第54話大戦勃発


 アナタは『アイドルの名前を叫んだ』ことがありますか?……俺はある。


 俺たちは三将軍を無視して、一度撤退することに。

 すぐにオルタナティブドアは引っ込めたけど……

 

 俺たちはアミサーと、気絶しているドドムとレイザを抱えて、バフをかけ、三将軍たちから離脱した。

 三将軍は、追ってこない……計画通りってわけか。

 俺は離れた場所で、またオルタナティブドアを開き、現実世界の家へ……

 

 現実世界の家は、ミユキをはじめ、メンバー全員が吹っ飛ばされた跡がある、やっぱりマキアがいない……

 

 「みんな大丈夫か?」

 「マスター……」

 ミユキが、力無く、俺にすがるように話しかけてきた。

 

 「マスター、私がついていながら、マキアがアクトに攫われてしまいました……申し訳ありません」

 泣きながら謝るミユキ……

 「相手の魔法や技を封印することができる魔獣を連れていたんだろ?それじゃ仕方がない」

 

 「しかも、『マキアカリバー』と、闇市で手に入れた『魚座ピスケスのゾディアックビースト』も一緒に盗まれてしまいました」

 「『魚座ピスケスのゾディアックビースト』もか……」

 

 「今ならまだアクトに追いつけるかもしれません」

 俺は少しだけ悩んだ……

 「お前たちをこのままにしてはおけない、まずは回復が先だ、じっとして……」

 「ですが……」

 構わず傷の手当てをする俺。

 

 治療が終わり、部屋を片づけたあと、一時避難していた市民たちを元の国へ帰した。

 床に、マキアにあげた『星と命の指輪』が落ちていた……俺はそれを拾う。

 「マキア……」

 

 「マスター、元気がないですね……」

 「本当なら、今すぐにでもマキアを救出しに飛んで行きたいはずなのに、私たちや、異世界の方を優先してくれているんだわ……」

 アンジュとミユキが、俺のことを心配してくれている。

 

 「きっとマキアのことが心配で心配で、いても立ってもいられないでしょうね……」

 「そんな……それじゃあ、私たちがもっとしっかりしないと」

 「そうね、これ以上マスターに心配をかけるわけにはいかないわ」

 

 

 ◆アクトside

 ヴァロン城・玉座の間に、マキアを抱えたアクトが戻ってきた。

 「遅かったな、兄貴」

 「お前たちがもっとギガンティックマスターを引き留めておけば、もっといろいろ物色できたんだ……お前たちの方が速すぎなんだよ」

 

 アクトは、肩からマキアを降ろすと、顔や体中を舐めまわすように見つめる……

 「へっへっへ……さあて、現役アイドルの生ヌードを、拝見するとするか」

 「いいねぇ兄貴、早くしてくれよ」

 

 「お、女の裸なんか、僕は見慣れているけどねぇ……」

 そう言いつつ、チラチラ横目で見ているハヤト……

 

 「オイラは六歳以下の……」

 「お前はいいから、あっち行ってろ!」

 ゲシッ!

 ヤスはアクトに蹴とばされた。

 

 アクトの手が、マキアの服に触れたとたん……

 バチィッ!

 「なっ……何だこりゃ?」

 「どうした、兄貴?」

 マキアの体には何重もの『結界』が張られていた。

 

 「ギガンティックマスターめ、用意周到な奴だな……悪意あるものが触れると発動する結界が張られている」

 「なんだそりゃあ?アイドルの生ヌード見れないのかよ、つまんねぇな!」

 ギンジがイライラしながら物に当たっている。

 

 「まあいい、女なんてこの異世界なら飽きるほど手に入る、それよりもこの女は他に利用価値がある。とりあえず、あのギガンティックマスターって奴の無力化は、この女にしてもらおう」

 「おお、そりゃいい、あの偽善者の泣きっ面も拝めるってことだよな?」

 

 「それと同時に、征服計画の方も進めておこう……おいギンジ、アメリカへ行くための航空券を準備しろ」

 「ええ~、金遣いが荒いなぁ……

 せっかくこの間田舎暮らしのババァから百万円せしめたばっかりだったのに」

 そう言いつつ、海軍将・ヤスに、パソコンで航空券の購入を指示した。

 

 「へへへ、この計画を実行に移せば……

 三国の王族たちの、慌てふためく姿が目に浮かぶ……

 今まで味わったことのない、最高の絶望をプレゼントしてやる」

 

 

 黒い鎧兵士が、扉から玉座の間へ入ってきた。

 「ディアボリックカイザー様、カイザー様に是非お会いしたいと申すものが来ております」

 「余に……?いいだろう、通せ」

 

 黒い鎧兵に連れられて、入ってきたのは、初老の大臣らしき男……

 「お初にお目にかかります、私は先代のヴァロン王に使えていた大臣でございます」

 「先代ヴァロン王の大臣が、余に一体何の用だ?」

 「まさか先代王の仇を討ちにでも来たのか?」

 ギンジが、大臣の顔を覗き込むようにして、尋ねる。

 

 「いえ、その逆です。

 私は以前よりヴァロン王のことが気に入らなく、いつか謀反を起こしてやろうと画策していたのですが、今回のカイザー様のご活躍で、あの憎きヴァロン王を貶めることができ、大変感謝いたしております。

 そして先程のあのスピーチ、まさに私の理想通りの考え、感銘を受けました……

 お願いです、是非私を貴方様の部下に!」

 「ほう、余の部下になりたいとは、いい心がけだ」

 

 「私が味方になれば、先代ヴァロン王の情報や、以前他国と戦争したときの状況なども詳しくお話することができます」

 「なるほど、それは貴重だな」

 そう言いながら、アクトは大臣に近づく。

 

 「是非余のチカラになってくれ」

 アクトが右手を出す。

 「勿論でございます、よろしくお願いいたします」

 大臣も右手を出し、握手する。

 アクトの右手にチカラが入る……

 「い、いたた……カイザー様、力がお強いですね、さすがでございます」

 

 アクトは自分の顔を大臣の耳元に近づけ、話し出す。

 「なんで余がお前を『アナライズ』をしないと思った?」

 「……ッ!」

 「そうか、カレンという名前なのか、素晴らしい変装だったな」

 「くっ!」

 

 大臣は素早い身のこなしでアクトから離れ、持っていた短剣を構える。

 変装は解け、カレンの姿に戻る。

 「アドバンスドアーツ、『影……』」

 

 「ヘクトアイズ、『イレイザーアイ』だ」

 ピキィーンッ!

 「影が、亜空間につながらない!?」

 カレンは影に潜ることができず、後ろにいた黒い鎧兵に捕まってしまう。

 

 「この女を助けに来たのか、それとも余の情報を仕入れようとしたのか……

 ギガンティックマスターの命令か?だが残念だったな」

 アクトはカレンの首を吊り上げ、値踏みするようにカレンを見る。

 「フム……お前も中々いい女じゃないか」

 「くっ……離せ!」

 

 「こいつも後から弄んでやる、地下牢に放り込んでおけ」

 アクトは、カレンを黒い鎧兵に投げ渡す。

 

 「おっと、最初に言っておくが、地下牢には特殊な結界が張ってある……

 携帯電話や魔法などで連絡しようとしても無駄だ。

 万が一手話なども使われると厄介だ、手錠もはめておく。

 それにお前にも一匹『ヘクトアイズ』をつけておく、余に弄ばれるまで、大人しく震えているんだな」

 「く、くそっ」

 「連れていけ」

 「はっ」

 

 兵士がカレンを連れて行ったあと、他の兵士がアクトの近くまで来て、跪く。

 兜を脱いだ兵士の顔は、真っ青に青ざめて、冷や汗が噴き出していて、手もブルブル震えている。

 

 「ディアボリックカイザー様……そろそろ、切れてきまして……『アレ』を、お願いできますか?」

 「もう切れたのか?仕方ねぇな……」

 アクトは懐から小さな箱を取り出す……

 中には現実世界の『注射器』が入っている。

 

 「こいつを打てば、痛みも、眠気も、恐怖も感じなくなる……最強の兵士に、お前はなれるんだ」

 アクトはおもむろに兵士の腕の服を捲ると、注射器の針を刺し、注射した。

 「おおおお……」

 「今後もこれが欲しければ、余のために死ぬまで働け……フッフッフ、ハーハッハッハ」

 

 兵士はよだれを流し、ガクガク震えながら、恍惚の表情を浮かべる……

 

 

 マキアは既に気が付いており、先程の一部始終を見ていた。

 「カレンをどうするつもりなの?」

 「フッ……お前は人の心配よりも、自分の心配をした方がいい」

 

 「今の兵士にも、あきらかに『危険な薬』を投与して……異世界の人間を、いったい何だと思っているのですか!?」

 「なんとも……」

 「くっ……」

 

 「あいつらが傷つこうが、死のうが、オレ様はまったく痛くも痒くもないんだから仕方ねぇだろう? アーヒャヒャヒャ」

 「アナタという人は……」

 マキアは、かけられた手錠をなんとか外そうともがく……

 

 「おっと、余から逃げようったってそうはいかないぞ……

 お前にも専用の『ヘクトアイズ』を一匹つけてある、抵抗するだけ無駄だ」

 

 「くっ……私をどうするつもりですか?」

 「へへへ……余と一緒に、ある場所に行ってもらう」

 「ある場所……?」

 

 

 〇俺side

 俺たちは、状況説明と今後の対策について協議するため、カイエル城の玉座の間に来ていた。一応サモンロードとコズミッククイーンにも来てもらっている。

 

 まずはラーマイン王が話し出す。

 「今の所『ア・ヴァロン』に動きは無い、おそらく軍備を整えているのじゃろう」

 「いったいどんな手を使ってくるのか、それがわからないことには、対策のしようがない」

 メギード王の意見もわかる。

 

 「まともに戦えば、戦力的には我ら三国の方が、多少は上。でもあの余裕、何か策があると考えるのが妥当だろうねぇ……」

 館長の意見、俺もそう思う。

 

 俺の意見も言ってみる。

 「ヴァロン皇帝を人質にする可能性もあります、あの男ならやりかねない」

 「ふむ……」

 今のこの状況では、意見もまとまるはずもない。

 

 「とりあえず、ア・ヴァロンからの攻撃があったときのため、ア・ヴァロンに最も近い地域に、前線を配備し、攻撃に備えよと指令を出しておいた」

 「今はそれが最善だと思います」

 

 「うむ、今後おぬしたちの力を借りることになるやもしれん、何かあったら頼む」

 「わかりました、ラーマイン王」

 

 俺とサモンロード、コズミッククイーンは、玉座の間を出る。

 おもむろに、サモンロードが話し出す。

 

 「ギガンティックマスター、申し訳ないけど、今後あまり僕には期待はしないでくれ」

 「サモンロード……?」

 「ヤスってハッカーも言っていたけど、僕には難病の妹がいるんだ。

 妹はまだ小さいから、できるだけそばにいてあげたい、

 だからもうあまりこちらには来れないかもしれない」

 「そうか……」

 

 「私もサモンロードと同じだ」

 「コズミッククイーン……」

 「私たちには、私たちの現実世界での生活がある。

 アナタの四天王や、この世界の王たちには悪いけど、私からすればこの世界は『ゲームの世界』…… 現実世界の生活を脅かしてまで、この世界に貢献するつもりはないわ」

 「クイーン……」

 クイーンの四天王たちが、心配そうにクイーンを見つめている。

 

 「わかった、お前達にもそれぞれ事情があるのは当然だ、俺たちの事は自分たちで何とかする、気にしないでくれ」

 「すまないね」

 「落ち着いたら、また参加するよ」

 「ああ」

 

 そう言って、サモンロードとコズミッククイーン達は、オルタナティブドアで現実世界へ帰っていった。

 

 

 ◆再びアクトside

 目隠しと、手錠をかけられたマキアが、アクトと一緒にたくさんの人混みの中へ入っていく。

 アクトがマキアの目隠しを取る。

 マキアは眩しさに目をすぼめる。

 

 わああああーーーー

 マキアちゃーーーん!

 ミユキーーーー!

 「こ、ここは……?」

 

 「ここは現実世界の『あいどる24』のコンサート会場、今ちょうどドームツアーの真っ最中だ」

 「現実世界の……『あいどる24』……?」

 ステージの上には、現実世界の『あいどる24』が、笑顔満開で、歌って踊っている。

 「お前は会ったことがないんだろう?現実世界の自分に……会わせてやるよ」

 「そんなことをしたら、現実世界の私の魂が……」

 

 「見えるか?あのセンターで踊っているのが、『七星 真妃愛』だ。

遠くからでも、目さえ合えばいいらしい、ほらよ」

 アクトは、マキアの頬を掴み、無理やりステージの方を向かせる。

 思わずステージのセンターに目線を移してしまうマキア。

 「うっ!あ、あああああ……」

 

 一瞬だった……

 異世界のマキアと、現実世界のマキア、目が合った瞬間異世界のマキアの意識は消え、体から光る球のようなものが飛び出し、現実世界のマキアの体に吸い込まれていく……

 だがそれを視認している者はいなく、現実世界のマキアもまったく気にせず踊り続けている。

 

 「フフフ……やはりな、思った通り現実世界でドッペルゲンガーと目を合わせれば、異世界とは逆、つまり、ドッペルゲンガーの魂の方が、現実世界の体の方に吸い込まれたか」

 アクトは、気絶したマキアを抱えながら、現実世界のマキアを見てニヤリと笑う……

 

 「これで、こいつはもぬけの殻だ。

 あとはオレ達の思惑通りに、動いてもらうだけ……」

 

 現実世界のマキアは、何事もなかったかのように、歌って踊っている。

 アクトは現実世界のマキアをしり目に、笑いながらオルタナティブドアを通って、異世界へ戻っていく……

 

 

 〇再び俺side

 

 ラーマイン王に呼び出されて、カイエル城の玉座の間に来た俺。

 「先程連絡が入った、ア・ヴァロンの新しい皇帝が、鏡魔法で中継するそうじゃ」

 「鏡魔法で、中継……?」

 『サザバード亜人同盟』の一員として参加していた『鏡の民』が、捕まって利用されているのか……?

 

 玉座の間の中央に、巨大な鏡がセットされた。

 時間になり、鏡に映った景色が変化する……

 鏡の中には、ア・ヴァロンの新皇帝となった、アクトが映っている。

 

 「異世界の民たちよ、ごきげんよう」

 上機嫌で演説を始めるアクト……後ろには三将軍も控えている。

 

 「聞いている者もいると思うが、改めて名乗らせてもらおう……

 余は、亡きヴァロン皇帝の跡を継ぎ、新しく皇帝となった『ディアボリックカイザー』」

 前に聞いたときと同じ演説が、繰り返される……

 「国名も、新たに『新生軍事国家ア・ヴァロン』と改名した」

 

 「大義名分を掲げ、戦争を正当化しようとするとは……何たる暴挙か」

 ラーマイン王の怒りが伝わる。

 「この異世界の平和のため、我らはこのア・ヴァロンによる『世界統一戦争』の勃発を宣言する!」

 

 「何が異世界の平和だ!我らは断固として、このような行為を許すわけにはいかない!」

 メギード王が叫ぶ。

 「余に従うならば良し、逆らうならば容赦はしない……さあ選択するがいい、平和か、死か」

 

 「とんでもない二択だね……到底受け入れることはできない」

 さすがの館長も、呆れている様子だ。

 

 ヴァロン城入り口の、広い庭園の前に、異世界には似つかわしくない現実世界の装甲車が停まっている。

 巨大な装甲車の前には、ドラゴニックキングと竜の民リュオンの石像が、まるでレリーフのように飾られている……

 「キング、リュオン……」

 ドドムとレイザ、そしてアミサーが、泣きそうな顔で鏡を見つめる。

 

 そのまま鏡は、城の上の方を映し出す。

 正門から、その上のバルコニー、そして王たちが演説などをする広めの踊り場……その時!

 「マ、マキアーーーーーッ!!」

 そこには下半身を抑制されたマキアの姿が……

 意識がないように見える。

 

 そしてまた、鏡はアクトを映す。

 「見ているか?ギガンティックマスターよ。

 お前の愛しいこの女は、現実世界のマキアと目を合わせ、魂の抜け殻になっている……このまま放っておけば、数日のうちにモンスター化するだろう」

 「なんだって……!?」

 

 「この女を助けたければ、ここまで来い……待っているぞ、ハハハ、ハーハッハッハ!」

 「くそっ、アクトの野郎なんてことを……」

 バキィッ!

 俺はその場の机を叩き割る。

 

 これは完全に、俺をおびき寄せるためのアクトの罠……

 どうあっても、俺を無力化したいらしい。

 しかし、行かないわけにはいかない。

 

 「待ってろマキア、今助けに行く……」

 

 

 ☆今回の成果

  マキアに、悪意に反応する結界を張る。

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