第52話マジェスティックオーラ

 アナタはアイドルと『和気あいあい』したことがありますか?……俺はある。

 

 「男には、負けるとわかっている勝負でも、絶対に引けない時がある、今がその時だ」

 

 

 「ギガンティックマスター選手、ドラゴニックキング選手、お互い魔法での一発勝負になるようです!まさに男と男の一騎打ち、会場の中央で対峙します!」

 

 「おおおおおおお!」

 「はああああああ!」

 「二人とも魔力を集中しています、会場全体が震えるほどの物凄い魔力量です!」

 

 ドラゴニックキングの前に魔法陣が展開……『炎』『水』『風』『地』『闇』『闇』

 「地獄の底に眠る 闇の神よ 我に最凶 最悪の 闇の竜の力与えよ

 その憎悪 その慟哭 その怨嗟を 全て吐き出せ 全ては破壊のために

 シッダ・ヨールグ・アビート・モア・クワッド・ミラレス・フリーラン・フリューゲルズ 邪竜属性ヘキサグラム、『ファフニール』!」

 バオオオオオオオオッ

 

 俺の前に魔法陣が展開……『炎』『水』『風』『地』『光』『闇』……

 「スー・シュー・ゴウ・レイ・ファシオン

 炎神 水神 風神 地神 光と闇の王をいただきて すべての者に安息と死を……

 六極炎属性ヘキサグラム、『ヘキサゴンフレア』!」

 ゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 「うおおおお!二人の『屠りしもの』による、ヘキサグラムの応酬、果たして勝利の女神はどちらに微笑むのかーーー?」

 ガガガガガガーーー!

 

 「ハハハーーー、かかったな!オレは『ドラゴニックスキン』で、お前の魔法を半減できる、お前のヘキサグラムに耐えて、弱ったお前に『ドラゴニックファング』を食らわせれば、オレの勝ちだ!」

 

 「ドラゴニックキング、まだそんな卑怯な作戦を……」

 サモンロードが、ドラゴニックキングの台詞を聞いて叫ぶ!

 

 「うおおおおおお!」

 「はああああああ!」

 ズガガガガガガガーーー!

 ズ・ズズズズズウゥゥン……

 ドドドドドド……

 

 「凄まじい爆音と衝撃、会場に『魔法障壁』がなかったら、今頃この『ヴァロンコロシアム』も無事では済まなかったでしょう。煙が晴れてきました、果たして……」

 

 相当なダメージを負っているドラゴニックキングが見えてくる。

 「ぐっ……ぐふっ、何だ、この威力は……『ドラゴニックスキン』を使ったのに、このダメージ…… だ、だが、これで終わりだ、死ね!『ドラゴニック……ファング』!」

 シュバババーー!

 

 「あーっとドラゴニックキング選手、最後の力を振り絞って、ギガンティックマスター選手に『ドラゴニックファング』を放ったーーー」

 「マスターー!」

 シュンッ!

 「なっ?」

 「えっ?ドラゴニックキング選手が放った『ドラゴニックファング』が、ギガンティックマスター選手の前で、消えました……?

 というか、ギガンティックマスター選手の体の周りに、オーラのようなものが?これはいったい……」

 

 

 「あれ?俺、なんで無事なんだろう……ダメージ、ゼロなんですけど」

 俺は、ダメージゼロどころか、服もまったく痛んでいない……なんで?

 その時、客席のミユキの肩に乗っていた神魔が、ブルブル震えながら俺を指さしている……

 

 「ギガっち、お前、その七色のオーラ……まさか、『マジェスティックオーラ』!?」

 「『マジェスティックオーラ』?」

 確かに俺の体は、七色に光る『オーラ』を纏っている……

 

 「尊厳竜マジェスティックドラゴンが持つ、この地上で最強の『オーラ』……

 あらゆる攻撃を無効化して、自分の魔法の威力も倍増させることができる。

 通常はマジェスティックドラゴンを二十回攻略して、やっと手に入れることができる、最高の技だぞ!オレだって持ってないのに、何でお前が……?」

 

 「あの時かも……」

 俺はマジェスティックドラゴンに、ほっぺにチューされた時のことを思い出していた……

 「マジェスティックドラゴン……ありがとう」

 

 

 「ち、ちくしょう、ギガンティックマスター、そんなオーラを持っているなんて、ズルい、ぞ……」

 バタッ……

 「お前が言うなよ……」

 「あーっとドラゴニックキング選手、気絶ーーーー!この勝負、ギガンティックマスター選手に軍配が上がりましたーー!」

 「わああああーーースゲーぞーーー!」

 

 「天空の民アミサー選手はすでにギブアップしています、つまり……」

 俺とドラゴニックキングの間に、『むザイくん』が歩いてきて、叫ぶ。

 「そこまで!優勝は『異世界あいどる24』です、確認して下サイ!」

 「うおおおおおーーー」

 パチパチパチパチ……

 

 「優勝は、異世界あいどる24です!やりました、おめでとうございますーー!」

 「わあああああーーー」

 会場中に花吹雪が降り、ファンファーレが鳴り響く……

 「勝った、のか……?」

 俺はその場で座り込んでしまった……魔力も体力も空っぽだ。

 

 メンバーとヴァイガン、サモンロード達も駆け寄ってきた。

 「マスター!」

 「ギガンティックマスター、よくやった」

 「ギガンティックマスター、優勝おめでとう!」

 「みんなありがとう、俺だけじゃ勝てなかった、みんなのおかげだ」

 

 「マスター!」

 「おお、マキア!気が付いたんだな、よかった」

 「はい、マスターもドラゴニックキングに勝利したんですね」

 「ああ、みんなのおかげでな、正直きつかったよ」

 みんなで和気あいあい話していたら、救護班の治療を受けていたドラゴニックキングたちも目覚めたようだ……

 

 「キング……」

 「大丈夫か、キング」

 鬼の民ドドムや、闇の民レイザたちが、心配そうにドラゴニックキングに話しかける……

 「あ~ちくしょう、負けた負けた!せっかくあんな卑怯な手を使って戦ったってのに、まさか負けるとは思わなかった」

 「なんだ、『卑怯な手』を使ったっていう自覚はあったのか」

 メンバーに抱えられながら、俺はドラゴニックキングの近くに歩いてきていた。

 

 「当たり前だ、オレ達の目標は『優勝』することが第一だったが、もう一つあったからな」

 「目標がもう一つ?」

 「ああ、オレ達のもう一つの目標は『ヒール』になること」

 「『ヒール』に?それって……」

 「もちろん『不夜城』へ行くためだ……闇市に『竜の民リュオン』の母親の形見があるって情報を手に入れたんでな」

 

 「そのためにあんなに卑怯な手を……極端な奴だなぁ」

 ドラゴニックキングは立ち上がり、サモンロードの前に。

 「サモンロード、オレがヒールになるためとはいえ、腕をちょん切っちまって悪かったな」

 「言い方……」

 

 サモンロードも、包帯だらけの自分の腕を見ながら話す。

 「いや、まあ、確かに痛かったし、驚いたけど……」

 「どうしても許せないんだったら、今オレの腕をちょん切ってもいい」

 そう言いつつ、自分の右腕を差し出すドラゴニックキング……

 「だから、言い方……」

 

 「い、いや、もういいよ、ちゃんと元に戻ったんだし……」

 「そうか」

 「それに、天空の民アミサーからこっそり聞いているよ、あの時万が一魔法が使えなかった時のために、岩陰に、現実世界の『ストレッチャー』と『麻酔と輸血用の点滴』まで用意しておいたんだって?」

 「アミサーのやつ……別に言わなくてもよかったのに」

 何だこいつ、意外にいい奴だったのか?

 

 「今回の戦闘で、オレのことを恨むのは構わないが、オレの四天王たちのことは許してやってほしい……俺の命令で仕方なくやったことだ」

 「キング……」

 「お前がそんなにかばうなんて、その四天王はお前にとって、本当に大事な存在なんだな」

 

 俺にそう言われ、うつむいていたドラゴニックキングが話し出す……

 「オレが初めてこの異世界に来た時、まんまと盗賊たちに嵌められて、罪を擦り付けられ、オレは『拳奴』になっちまったんだ」

 「『拳奴』って、『剣闘士』みたいに、見世物用に戦ったりする奴隷のことか……?」

 

 「その時、同じ『拳奴』にあいつら四人もいた」

 「上位亜人種の戦闘能力はかなり高い……見世物として戦わせる奴隷としては最適だろうな」

 ヴァイガンが、いつの間にか会話に入っていた。

 

 「あいつら、自分も奴隷で大変だってのに、何もわからないオレのことを親身になって助けてくれた……

 リュオンとアミサーなんて、『人間恐怖症』のくせに、オレの傷の手当までしてくれた」

 「『転移者』として、この世界の人間に酷い目に遭わされているお前を見て、自分と重ね、放っておけなかったのだろうな」

 

 「オレは人間だが、リュオン達はオレを受け入れてくれた……あいつらは、オレの『家族』みたいなもんなんだ」

 始めて異世界に来て、右も左もわからず、騙されて、地獄のようだった日々に、初めてできた仲間……

 そりゃ絆を感じずにはいられないのは、当然か。

 

 

 「ヴァロン皇帝に見い出され、『拳奴』を抜け、この大会に出場するよう言われた。オレはチャンスだと思った……この大会で優勝して、世界中から『亜人の迫害』をやめさせる法律を作りたかった……

 優勝は逃してしまったが、この目標だけは絶対に遂行するつもりだ」

 「そういうことなら、俺が何とかしよう」

 思わず俺は、ドラゴニックキングの話に割って入った。

 「なに?」

 

 「お前の目標は、俺の願いとほぼ同じだから、優勝の願いを聞いてもらうときに付け加えてやるよ。俺の願いは、全大陸、全世界の『奴隷制の廃止』だからな」

「ギガンティックマスター、お前……」

 俺の願いは決まったな。

 俺の願いは『全世界の人権的に弱き者たちに対する迫害・奴隷制を禁止する法律を作ること』、これだ。

 

 

 「ヴァイガン、そういえばお前どうやってこの異世界に来ることができたんだ?」

 「もちろん、『オルタナティブドア』を使ってきた」

 「『オルタナティブドア』を使えるようになったのか!?しかもペンタグラムと『神の言霊』も使っていたな?」

 

 「ああ、私はお前のおかげで現実世界に戻った後、この『ギルギル』について色々調べてみた。転移者のランクを上げる方法、そしてお前と私との差はなんなのか……色々不確定要素がたくさんあるが、確実なものが一つだけあった」

 「確実なものって……?」

 「それは『課金』だ」

 「か、『課金』?」

 

 「私は、ずっとこのゲームを『無課金』でプレイしていたのだ。

 今回『課金』したことにより、『オルタナティブドア』と『ペンタグラム・神の言霊』まで獲得できた」

 「そんなことでここまで差が出るのか」

 

 「ゲームの運営側から見れば、『無課金』ユーザーよりも、『課金』ユーザーを優遇するのは当然だ。しかし、これ以上の能力の獲得は、いくら『課金』しても得ることができなかった……」

 「ヘキサグラムは使えないってことか……」

 「せっかく愛用していた『釣り竿』まで売ったのだがな……」

 (ヴァイガン、釣りが趣味だったんだな……)

 

 「俺は『微課金』者だったけど、長くゲームをプレイしていたから、『重課金』者のイチヒコよりも優遇されたってわけか」

 「お前達『屠りしもの』達が『ヘキサグラム』まで使えるのは、おそらく『四支神』を倒したことによるレベルアップが要因と思われる」

 確かに今俺のレベルは百五十を超えている……

 でも前にジャッジメントドラゴンが言っていた、伝説の四支神を屠った俺のレベルが、その程度のわけはないと……

 このギルギルには、目に見えない『隠しパラメータ』とかがあるのかも……?

 

 「だがそれ以外にも、このゲームには不確定要素が多すぎる……

 私はしばらく現実世界に戻り、引き続きこのゲームについて調べるつもりだ」

 「そうか、わかった、ありがとうヴァイガン、マジで助かった」

 「そのうちまた顔を出す、前ファルセイン王にもよろしく伝えておいてほしい」

 

 そう言ってヴァイガンは、『オルタナティブドア』を通り、現実世界へ戻っていった……

 

 

 「ギャウギャウ」

 「神魔、お前急に誤魔化していたけど、あの『ゆうザイくん』の正体に何か心当たりがあるんじゃないのか?」

 「……」

 「なんだよ、言えよ」

 

 「あの『ゆうザイくん』は……多分オレのドッペルゲンガーだ」

 「なんだって!?」

 「正確にはオレのドッペルゲンガーの『アバター』だな」

 

 「本当に?何か確信があるのか?」

 「確信はないが……『天秤座ライブラのゾディアックビースト』は、以前オレが所持していたものなんだ。そしてあの喋り方、同じ立場なら、オレもまったく同じことを言う」

 「ということは、あの『ゆうザイくん』の正体は、今の『ギルギル』のゲームデザイナー?」

 「その可能性は高いな……確定ではないけどギャウギャウ」

 

 「だとしたら……『ゆうザイくん』に化けているのには、何かわけがあるってことなのか?」

 「わざわざアバターを使って正体を隠しているってことは、オレや関係者に自分のことを知られたくないってことだろう……

『ゆうザイくん』になっているのは、公式戦を監視して、誰かを捜している……?」

 「捜している……?誰を?」

 「さあ……ギャウギャウ」

 あ、また誤魔化した。

 

 

 その後、表彰式は次の日に執り行われることになったので、丁度いいからドラゴニックキング達を『不夜城』へ連れて行ってやることに。

 実はあれから俺は何度か不夜城に足を運んでおり、すでに『オルタナティブドア』で行けるようになっていたのだ。

 ガチャ……

 「おお、ここが不夜城……」

 

 「今ちょうど夜だからな、マーケットも一番盛況な時間だ」

 手分けして三十分ほど探すと……

 「あった、『地母竜のウロコ』だ……」

 『竜の民のリュオン』の母親の形見らしい、奴隷になったときに取り上げられ、闇市に売り飛ばされたらしい。

 

 リュオンは『地母竜のウロコ』を、大事そうに胸に抱いている……

 「良かったな、リュオン」

 リュオンはキングの言葉にコクコク頷いている。

 こうやって見ていると、二人はまるで兄弟のようだな……トカゲとゴリラの。

 

 「ギガンティックマスター、今オレとリュオンを見てなんか悪口を思っただろ?」

 物凄い勢いで首を横に振る俺。

 ……転移者同士でも『アナライズ』ができるケースがあるとは思わなかった。

 

 *****

 

 そして次の日……

 「それではこれより、『四天王戦世界大会』の表彰式を始めます」

 「わあああーー」

 パチパチパチパチ……

 

 うおー、すげえ……こんな高い所に登って、みんな見てるし、緊張してきた……

 壇上には、俺たち『異世界あいどる24』を筆頭に、予選から戦った全十六組の出場者が整列している。

 眼下には何万人という人たちが、俺たちの勇姿を一目見ようとひしめき合っていた……

 

 「ヴァロン皇帝陛下より、今大会優勝者の『異世界あいどる24』へ、オリハルコンのトロフィーの授与を行います」

 バアァーーーン!

 ド派手な銅鑼の音が鳴り、巨大な門が開く。

 

 中から出てきたのは……あれ?ヴァロン皇帝じゃない?

 金髪の若い男……皇帝の息子か何かかな?

 

 ザワザワザワ……

 貴賓席に座っていたラーマイン王たちが、びっくりした顔で何か話している……?

 「誰じゃ、あやつは……?」

 「ヴァロン皇帝はどうした?」

 「お供の『ヴァロン近衛兵団』もいないよ……」

 「代わりにいるあの三人も新顔じゃ、一体何があったのか?」

 ラーマイン王たちも知らないやつなのか?じゃあ一体……

 

 「そんな、あいつは……」

 俺の横にいたイチヒコが、冷や汗を流し、目を見開きながら、金髪の男を見る……

 

 「師匠、あいつはマズいです……」

 「どうしたんだ、イチヒコ?」

 「あいつの名前は『堂元亜久斗ドウモトアクト』……中学のころ同級生でした。関東で最大の半グレ集団、『悪童アクドウ』のリーダーだった男です」

 「半グレ集団のリーダー!?本当に?」

 「間違いないです、あの金髪にあの指輪とタトゥー、あんな奴他にいないです」

 テンマルがビビッてイチヒコの後ろでブルブル震えている……

 

 「しかもあいつの父親は、反社会組織の幹部で、『堂元組』の組長なんです……

 オレの父親にも、アクトにだけは関わるなと言われていました」

 「そんなヤバい奴がギルギルに……

 しかもあの感じ、どうやら『ヴァロン帝国』を乗っ取ったみたいだぞ」

 「アクトならやりかねません。

 一年前に、『少年鑑別所』に入れられたばかりだったはずなのに……」

 

 「ヴァロン帝国を乗っ取って、いったい何をするつもりなんだ?」

 「わかりません……わからないけど、いいことをするわけがない、

 アクトの現実世界でのあだ名は、『全ての犯罪に手を染めた男』……オレの知る限り、現実世界で最も極悪非道な男です」

 

 その『アクト』が、ヴァロン皇帝が立つ位置に立ち、眼下の観客を見下ろす……

 「余の名は、『ディアボリックカイザー』……先日亡くなった皇帝に変わり、新しくこのヴァロン帝国の皇帝となった男だ」

 「『ディアボリック……カイザー』……?」

 

 

 ☆今回の成果

  俺 『マジェスティックオーラ』習得

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