屠りしもの 後編
第49話ライブラの能力
アナタはアイドルに『泥船』と言ったことがありますか?……俺はある。
救護班に連れられて、会場を降りていくコズミッククイーン達。
「魔力も体力もだいぶ使っちまった……正直しんどいけど、残りのやつらの相手をするか」
などと言いながら、サモンロードとドラゴニックキングの方を見たら……
えっ!?サモンロードがドラゴニックキングに、首を吊り上げられている!?
よく見たら、サモンロードの四天王も、ドラゴニックキングの四天王たちに抑え込まれている……
いったい何が……?
サモンロードとドラゴニックキングの会話が聞こえる……
「ぐっ……僕たちを騙したのか!?」
「ハハハ、MCのアナウンスを聞いてなかったのか?
『バトルロイヤル方式』は、タイマン、共闘、『裏切り』、何でもありの大乱戦だってな……お前がバカ正直にオレの言う通りにしてくれたおかげで、お前の四天王を一人ずつ順番に抑え込むことができた」
「くっ……卑怯な……」
「今の定石はな、『信じる者は救われる』じゃなくて、『信じる者はバカを見る』なんだよ」
見ただけで、ドラゴニックキングがサモンロードを騙して陥れたとわかる。
待ってろ、今助けに行くぞ!
ドラゴニックキングの四天王は、全員黒いフードを被っていたが、みんなそれをとる……まんま竜族の奴や、頭に輪っかが乗っている、天使みたいなやつも……
急いでMCの解説が入る。
「手元の資料によりますと、ドラゴニックキング選手の四天王は、全員『上位亜人種』だそうです」
「『上位亜人種』……森の民エルフのアマネと、同じかそれ以上の存在ってことか……」
「『竜の民のリュオン』選手、『天空の民のアミサー』選手、それに『鬼の民のドドム』選手……」
「『鬼の民』だって?確かサザバードの『砂漠の民の島』の奥の廃墟にいて、絶滅したっていう……生き残りがいたのか」
「そして最後の一人は『闇の民のレイザ』選手です」
「『レイザ』って……夜の民のヨヨさんの側近にいた人……?」
アマネが思い出したように話し出す。
「アマネ、お前に『嫌いな匂いがする』って言ったイケメンだったな……あいつ夜の民じゃなくて、『闇の民』だったのか」
何とも異色揃いの四天王……
でも見ただけで分かる、全員相当な実力の持ち主だ。
続けて大会MCの人が話す。
「『上位亜人種』たちは、そのあまりの強さに迫害されてきたという歴史があります。すでに絶滅したと噂の『上位亜人種』の方もいらっしゃるようです」
……現実世界でも、力が強かったり、能力が高いと、妬まれたり恐怖の対象として迫害されたりすることはよくある話だ。
「くそっ、『フェンリル』と『タイタン』と『ウィルオーウィスプ』がいない……
いったいどうしたんだ?」
サモンロードが、首を吊り上げられながらも聞く。
「あの三匹は『強制送還』させてもらった……『天空の民・アミサー』の術でな」
「なっ、そんなことが!?」
「我不覚、我不動也……」
「ガンドルフ!」
重騎士のガンドルフが、『鬼の民ドドム』ってやつに完全に封じ込まれている……
あの自慢の『ダイヤタートルシールド』と『ドリルスピア』が真っ二つになっている。何なんだあいつの持っている、日本刀みたいな武器は……?
聖女のキャルロッテも動きを封じられている……
いくらウィルオーウィスプがいないからって、腕組んだままであの『竜の民リュオン』ってやつが一人で抑え込んでいる。
魔女のエスタだけはまだ捕まっていないけど……
「くっ、まだアタイがいるわ!」
エスタの前に魔法陣が展開……『闇』『闇』『闇』『闇』
「スーレイ・アブトゥル・ラーズ・クルス
漆黒よ 暗黒よ 暗闇よ 常闇よ すべての闇よ 波のように荒れ狂え
闇属性クアトログラム、『ダークネスオーシャン』!」
海の津波のように、うねりを伴った闇の魔力が敵を飲み込む!
「フッ、『闇の民』のオレに、闇の魔法など効かん」
そう言ってエスタの『ダークネスオーシャン』を『対魔力結界』で吸収する『闇の民レイザ』。
「アタイの闇魔法が……」
「お前にはこれをくれてやる」
レイザの前に魔法陣が展開……『炎』『水』『地』『地』『闇』
「世界に災いもたらす王よ その目に闇を その手に血を その心臓に災厄を
ホール・ハルスト・ガッダ・イン・ビドー
チービル・シャル・レスト・アノン
災厄属性ペンタグラム、『カラミティゾーン』!」
ゾゾゾゾゾ……
あれは、エスタがライゴウに使った災厄属性の魔法……
「この魔法は、限定空間内にいる相手に、任意の状態異常を二つ付けることができる魔法だ。お前には魔法が使えない『沈黙』と、『猛毒』の状態異常をプレゼントしてやろう」
「…………ッ!!」
エスタがもだえ苦しんでいる、『猛毒』のせいだ!
「エスターーーーッ」
「アーハハハ、いい子ちゃんがもだえ苦しむ姿は、いつ見ても気分がいいねぇ」
「くっ、いくら不意を突かれたとはいえ、僕の四天王がこんな簡単に……」
「お前たちはもう終わりだ、ギブアップしろ」
「……断る」
「じゃあ仕方ねえな……オレがとどめを刺してやる、死ね」
ドラゴニックキングは、そのままサモンロードを放り投げた!
「うわあっ!」
ドラゴニックキングは、右腕のガントレットを『ドラゴンの牙』のようにして、振りかざす!
「『ドラゴニックファング』!」
見えない刃が、サモンロードに襲い掛かる。
ズバアッ!
「うあああああっ……う、腕が……!」
サモンロードの右腕が宙を舞う……!
「いやああああぁぁぁ!サモンロード様!」
「サモンロード!」
サモンロードの四天王たちの叫び声!
俺はメンバーと、サモンロードの元に駆けつける。
「大丈夫かサモンロード!」
「ああああああ……う、腕が……僕の腕が……」
「大丈夫だサモンロード、すぐ治してやる……
異世界あいどる24回復班、サモンロードの回復を頼む!」
「わかりました」
俺はサモンロードの回復は任せて、ドラゴニックキングの方へ歩いていく。
「てめえ、なんてことしやがる!」
「フッ、さっき言ったことをもう一度言ってやる……『なんか文句があるのか?』」
「何だと、この野郎ッ!」
「丁度いい、今ここでオレが殺してやるよ、かかってこい!」
「上等だ!やれるもんならやってみろ!」
俺は怒りのままドラゴニックキングに殴りかかる!
ドラゴニックキングも右腕のガントレットを構える!
「『エクスプロードブロウ』!」
「『ドラゴニックファング』!」
ガカァッ!!
「そこまでっ!」
殴りかかろうとしていた俺とドラゴニックキングの間に、『ゆうザイくん』が立っている……俺とドラゴニックキングの体はまったく動かないで、制止している。
「な、なんだ、これは?体が……」
「テメエ、いったい何をしやがった?」
ゆっくりと、ゆうザイくんが話し出す……
「お前たちの周りの限定空間の時間を、『千分の一』にした……思考速度はそのままだから、話したり、考えたりはできるはずだ」
「お前……」
「これが私の『
「『
「今お前たちがここで戦うのは、大会的に都合が悪いと判断した。だから急遽『一時停戦』とさせてもらう」
「『一時停戦』……?」
『むザイくん』がトコトコ俺たちの前に歩いてきて、話し出す。
「『サモンロードチーム』は、全員戦闘不能と判断し、敗北といたします、確認して下サイ」
ザワザワザワ……
「このまま戦闘を続けると死亡者が出る恐れがある……いったん宿に戻り、冷静になってから明日再戦とする、いいな?」
「わかった……」
「チッ……」
その後、『時間操作』を解いてもらい、俺とドラゴニックキングはいったん離れた。
「今まで一度も喋ったことがなかった『ゆうザイくん』があんなに……いったい何者なんだ?」
バサッバサッ
神魔が俺の肩に止まって、『ゆうザイくん』を見つめている……
「神魔、『ゆうザイくん』について何か知っているのか?」
「ギャウギャウ」
ん、誤魔化した……のか?
メンバー達の元へ戻ると、サモンロードたちの回復は終わっていた。
「一応腕も回復したが、念のため現実世界の弟の病院で診てもらおう」
俺たちはオルタナティブドアを使って、サモンロード達を弟の病院へ連れて行った。
*****
「どうだ?」
「うん、血管も、神経も異常はないよ」
「そうか、よかった」
一応サモンロードは、大事をとって弟の病院で入院することに。
病室では重騎士のガンドルフと、魔女のエスタが、心配そうにサモンロードに寄り添っている。
聖女のキャルロッテは、心労と泣き疲れで、サモンロードの手を握りながら眠ってしまっている……
「ありがとうギガンティックマスター、僕だけじゃなく、四天王たちも回復してくれて……」
「当たり前だろ、あの状態で放っておくほど、俺は鬼畜じゃないって」
サモンロードの腕は、包帯でグルグル巻きにされていた。
斬られたショックで、まだ動かすことができないようだ。
「ドラゴニックキング……とんでもない奴だな」
「油断していた僕にも、非があるかもしれないけど、あの強さは異常だよ」
「そうだな、『ファルセイン王国騎士団』も、サモンロードたちも、今大会では優勝候補の一角だった。それがまったく手も足も出せないまま敗北ってのは、ちょっと異常だ」
「彼らと戦っていた時、なにかおかしな感覚があったんだ……」
「おかしな感覚?」
「頭の感覚と、体の動きにズレがあったような……」
「どういうことだ?」
「わからない、わからないけど、何か仕掛けてきていたのは事実だ、気を付けるに越したことは無いよ」
「ああ、あのドラゴニックキングが、正々堂々戦う気がないってのは想像に難くないからな」
*****
次の日……
「さあ会場のみなさん、大変長らくお待たせいたしました、『四天王戦世界大会・決勝戦』、いよいよ開始です!」
「わあああああーー」
「おおおおーーー」
俺たちは会場の中央へ、そこにはすでにドラゴニックキングと、その四天王が待っていた。
「よく逃げずに来たな、誉めてやろう」
「俺が逃げるわけないだろう、何様だてめえ」
俺とドラゴニックキングの真ん中に、昨日と同じように『ゆうザイくん』が立つ。
「お前たちの状態を、コズミッククイーンと戦った後の状態に戻す……」
「そんなことができるのか?」
『ゆうザイくん』が、手に持っていた『
「アドバンスドアーツ、『タイムリバース』!」
キュウーーーン……
「これは……?」
体中の傷やダメージが、昨日の状態に戻っている……?
魔力の残量も、コズミッククイーンとの戦闘後の状態と同じだ。
「この能力を戦闘中に使われたら、一生戦闘が終わらないぞ……」
ゆうザイくん、本当に何者なんだ……?
ドラゴニックキングの四天王も、黒いフードは被らず、最初から顔や装備を晒している。昨日はサモンロードのことがあったから、ちゃんと見ていなかったけど、それぞれとんでもない特徴を持った四天王だ……
『竜の民リュオン』……
三メートル近い巨体に、まんまドラゴンの顔……
昨日から一切喋らず、ずっと胸の前で腕を組んでいる。
『亜人種』と言えばアマネだ、どんな奴か聞いてみた。
「『上位亜人種』の中でも最強と言われている種族です。それ故に、人間たちに徹底的に迫害されていました……その憎悪は計り知れません」
『鬼の民ドドム』……
真っ赤な巨体に、立派な角、腰には昨日の『日本刀』の様な刀が数本刺さっている。
『ドドム』って名前、聞いたことがあると思っていたけど、モミジの故郷の『砂の町』の名前が確か『ドドム』だったな」
「そうです、村の名前になるほど知名度が高い戦士ということでしょう。しかも『砂漠の民のオアシス長』の話では、鬼の民は一人で一国と渡り合える程の強さだと言っていました」
『闇の民レイザ』……
『夜の民ヨヨ』の取り巻きの一人だったレイザ……あれ?あの格好……
「どうやらレイザさんは、女性だったようですね」
黒いマントの下には、見事なプロポーションの女性の体が。
確かに気の強そうな、女性っぽい顔つきではあったけど……
「『闇の民』も、人間に迫害されていた種族で、すでに絶滅したと聞いていましたが、どうやら『夜の民』の中に紛れて、生存していたようですね」
『天空の民アミサー』……
頭に『天使の輪』が浮いているし、背中にも白くて小さな羽根がついている……
「『天空の民』は、元々天使様の生まれ変わりだと言われ、大変重用されていましたが、それをよく思わない教会組織に、貶められたようです」
教会組織か……現実世界でも昔よくそういう話あったなー……
「『聖女』の上位互換と言われ、どんなに離れていても回復が可能だそうです。
また、大気と空間を操作する術にも優れた種族と聞きます」
……話を聞いただけでも、相当強い四天王だということがわかる。
しかも……
「俺はあと魔法を三回しか使えない、あいつの四天王は全てお前たちに任せることになってしまう」
「分かりました、任せて下さい」
「ドーンと、大船に乗ったつもりで任せるとよ」
「泥船じゃなきゃいいけどな……」
「ひどいっ!」
「何とかしましょう、このままじゃ終われません」
「そうだな、サモンロード達の仇もある、このままじゃ終われない!」
「はい!」
「よし、異世界あいどる24、行くぞ!」
「では『四天王戦世界大会・決勝戦』、バトルスタートします、3、2、1、スタート!」
☆今回の成果
ゆうザイくん 『
ゆうザイくん アドバンスドアーツ『タイムリバース』を習得
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