第4話 ミスター心臓

中肉中背の彼は髪の色は黒、目の色も黒・好んで身に着ける服の色はベージュで人相は平凡な、どこにでもあるような顔立ちをしている。スポーツで賞を取ったこともなければすごい成績で有名大学に入ったわけでもなかった。

 両親、娘、叔父、叔母、甥が一度に殺されている。全員合同で火葬しその時の遺灰を固めて作った拳銃で戦っている。銃弾は45口径が使えるよう設計し装弾数は13発、グロックのマガジンを使えるようにしてある。特殊3Dプリンタで製造し自分で組み立てた。銃弾や予備マガジンはロシアマフィアや闇中華組織にルートを作りそこから仕入れている。

家族親族を皆殺しにされている彼であるが復讐などはこれといって考えてなく、新たに失われる命をとにかく減らしていきたいという考えが芽生え動物虐待や狩猟の反対運動に参加している。最過激化に属し暴力行動により世界を変えていく思想に染まっている。

「次のターゲットだが広域指定暴力団轟来とどろき組を皆殺しにしようと思っている」

「たしかに殺人の被害をふせぐならそんな対象も選ばなくてはならないだろう。しかし、まだ時期尚早じゃないのか」

ミスター心臓はうつむきながら答える。

「俺はひとりでもやる。一番の悪を殺してしまうべきなんだ」

「もっと身近なところからやりましょうよ……」

「そうだ。鳥獣駆除の名目で命を奪っているやつらを片付けよう」

「我が子を虐待しているニュースがあった。あいつらを正そう」

ミスター心臓はそんなやり取りはもうこりごりだった。

「とにかくもう決めた。轟来をやる」

言い切るとドアから出る。

「もうこの連中とも手を切る頃合いかもな」

誰に言うでもなくつぶやく。

数日後、雨が降っている。彼の姿は町はずれの海の近くのとある雑居ビルの前にあった。髪の毛を整髪料で逆立て、くたびれたスーツを着て手には拳銃。こけた頬は不健康を思わせる。

ビルの入り口をにらみつけるとゆっくり歩き出し近づいていく。そこへ口すぼめマンが超スピードで現れた。

「あらわれたぞ口すぼめマン」

「待て。相手がやくざ者であっても危害を加えることは許さん」

ミスター心臓は口すぼめマンの存在を知らなかった。

「誰だ。轟来の者か」

「ちがう。この街を守っている。ありていに言えばヒーローだ」

「なんだと。ヒーロー。ヒーローだと。くだらない」

怒鳴りあいになるとばかり思っていたが静かな口調に思わずこの男は元来は優しい人間だと感じた。

ミスター心臓は向き直りながら言う。にらみつけるように口すぼめマンを見る。

「俺の家族はな、殺された。無残にも皆殺しの目にあったのよ。お前がヒーローだというなら俺の家族が殺されたとき何をしていた。どうなんだ、答えてみろ」

口すぼめマンは動揺して歯を食いしばった。構えていた腕もおろしてしまう。

「私がこんな活動を始めたのは最近のことだ。それにすべての人をすべての事件から救うということはできない。初めからそれはわかっていた」

「くだらんことを言うな。現に俺の家族は殺されてみな死んでいる。そのことに対して言い訳をしてもどうにもならない。お前が言い訳しても、俺が言い訳を言っても、もう変わらない」

ミスター心臓は銃向けてくるが腰のあたりに銃を構えたまま引き金を引いた。口すぼめマンは口をすぼめ超スピードで右前方に飛び出し倒れこみ前転して身構える。銃口と目の動きを見ていれば口すぼめマンは銃弾を何とかかわせるがそれを見越してミスター心臓は目線と銃の構えを連動させないでいる。口すぼめマンは素早く動き回りかく乱することにした。口すぼめを短いスパンで行い、超加速と通常の移動を織り交ぜ相手に居場所を確認できなくさせる。そうしながらだんだんと距離を詰め腰のベルトから網を引き出しミスター心臓の頭上に浴びせかけた。

「くっ」

思わず銃を持っていないほうの腕で網を振り払おうとする。その隙に一気に距離を詰めみぞおちに左こぶしを叩きこんだ。まさに電光石火。

「この男、一瞬にして真秀※」

※すごいの意

とつぶやくとミスター心臓は前かがみに崩れた。口すぼめマンは拳銃を持っている相手には油断なく追撃した。首筋に右手の手刀を打ち込む。ミスター心臓は気絶した。口すぼめマンはベルトから網を取り出し両腕と胴体を巻き付けるように縛り、余った網で身動きできないよう手首を縛った。縛っている間にミスター心臓は目を覚ました。

「お前、ヒーローだとか言ったな。なんだってそんなくだらない事をやってる」

口すぼめマンは答える。

「いろいろあったのさ。お前にもあったろう。お互い様だ」

縛られたままミスター心臓はくくくっと軽く笑うとそれ以上何も言わなかった。

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