第一次異世界大戦 前編

第53話ア・ヴァロン


 アナタはアイドルに『嫌な予感』をさせたことがありますか?……俺はある。


 「俺」、二十六歳、元時給制契約社員、アイドルオタク兼ゲーオタ。

 ゲーム中に寝落ちして異世界へ転移し、あいどる24そっくりの女の子たちと異世界を冒険中、なんだけど……



 現実世界の、『あいどる24』のコンサート会場に、一人で来ている俺。

 コンサートは終了し、握手会が始まった。

 俺は、ひと際長い行列ができている、『七星 真妃愛』の列に並ぶ。

 一時間並び、俺の番になる……

 マキアと握手する俺。


 「えっと何回か会っていますよね?『あいどる24』のマキアです、今日は来てくれてありがとう」

 俺の前には、いつもの笑顔を見せてくれる、現実世界のマキアがいる。

 「時間です、離れてください」

 『剥がし』と呼ばれる、握手会の警備をしている人が、俺を剥がそうとしている。

 「あれ?なんだこいつ、全然動かない……?」


 「必ず助けるから、待っていてくれ」

 「?」


 そう言って、俺は手を離した。

 剥がしの人に吹っ飛ばされる俺。

 ドザァッ!

 「なんて奴だ、さっさと離れろ!」

 俺はゆっくり立ち上がり、そのまま会場を後にした……



 「あれ?、私、なんで泣いているんだろう……」

 現実世界のマキアが、何故か一筋の涙を流す。


 俺は会場の外の、ひと気のない場所へ行き『オルタナティブドア』を開く。

 ドアの向こうには、『異世界あいどる24』が総出で、並んで俺を待っていた。

 「お待ちしておりました、マスター」


 俺はアマネにローブを着せてもらい、ミユキから杖を受け取る。

 「マスター、準備は整っています、ご命令を」

 ミユキの肩には、神魔も乗っている。

 「ギャウギャウ!」


 「必ずマキアを助ける、行くぞ!」

 「はい!」


 *****


 「余の名は、『ディアボリックカイザー』……先日亡くなった皇帝に変わり、新しくこのヴァロン帝国の皇帝となった男だ」

 「『ディアボリック……カイザー』……?」


 壇上から、眼下の観客を見下ろし、不敵な笑みを浮かべながらスピーチが始まる。

 「まずは、選手諸君の奮闘のおかげで、大会は大変盛り上がった……礼を言わせてもらう」


 貴賓席のラーマイン王たちが、黒い鎧の兵に詰め寄る。

 「なんじゃあ奴は、ヴァロン皇帝はどうしたのじゃ!?」

 その時、警備をしていた黒い鎧の騎士が、持っていた槍をラーマイン王の前にかざす……

 「皇帝のスピーチ中です、お静かに……」

 「貴様……」

 「王に向かって何と無礼な!」

 「お静かに、と言ったはずです……逆らうものは排除しても構わないとの命令を受けています」



 アクトの演説は続く……

 「まずはトロフィーの授与だったな、優勝者『異世界あいどる24』、前に来るがいい」

 そう言われ、俺たちはそのアクトというやつの前まで歩いていく。


 トロフィーを受け取り、俺はアクトに話しかけた。

 「お前、転移者の『堂元亜久斗ドウモトアクト』だな……?」

 「なぜ現実世界のオレの名を……

 フッ、なるほど、その後ろにいる男、『壱村証券』の御曹司だな、『天馬建設』の次男坊もいたのか……」

 イチヒコとテンマルは、ブルブル震えながらメンバー達の後ろに隠れている……


 「ヴァロン帝国を乗っ取って、いったい何をするつもりだ?」

 「フッ、男として生まれたんだ、テッペンを目指すのは当然だろ?」

 「テッペン……?何を考えているんだ?」


 アクトは俺から目線を外し、メンバーの方を見定めるように見ている……

 「そいつらが噂の『異世界あいどる24』か……なるほど、現実世界の『あいどる24』に瓜二つだな」


 アクトは、マキアを見つけてニヤリと笑う……

 「そいつがエースの『七星 真妃愛』のドッペルゲンガーか……さすが、いい女だ」

 「うっ……あの目、もう気持ち悪いを通り越して、怖い……」

 アクトは、爬虫類の様な、悪魔の様な目で、値踏みするようにマキアを見る……

 マキアも嫌悪感を表しながら、目線を外す。


 俺はマキアとアクトの視線の間に入り、アクトを睨みつける。

 「おい、他人ヒトの世界で、好き勝手するのはやめろ!」

 「バカかテメーは、他人ヒトの世界だから、好き勝手出来るんじゃねえか」

 「なんだと!?」


 「へッ……」

 アクトは、俺を小バカにしたように笑い、そのまままた壇上へ上がる。

 「この大会の優勝者には、各国の王族ができる限り願いを叶えてやるという特典がついていたな……どれ、優勝者の異世界あいどる24の願いは……

 『全世界の人権的に弱き者たちに対する迫害・奴隷制を禁止する法律を作ること』、か」

 アクトは俺の書いた優勝者の書状を開き、話す。


 「残念だがこの願いは却下だな」

 「なに!?」

 「なぜなら、この後、奴隷や亜人たちの力が、大量に必要になるからな」

 「それはいったいどういう……」

 「お前たちはそこで見ていろ」



 アクトは振り向き、またスピーチ台に向かう。

 「丁度いいので、この会場にいる全ての者に話したいことがある」

 ザワザワザワザワ……

 観客たちが騒めき出す、こいつ何を話すつもりなんだ……?


 「今だこの世界は争いが絶えない、それはなぜか?」

 まるで独裁者のような演説が始まる……

 「簡単なことだ、それは国が四つもあるからだ!」

 「何言ってんだあいつ?」


 「国が一つになれば争いは起こらない、なぜならば、我らはみな同じ国の同族になるからだ!」

 ザワザワザワザワ……

 「そこには国同士の軋轢や、種族の優劣、土地の問題や、信仰の問題、その全てが無くなる」

 ザワザワザワ……確かに……

 ザワザワザワ……でもそれじゃあ……


 アクトは構わず、そのまま演説を続ける。

 「ヴァロンによる世界の統一、それが叶えば、世界から戦争はなくなる!」

 えっ……ザワザワザワ……


 「我らは、真の平和の為ならば武力行使もいとわない……

 よってここに、我が国ヴァロンによる、『世界統一戦争』の勃発を宣言する!」

 ザワザワザワザワ……せ、『戦争』?今戦争って言ったのか?


 「全てを新しくするという目的で、国名もヴァロン帝国から改名することとする」

 「改名……?国の名を変えるということか?」

 「新しい国名は、『新生軍事国家ア・ヴァロン』!」

 「『新生軍事国家ア・ヴァロン』……だと?」


 貴賓席にいる王族たちも驚いている……

 「こんなバカなことがまかり通っていいものかっ!」


 「『ヴァロン近衛兵団』に変わる、新しい将軍を紹介しよう……

 まずは『海軍将・ヤス』」

 緊張した面持ちで、メガネをかけたオタク顔の男が前に出てきた……小脇にノートパソコンを抱えている。


 「『空軍将・ハヤト』」

 白いスーツを着たイケメン風の男、なぜか観客に投げキッスしてる……


 「そして余の弟でもある『陸軍将・ギンジ』」

 アクトと同じ金髪の男……不敵な笑い方が、アクトそっくりだ……

 金のピアスに、金のネックレス、指輪も金ばかり。


 俺は思わず叫んだ。

 「おい、やめろ!世界統一戦争なんて、起こさせるわけにはいかない!」

 アクトはニヤリとすると、右手を挙げ、指を鳴らす。

 パチンッ

 バツンバツンッ!

 それを合図に、俺たちのいた場所が崩れ始めた!

 「なっ……!?」


 「その場所は始めから、紐を切れば崩れるように作っておいたのさ、あばよ偽善者」

 「うわあああーーー」

 俺も、メンバーも、他の出場者も、全員下に落とされた。


 ザワザワザワ……

 アクトは何事もなかったかのように、そのまま話を続ける。

 「余に従うならばよし、逆らうならば容赦はしない!この会場の貴賓席にいる者たちは、人質になってもらおう」

 「に、逃げろーーー!」

 「わあああーーー」

 会場は大パニック、観客たちは必死にヴァロン城から逃げ出していった。


 俺たちは下に落ちたが、みんなそれぞれ魔法や技などで着地し、全員無事だった。

 ……逆さまに落ちて、体半分埋まっているニビル以外は。

 「あんた、大丈夫かい?」

 「頼む、今度オイラに浮遊の魔法を教えてくれ……」



 「とんでもないことになったね……」

 サモンロードが上を見上げながら話す。

 「まずは各国の王たちを逃がそう。

 『オルタナティブドア』を使える俺たちが、王たちを優先して避難させる、サモンロード、コズミッククイーン、頼めるか?」

 俺が二人に尋ねる。

 「わかったよ」

 「仕方ないわね」


 「オレはヴァロン皇帝を助けに行く」

 ドラゴニックキングは、自分の四天王と突入の準備をしている。

 「ドラゴニックキング……でもあいつ、皇帝は亡くなったって言っていたぞ?」

 「いやそれは無い、『王族を殺せば重罪になる』……あいつもそれぐらいわかっているはずだ」

 「なるほど」

 「皇帝には世話になった、恩を返すのならば、今を持って他にない」

 「分かった、気をつけろ」


 「多分ヴァロン皇帝は地下牢の中だろう……ドドムとレイザは残れ、お前たちはまだ昨日のダメージが残っている」

 「そういうわけにはいかない」

 「オレもいく」


 俺もドラゴニックキングに言い放つ。

 「メギード王を避難させたら、俺もお前に加勢しよう、合流するまで無茶はするなよ」

 「約束はできないが……善処しよう」


 「イチヒコ、テンマル、お前達も『オルタナティブドア』を使って、避難の誘導を頼む」

 「わかりました、師匠」



 ◆ディアボリックカイザー・アクトside


 『ディアボリックカイザー・アクト』の後ろに、三将軍が立ち、アクトの命令を待っている。


 ギンジが話し出す。

 「兄貴、今のスピーチ決まってたな、練習の甲斐があったんじゃねえか?」

 「バーカ、こんなの練習なんかしねえでもラクショーだ」


 ハヤトも、眼下の逃げ回る市民たちを見ながら話す。

 「それで、ボクたちはこの後どうすればいいんだい~?」


 アクトが振り向き、三人に命令を下す。

 「まずは『屠りしもの』の四人を無力化する……

 『転移者』というだけでもウザイのに、あいつらは『神の名を冠するもの』を倒して、チート級の力を有している、オレ達の計画の邪魔になる可能性が高い。

 特にあの善人面した偽善者、『ギガンティックマスター』って奴は、このオレ自ら現実の厳しさって奴を教えてやる」


 「王族たちは、どうするんでヤス?」

 海軍将・ヤスが聞く……語尾に『ヤス』がつくのがクセらしい。

 「王族は放っておけ、どうせ殺せば重罪になるし、後からの楽しみもなくなっちまうからな」


 「じゃあまずは四人の『屠りしもの』たちの無力化だな……オレはあのドラゴニックキングだかって奴をやる」

 陸軍将・ギンジという男が、指を鳴らし、首を回す。


 「放っておいても、向こうから来るっぽいよ」

 海軍将・ハヤトが、眼下にいるドラゴニックキングを発見した。


 「たぶん地下牢に行く気なんでヤスね、地下牢へはオラたちがいるこの場所からしか行けないでヤス」

 海軍将・ヤスが、パソコンを操作しながら話す。


 「オレはギガンティックマスターって奴のアジトへ行く、今なら王族や市民を逃がすために『オルタナティブドア』を開いているはず。あいつのアジトに潜入して、あのマキアって女をさらう」

 そう言いつつ、アクトがニヤリと笑う。


 「さすが兄貴、ワルだなぁ」

 「オレは欲しいものは、どんな手段を使っても手に入れるタチなんだよ。

 ああいう清純ぶってる女を、薬を使ってメチャクチャにして弄ぶのが好きなんだ、へへへ……」


 「あーあ、兄貴の悪い癖が出るな……

 ああ言って現実世界の女も、もう五人ほど廃人にしちまっているからな。

 親父も、もみ消すのが大変だったって言ってたぜ」



 〇俺side


 「僕はラーマイン王をカイエルに運ぶよ、それでいいかい?」

 「私は館長たちをサザバードに送ればいいのね?」

 サモンロードとコズミッククイーンが、それぞれ自分の担当を決める。


 「ああ、それでいい、頼んだ。

 俺はメギード王たちをファルセインに帰還させる」


 俺たちはそれぞれ王たちを自国へ避難させるために動く。

 何人かの貴族や有力者たちが、敵の黒い鎧の兵士に捕まっている。

 でも、あいつらはそれほど王族たちに興味はないようだ……じゃあ一体何が目的で?



 俺はメンバー達と貴賓席へ、各国の王と騎士たちが、黒い鎧兵と戦っている。

 ギーンッ!

 ガガガッ!

 「くっ、この黒い鎧兵、正規の騎士じゃないのか?斬っても斬っても立ち上がってくる!」

 「こうなればワシ自ら……」

 「いけませんラーマイン王、お下がりください!」


 「光弾属性ハイアナグラム、『ヴァーミリオンレイ』!」

 ドキュキュキュッ!

 ドドドドド!

 「ぐわあーーー!」

 「おお、ギガンティックマスター殿!」


 「ラーマイン王、館長、メギード王、みんな無事ですか!?」

 「ああ、何とか」

 「俺たちの『オルタナティブドア』で、皆さんを自国へ転送します、このドアなら一瞬で帰還できる」

 サモンロード、コズミッククイーンも駆けつけ、王たちを転送する。


 「王たちは落ち着いたらこの事態の収束に向けての準備を」

 「ギガンティックマスター殿、おぬしはどうするのじゃ?」

 「俺はこのまま、ドラゴニックキングと一緒に、ヴァロン皇帝を救助しに行きます」


 俺は王たちの避難を確認した後、メンバーにも指示を出す。

 「『オルタナティブドア』は、現実世界の自宅に繋げておく、メンバーは各自避難して待機だ」

 「マスターは?」

 マキアが訪ねる。

 「俺はドラゴニックキングを助力しに、ヴァロン城へ向かう」

 「では私たちも一緒に」

 「いや、大人数は危険だ、それにまだ逃げ遅れている一般市民なんかもいる、自宅に一時避難させておいてくれ」

 「し、しかし……」


 「なーに、救出したのを見届けたらすぐに戻る、それより部屋の片づけを頼むぞ」

 「……わかりました、気を付けてください。私、なんだかすごく嫌な予感がするんです」



 「疾風迅雷 電光石火 風林火山 汝に風の力を 浮かせ 滑空させよ

 滑空属性ハイアナグラム、『エア・グラインド』!」

 俺は自分に『滑空魔法』をかけて、ヴァロン城入り口に向かう。


 色んな場所で火の手が上がり、戦闘も始まっている、ドラゴニックキングは……いた!

 俺はドラゴニックキングの元へ駆けつけるため、ヴァロン城の城壁を走り抜ける。

 アクトの奴がいない……?

 ドラゴニックキング達が、敵の三将軍と対峙している。

 なんだあの三人……ガスマスクみたいなものを顔につけている。

 まさか……



 「ヴァロン皇帝を救助する、そこをどいてもらおうか」

 ドラゴニックキングが、陸軍将・ギンジに問いかける。

 「いやだと言ったら……?」

 「無理やり通るだけだ!」

 ドラゴニックキングと四天王が、武器を構える。


 「『鬼の民ドドム』……

 お前、拳奴の時に人間たちに、自分の両親と戦わされたんでヤスか」

 「な、なんでそのことを……」

 海軍将・ヤスが、ノートパソコンを開きながら話す。


 「この『ギルギル』のセキュリティは緩いでヤス。

 オイラにかかれば、公式オンライン仕様集の、プロテクトのかかった秘密情報も、簡単に見れるでヤス……お前その戦いで、自分で両親を殺しているでヤスな」

 「う……それは……」

 「ドドム気にするんじゃない、あれは仕方なかったんだ、やらなきゃお前が殺されていた……お前の両親も、それがわかっていて、自分から負けたんだ!」

 ドラゴニックキングが、すかさず会話に入る。


 「『闇の民レイザ』……

 お前は人間たちから逃げる時、両親と兄を囮にして、自分一人で逃げたでヤスな?」

 「ち、違う!あの時は、兄さんがオレを井戸に落として……」


 「お前なら『闇の手』ですぐに井戸から出られたはずでヤス……

 すぐに出なかったのは、自分だけ助かるつもりだったでヤスね」

 「違う、オレは、オレは……」

 「レイザ、話を聞くんじゃない!あの状況で、すぐ行動できるほうがどうかしている、お前は悪くない!」


 「ヒッヒッヒ……何だ、お前たちも中々の『悪人』じゃないか、オレ達のことは言えないな」

 「くっ……知られたくない人の過去を暴くなんて、なんて卑劣な!」

 「クックック……おかげで時間を稼ぐことができたでヤスよ」

 「なに?……な、なんだ?この異様な眠気は……?」


 「現実世界の最凶アイテム、『クロロホルム』……

 現実世界では、麻酔薬や睡眠導入剤としてつかわれる薬品だ。

 気化させた『クロロホルム』を、少しずつ撒いておいた……まだ全員意識があるとは大したものだ」

 「く、くそっ……眠って、たまるか……」


 バチィッ!

 「ぐあっ!」

 バチィッ!

 「キャアーーー!」

 ドドムとレイザがその場で倒れる。


 「フッフッフ、現実世界の最凶アイテム、『スタンガン』だよ。

 相手に電気ショックを与え、行動不能にする防犯装置、最大電圧は五十万ボルトさ。いけない子には、お仕置きだよハニーちゃん」

 空軍将・ハヤトが、スタンガンを手に見下ろす。


 「今ならこのレイザちゃんに、やりたい放題だよ~」

 「いや、オイラは六歳以下の女の子にしか興味がないので、結構でヤス」

 ハヤトとヤスが、あざ笑うかのようにふざけ合う。


 「て、てめぇ……」

 ドラゴニックキングとリュオンが膝をついている……

 立っていられないほどの眠気と戦っているようだ。



 「キャーー、は、離して!」

 「アミサー!」

 アミサーがギンジってやつに捕まってる!?

 「どうやらこいつは、後ろの方に隠れていたから、クロロホルムは嗅がなかったようだな」

 「アミサーを離せっ!」


 「おっと、動くなよ、この女がどうなってもいいのか?」

 「くっ、くそ……」


 ギンジの前に魔法陣が展開……『水』『地』『闇』

 「全てを灰色に染める 呪いの魔獣よ 彼の者を 千代に朽ちることのない石と化せ 石化獣属性ハイアナグラム、『コカトリス』!」

 クエエェェーーッ!


 「『コカトリス』!?お前、『サモナー』か?」

 「こいつは口から『石化ガス』を吐くことができる、魔獣『コカトリス』……今からこいつでこの女を石化する」

 「ふざけるな!そんなことさせるわけねぇだろ!」


 「では、この女を助けたければ、お前たちが代わりに、この石化ガスで石化しろ」

 「なんだと!?」

 「そうすれば、この女は助けてやろう」

 「……」


 「オレの兄貴のアクトは、お前たち『屠りしもの』が、大陸の三国に助力するのを警戒しているんだ。だからお前たちを無力化するのが、オレたちの役目なんだよ」

 ドラゴニックキングのやつ、悩んでいる……

 俺が行くまで早まるんじゃねぇぞ!


 「さあ、どうするんだ?こっちは石化するのは、お前達でも、この女でも、どっちでもいいんだぜ」

 ドラゴニックキングとリュオンは、お互いに顔を見合わせ、頷く。

 「わかった、オレ達が石化してやる、だからアミサーは離せ」

 「フッ、いいだろう、じゃあそこを動くなよ、『コカトリス』!」

 クエエェェーーッ!

 「『石化ガス』だ!」

 バアアアーーーーッ!


 バキバキバキバキ……

 ドラゴニックキングと竜の民リュオンの体は、みるみる石になっていく!

 「キング!リュオン!」

 アミサーが泣きながら叫ぶ!


 「いいかテメー、アミサーは解放しろ、約束を破ったらぶっ殺すからな!」

 「ああ、わかっているよ、へっへっへ……」

 バキーンッ!

 ドラゴニックキングとリュオンは、完全に石になった。

 「キング、リュオン、そんな……」


 「アーハッハッハ、だっせーな、散々デカい口叩いておきながら結局石になっちまってよぉ」

 ギンジは、石化したドラゴニックキングとリュオンの頭を叩きながら高笑い。



 「さあて、ついでにお前も頂いておくかなぁ……へっへっへ」

 「そ、そんな……約束が、い、いや、来ないで……」

 ギンジは、舌なめずりをしながら、アミサーに近づいていく……

 ハヤトとヤスは、それを見てニヤニヤ笑っている。


 「元々奴隷ってことは、シモの世話も相当やってきたんだろ?今更いい子ぶるんじゃねぇよ」

 ギンジは、アミサーの服を破り捨てる。

 ビリビリーーー!

 「いやーー、やめて、誰か、助けてーーッ!」


 「『エクスプロードブロウ』ッ!」

 「アブねぇッ!」

 ズドガァッ!

 ギンジは間一髪、俺の打撃を避けた。

 「お前何やってやがるッ……その手を離せッ!」


 「出たな、この正義面した偽善者ヤローめ」

 俺は無理やりギンジからアミサーを引き離し、匿った。

 「お前、アミサーには手は出さないとドラゴニックキングと約束したんじゃなかったのか!?」


 「へっ、男は殴るもの、女は犯すもの、そして約束は破るもの……オレは兄貴にそう教わってきた」

 「最悪の兄弟だな……お前ら」

 ギンジ・ハヤト・ヤスと対峙する俺……

 コカトリスを呼べるってことは、こいつのクラスは『サモナー』か。

 石化ガスは厄介だが、こいつら自体はそこまで脅威ではないか……?


 「ギガンティックマスター!」

 サモンロードと、コズミッククイーンも駆けつけてくれた。


 「来たでヤスね、『屠りしもの』……

 この『ギルギル』のゲームアカウントを調べて、お前たちのことは調査済みでヤス」

 「なんだって?それはいったいどういう……」


 「『サモンロード』……

 本名『古手川こてがわ 祐輔ゆうすけ』、二十二歳。

 現実世界の清流会病院に、難病の妹が入院しているでヤスね。

 いいんでヤスか、こんなところで油を売っていて……もうすぐ面会時間を過ぎるでヤスよ」


 「なっ……君は、『ハッカー』か……?」

 「そうでヤス、オイラほどのハッカーともなれば、お前たちの個人情報を覗き見ることなんて、まさに朝飯前でヤス」

 「ハッカーって……ネットワークを使って、不正アクセスなんかをする悪い奴のことか?」


 「『コズミッククイーン』……

 本名『黒田くろだ 亜季乃あきの』、二十九歳。

 現実世界の鳥海商事のОLでヤスか……アンタ新人社員に人気がないんでヤスね、『お局様』って呼ばれているでヤスよ。

 ついたあだ名は『あきのつぼね』でヤスか、傑作でヤスね」


 「くっ……」

「やめろ!お前さっきも人の秘密を暴いて楽しんでいたな?そんなことをして楽しいのか!」

 「楽しいに決まっているでヤス!今までオイラをバカにしてきたやつは、みんな秘密を暴いて炎上させてやったでヤス!

 お前達も、オイラ達の計画を邪魔するのなら、炎上させてやるでヤス!」

 「こいつ……」


 ギンジって奴が、まるで俺の心を読んだかのように話し出す。

 「お前いいのか、こんな所にいて」

 「なんだと?」

 「今頃オレの兄貴の『アクト』が、おまえのオルタナティブドアを使って、お前のアジトを襲撃しているころだぜ」

 「なんだって!?」


 「『屠りしもの』のチカラは脅威だが、お前達みたいな正義面した偽善者は、人質をとれば簡単に無力化できる……このドラゴニックキングのようにな。

 アクトが言っていたことだ、どうだうちの兄貴は?本物の『ワル』だろう?へっへっへ」

 「くっ……」



 ◆再びアクトside


 ギガンティックマスター達が落ちた場所に、ドアが一つ立っている。

 異世界あいどる24のメンバー達が、一般市民をドアの中へ避難させている。

 アクトの口元がニヤリと微笑む。

 「見つけたぜ……」


 ガチャッ……

 現実世界のギガンティックマスターの家に、アクトが乗り込んできた。

 「ほう、ここが『異世界あいどる24』のアジトか……」


 「あ、あなたは!?」

 「おっ?やっぱりいたな、現実世界の『あいどる24の七星 真妃愛』のドッペルゲンガー」

 異世界あいどる24のメンバー達が、武器を構える。

 「マスター不在の時を狙って、まさかドアから乗り込んでくるとは……」


 「疾風怒濤 汝風の如く舞い 風の如く斬る その身触れること能わず

 風属性アナグラム、『エアリアルエンチャント』!」

 ヒナタがマキアに風魔法のバフをかける。

 シャキィーーン……

 マキアがマキアカリバーを抜き、構える。


 「ここはアナタたち転移者の世界……ここではアナタは魔法や技を使うことはできませんよ」

 「わかっているさ、だが最初から連れてくるのなら問題あるまい?」

 オルタナティブドアから、たくさんの目がついた魔獣が入ってきた。

 「ブヨヨヨヨヨ……」


 「なっ……これは?」

 「こいつはオレ様が召喚した、魔獣『ヘクトアイズ』……

 こいつに睨まれると、魔法や技を『封印』することができる」

 「なんですって!?」


 「ヘクトアイズ、『イレイザーアイ』だ!」

 ピキーーーーンッ!

 「くっ、体が重い……エアリアルエンチャントが切れている……」

 どうやらメンバー全員、魔法や技を封印されたようだ。


 「オレは欲しいものはどんな手を使っても必ず手に入れる……こんな風にな!」

 そう言ってアクトは、マキアの首を吊り上げる。

 「ぐっ……」


 「マキアーーー!」

 他のメンバーがマキアを助けようと飛び掛かるが、アクトが蹴りで一蹴する。

 ドカァッ!

 「キャアーーー!」

 「へっへっへ……魔法や技さえ使えなくすれば、お前たちはか弱いただの女だ、オレの相手になんかならねぇよ」


 アクトはマキアを気絶させ、肩に担ぐと、そのままドアに向かう。

 「ま、待って……」

 「ハッハッハ、じゃあな、ギガンティックマスターによろしく言っておいてくれ、ハーハッハッハ……」

 「マキアーーー!」

 ミユキの叫びもむなしく、アクトはオルタナティブドアをくぐり、異世界へ戻っていった……



 ☆今回の成果

  俺 願いを書いた書状

  俺 オリハルコン製の優勝トロフィー

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