英雄譚(4) ヒーローは全裸の美少女と。



「【同調】の具合は、どうですか?」

「だいぶ馴染んできたわ。霊体化なら一日中、実体化でも数時間はいられるわね」

「頼もしいですね。【竜殺しの大英雄】が、傍にいらっしゃるなんて」

「わたし自身は戦えないわ。それは、莫大な聖気を消耗するから」

「ご安心ください。私たち聖華学園が、彼の護衛に当たります」

「あら、それは頼もしいわね」


 リリアス先生は、窓から退出。

 二人の話し声が聞こえてきて、ひろとは無事意識を覚ましたのだが、


「気分は、どうかしら? 悪くないと、いいのだけれど」

「っ!? ぇ……え、あ……えええええぇ!!?」


 自室のベッドで寝かされているひろとと、『全裸で』馬乗りになっている少女。

二人の手と手は愛し合っているかのように、がっちりと絡め合っている。


「えっと……キミ、は……」


 少女があまりの美貌すぎて、どこのだれかなんて、どうでもよくなった。


 銀髪……いや、光の当て方によっては、ほんのりと赤みや青みが見える淡藤色。


 髪の長さは腰よりすこし長いくらいで、クワガタみたいに左右に垂れた前髪は、胸まである。そのおかげで裸の状態でも、前髪がちょうどいい位置に掛かっていて、胸の危ないところがギリギリ見えていない。瞳は、鮮やかに透き通った紫色だ。


 これまで、アニメでも漫画でも現実でも、どんな世界でもお目に掛かったことのない美貌を持っていて、その瞳に見つめられれば、意識が吸い込まれそうになる。


 しかしながら、身体だけは完璧ではないらしい。胸は発育中の少女のように慎ましく膨らんでいるだけ。お尻も小さく、華奢な体躯だ。身長に関しては、一四〇センチもないだろう。


「あら、そんなに見たい・・・のかしら?」


 少女は、意地悪気にクスッと笑う。

 ひろとの視線が、胸にいっていることを察してのことだ。


「いやっ……ちが、そうじゃなくて!」

「無理しなくてもいいのよ。男の子は、そういう生き物なのだから」

「ボクは、ただ……その、キミが、誰なのかなって!」

「わたしの身体にも、興味があると見えるのだけれど」

「それは、こんな状態だから! べっ、べつに、ボクは変なことは考えて――」


 パッと、少女は、胸に掛かっていた前髪を両手で払った。


「~~っ!!?」


 一瞬だけ、その清淑な峰が視界に映ってしまった

 ぷっくりと小さな丘に立った、ピンク色の峰。

 その絶景にひろとはまた息を呑んで、慌てて顔を逸らす。

 すると少女は、クスクスと弄ぶような微笑を覗かせた。


「見たければ、見ればいいのに。見られて恥ずかしい身体は、していないわ」


 見たければ、見ればいい!?

 そんな素敵な言葉が、この世界にあったなんて……!


「うおおおおぉ……うおわあああああああああぁ!!」


 思わず下半身が爆発してしまいそうになったひろとは、一旦、発狂して全てを忘れようとした。もしも、股間が反応してしまったら、ますます少女の思う壺だ。「あら、やっぱり興味があるのね?」と、嘲笑われるに決まっている。


「そんなに、驚くことはないわね。わたしたちは既に、何度か会っているでしょう?」


 少女は、ズイと前かがみになって詰め寄る。

 すこしでも視線を下げようものなら、理性が吹っ飛びかねないアングルだ。


「えっと……キミ、ボクの夢の中で」


「夢じゃないわ。ずっと、ヒロの中にいたの。ヒロが見てきた景色はね、どれもが本物。実際に見て、聞いて、触れてきたもの」


 ……夢じゃない?


 博物館の出来事も、暗闇の中で囁いてきた少女も、すべてが現実であったこと?


「こら~、ひろと~! さっさとお風呂に入りなさい~!」


 母親の声で、ひろとは時間が回っていることに気が付いた。

 夕方の事件から、もう3時間も経っている。


「わっ、分かった! いま入るから、待ってよ母さん!」


 返事をしないと、母親が部屋に入ってくる。こんな場面を見られたら家族会議決定で、色々と終わりだ。とりあえず、お風呂に入らないと……。


「あら、ジャパニーズ銭湯かしら? 興味があるの、わたしも入るわ」

「……えっ」


 一難去って、また一難。

 煩悩との戦いは、まだ始まったばかりだと思い知らされた。



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