英雄譚(2) ヒーローはおっぱいに慌てない。


「ひろとく~ん。これまで皆勤賞だった君が、どうして遅刻したのかなぁ?」

「すみません……ほんとうに、すみません……」


 結局、あれからもひろとは災難に巻き込まれて、足腰が弱いおばあさんの荷物持ちや、転んでケガをした女児の介抱、突然バイクが壊れた見知らぬお兄さんの手伝いに、野良猫同士の喧嘩まで面倒を見ていると、すっかり時刻が回っていた。


 担任からはぐちぐちと嫌味を言われ、その後は生徒指導室で反省文を一枚。

 でもこうしていると、聖華せいか学園の生徒でいることを実感できる。

 やっぱり昨日のアレは、ただの夢に過ぎなかったんだと。


「葵、さん……どうして、この学校に?」


 ひろとが教室へ戻ろうとした時、廊下で葵と遭遇した。

 制服が違うにも関わらず、彼女は堂々と佇んでいる。


「どうしたの、ひろとくん♪」

「あれ……え、あっ、その……」

「ほらほら! 早くしないと、お昼休みが終わっちゃうよ♪」


 ぎゅっと手を取られると、疑問は吹っ飛んで、心臓がドキリとしてしまう。

 それは夢の出来事が影響しているのもあるし、本物の葵は超絶美少女だ。

 思わず、豊かな胸部に視線がいってしまうのも仕方ない。


「よかったら、お昼、一緒に食べない?」

「えっ……ボクなんかで、いいの?」


 葵はいっそうと晴れやかな笑顔で、


「ううん。私は、ひろとくんがいいんだよ♪」

「それって、どういう……」

「もう、覚えていないの? 昨日、一緒に博物館へ行ったよね。そのあと……あんなことや、こんなことをして、それで……」

「っ!!?」


 もじもじと、赤面している葵さん。

 そして葵本人はまんざらでもない顔で、好意的な視線も送っている。


 昨日、ボクと彼女になにがあったのか。

 本当の記憶が思い出せなくて、ひろとは「うがああぁ!」と、悶絶している。


「で、でも! こんなボクが、葵さんと、そ……そそ、そんな関係になんか!」

「あり得ないと、思っちゃう?」

「だって……ねぇ、葵さん! ボクと葵さんは、昨日、何を」

「ほら、聞いてみる? 私の、心臓……とっても、激しくなってるんだよ?」


 葵さんが、ひろとの手を自分の胸まで持っていく。


「わっ、わわわわわっ、わぁ!」


 すると指全体が、むにゅんと、贅沢な感触に包まれる。


〝でかい、大きい、すごい……やわらかい……!〟


 ひろとは心臓のことなんて忘れるくらいに、もう葵の胸のことしか考えられない。

 指があますことなく芳醇な弾力に埋まって、それでもまだ揉みしだいても有り余るほどの贅肉が揺れている。


 そこでさらに、「ん……っ」と喘ぐなんて、反則だ。

 エロすぎて、ひろとの頭はショート寸前である。


「ねえ、ひろとくん?」

「な、なにかな……葵さんっ」

「そんなに激しくしたら、立っちゃうよぅ」

「たっ!? え、あ、え……なにが!?」

「ふふふっ、分からない? ほら、ここが……こう、ぷっくりと――」

「わ、わわわわわっ! ……そういえば、今日ボク、日直だから!」


 そんな言い訳で、ひろとは無理やりこの場を切り抜けようとした。

 これ以上、彼女の前にいたら、理性が爆発しかねない。


「じゃあ……えっとね。ひろとくんって、放課後、時間ある?」


 別れ際に掛けられた言葉で、ひろとはまたドキッとした。

 放課後、葵は自分にどんな用事が?

 ここまでくると、その【まさか】に勘づかないわけがなく、


「え、えぇ、あ、ある……けど」

「よかったら、私と一緒に帰ってほしいな。そこで、話したいことがあるの」


 美少女からの呼び出し、そして帰り道で、一対一の話し合い。

 男子として、これは勝ち確定イベント以外の何でもなかった。


「わ、分かり、ました! ボクでよければ、お願いします!」


 ぺこりと頭を下げて、ひろとは逃げるように駆け出していく。


 ようやく一人になっても、まだまだ胸の高鳴りが治まらない。ラッキーお触りからの、告白確定演出。こんなリア充イベントが舞い込むなんて、思ってもいなかった。SNSに書き込もうものなら、「死ね」と物騒な返信が大量についてしまうほどに、全男子が羨む好機だろう。


「っ……え、あれ?」


 ズガンッ! と、ひろとの右手は廊下のコンクリート壁に埋まった。

 まるで知らない自分が、激しく怒っているようにも見えるけど……。


「まあ、いいや♪ 放課後が楽しみだよね!」


 突然の怪力にも八つ当たりにも興味がなく、ひろとはただ放課後を待った。

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