただの儀式……スキンシップとしての一環で触ってみるのとは、また違うの」


「ち、ちがうって、何が……」


 ズイと迫って、目と目と合わせるジークフリートさま。


「柔らかさよ。リラックスして、触った方が……もっと、柔らかく感じるの」

「や、やわっ……!?」

「ほら、こう……ヒロの手先で、お胸の好きなところを……」

「わ、わわわわわっ!」


 ひろとは一瞬だけその妄想を膨らませようとしたが、股間が爆発しかけたので、ぶんぶんと頭を振って理性を取り戻す。


「だ、大丈夫……かな。そのほら、手と手を合わせているだけでも、十分、【同調】できているようだし!」

「ふふっ……そうね。じゃあ、そろそろ寝ましょうか」

「うん。今日もありがとう、フー」

「こちらこそ。明日もお願いね、ひろと」

「……えっ」


 同じ毛布に仲良くくるまり、ジークフリートとひろとは眠りに着く。


「う……うぅ~ん……」


 けれどやっぱり彼女の寝相は悪く、何度も胸板を擦りつけてきた。


「こ、これも英雄の試練……って、ことだよね?」


 ひろとは必死に理性を保ったまま、何とか朝を迎えられた。



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