第39話Beyond The Deth

 アナタはアイドルに『変わるきっかけ』を貰ったことがありますか?……俺はある。

 

 パチパチパチパチ……

 向こうから拍手の音が聞こえる。

 

 「お見事」

 奥で見ていたコンドルが、立ち上がり、俺たちに賞賛の拍手を送っている……

 

 「今回は助けないのか?」

 「彼らにはこれがラストチャンスと言っておいたからな……これで勝てないのなら、責任は彼らにある」

 

 「人の命をまるで子供のオモチャか、ゲームの駒のように……」

 

 「甘やかしてばかりでは本人のためにならないからな……『情けは人の為ならず』というだろう?」

 「いーや違うね、そのことわざの意味は、

『情けをかけるというのは、その人の為ではなく、巡り巡って自分に帰ってくる、だから人には親切にしなさい』という意味だ……字面の上っ面だけをみて、理解した気になっているんじゃねぇ!」

 「ふむ、そうだったのか……意外に博識だな」

 

 「この人数を前に、逃げなくていいのか?」

 「逃げる?言っている意味がよく分からないな……」

 コンドルはやれやれといった感じで、手の平を上に上げている。

 「これだけの数の人間を殺せるイベントを放置して、私が逃げるわけがないだろう」

 

 「こいつ……」

 俺も含め、これだけの数を、一人で全て相手するつもりらしい……

 

 「みんな下がれ、ここは俺一人で行く」

 「そんな、危険ですマスター……まずは私たちが様子見を」

 マキアや他のメンバーが、武器を構えながら嘆願してくる。

 

 「みんな、マスターの言う通りにして……

 恐らくあのコンドルという男、今まで戦ったどの敵よりも強いわ」

 カレンが、コンドルを睨みながら、メンバーを諭す……

 

 「そんなに!?」

 「私が得た情報が、すべて正しかったら……の話だけど」

 今までカレンからもらった情報は、カレン自身が誘導して聞いた話や、ハーミットが『超聴覚』を使って得た情報などだ……どれも信ぴょう性が高い。

 

 「どちらにしても、マスターが本気で戦うのなら、私たちは邪魔よ……残念だけど」

 「そんな……私たちだって、前より成長したわ」

 「わかってる……でもマスターほどじゃないわ。

 コンドルは私たちがいれば、マスターの弱みである私たちを必ず先に狙ってくる……マスターは私たちをかばいながら戦わざるを得なくなる」

 

 「そんな……じゃあ私たちは、ただマスターを見守ることしかできないの?」

 「それがいいんだよ」

 「マスター……」

 「お前たちが見ていたら、俺はかっこつけて負けるわけにはいかなくなる……だから信じて見守っていてくれ」

 「……わかりました」

 

 「あともう一つ……」

 「?」

 「万が一俺が魔力を使いすぎ、『転移病』になって『理性の無いバケモノ』になったら、お前たちの手で俺を葬ってほしい」

 「そんなっ……何を言って……」

 

 「俺が『理性の無いバケモノ』になって、何の制限もなくチカラを使い続けたら、この世界がどんなことになるか……

 ファルセインの住民たちや、カイエルの王様や保安員たち、世話になったサザバードのみんな、それを、俺が壊すことになってしまう」

 「それは……」

 

 「俺はお前達メンバーには絶対に手は出さない……なぜかそれは自信がある。

 だから、俺を止めることができるのは、お前達しかいないんだ」

 「……」

 「大丈夫、『万が一』って言っただろ?勝ってすぐ戻るよ」

 「本当……ですか?」

 「本当だ、そうしたら次どこに行くか、みんなで相談だ」

 「わかりました……待ってます、みんなで、マスターの事待ってますから!」

 

 

 俺はコンドルの方へ歩き出す。

 「……お別れは済んだのか?」

 「そんな話はしていない……お前を倒して、その後どこに行くか計画を立てる予定だ」

 「フフフ、残念だがお前達の行先は、『絶望』と『地獄』だよ……」

 「悪いがそこへはお前一人で行ってくれ、俺はお前に勝って、必ず帰る!行くぞ!」

 

 俺の前に魔法陣が展開……『地』『闇』『闇』

 「セイ・タルス・クエト・ジータ

 重力属性ハイアナグラム、『グラビトン』!」

 ズドンッ!

 俺は右手で『グラビドン』を放ち、コンドルの動きを止めた。

 「おお、これは……」

 

 そのまままた魔法陣を展開……『炎』『風』『光』

 「ミリタリス・ビー・オージャ・ダナドゥ

 我 光弾を操り 敵を屠るものなり

 光弾属性ハイアナグラム、『ヴァーミリオンレイ』!」

 ドキュキュッ!

 続けて左手で『ヴァーミリオンレイ』を放つ。

 ズドドドド!

 全弾命中した!

 

 ズズズズ……

 煙の中から『対魔力結界』を張ったコンドルが出てきた……

 「無傷かよ……」

 「なるほど、『ダブルキャスト』使いだったのか……強いわけだな」

 

 『ダブルキャスト』……

 同時に二つの魔法を放つことができる、魔導士の秘儀。

 

 実は俺は今までも何度かこの『ダブルキャスト』を使っていた。

 ファルセインの百騎士、『瞬きのアイアス』の時や、

 審判の塔で、魔物になった貴族たちを倒すときなど……

 「『ダブルキャスト』は、あの神魔でさえ使えない、俺のとっておきなんだけどな」

 

 

 「アドバンスドアーツ、『次元刃ジゲンジン』!」

 俺に向かって放った『次元刃ジゲンジン』だが、後ろにカスミが!

 「カスミ、危ない!」

 俺はカスミを抱えて横に飛ぶ!

 

 ズズズッ……

 カスミの後ろにあった小屋が、真ん中から真っ二つに……

 

 「マスター、私のために……ありがとうございますぅ!」

 そう言いながら、ここぞとばかりに俺に抱きついてくるカスミ。

 「カスミ、そんなことしている場合じゃ……」

 

 「余裕だな、ギガンティックマスター……

 アドバンスドアーツ、『次元十字斬じげんじゅうじざん』!」

 コンドルが手刀を十字に動かし、『次元刃ジゲンジン』を放った!

 「あぶっ」

 俺は『次元刃』を避けるため、そのままカスミを突き飛ばした。

 「キャー」

 ゴチンッ!

 「いったーい!マスター、ひどいですー」(泣)

 「そんなこと言ったって、仕方ないだろ!」

 カスミはふくれっ面、でもアイドルだから可愛い。

 

 「カスミ頼みがある、俺はこれからあいつに全力で魔法をぶち込む……お前はメンバーに被害が及ばないように、広範囲の防御を頼む」

 「わかりました……一人レゾナンスアーツ、『アマノイワト・龍』!」

 パアアアアア……

 ザザザザザザ……

 カスミは『アマノイワト』を、その場に適した形に変形させることができるようになっていた。

 今回の『アマノイワト・龍』は、龍のように長く変形し、俺とコンドルを囲んで、それ以上被害を広げないようにする『広範囲防御型』だ。

 

 

 「アドバンスドアーツ、『次元刃ジゲンジン』……これでスミレの『地獄巡り』の結界も斬り裂いたのか」

 

 「あの結界内は、別空間と繋がっていたからな……

 ただ私からすると、『斬る』というより、空間を『ずらす』という感覚なんだがな……」

 

 

 見えないし、防御もできないし、避けるしかないって本当厄介すぎる……

 「ハーミット、お前の『超聴覚』で聞こえないのか?」

 

 「……無理ですね、まったく音がしません。

 あの手刀の角度とタイミングで予測するしかありません」

 

 「くそっ、じゃあ攻撃する暇を与えなきゃいいんだな……」

 俺はガントレットを構えて、コンドルに突撃した!

 「おおおおおおお!

 『デトネーションブロウ・ファランクス』!」

 ドドドドドド!!

 

 「ぐぼあっ!」

 百発近くのデトネーションブロウを食らって、コンドルは後ろの建物に激突した!

 ガラガラガラ……

 瓦礫の下敷きになり、動かないコンドル……

 

 ドクンッ!

 「うっ……ぐっ……」

 心臓に痛みが……『転移病』が進行したか?

 ガラガラガラ……

 瓦礫が崩れ、中からコンドルが出てきた。

 ボロッボロになった顔と体……骨も何本か折った感覚がある、普通ならこれで再起不能だ。

 と思ったらすぐに修復されていく、これは……

 「『超回復魔蟲』か……」

 

 「その通り、その程度の攻撃では私は死なないよ……

 いいのかい?このままだと、お前も、彼女たちも、みんな死ぬことになる」

 

 「だから、そんなことはさせねーって、言ってるだろーーー!」

 俺はまたガントレットを構える。

 「『エクスプロードブロウ・ファランクス』!」

 ズガガガがガガガガ!!

 「ぱぶろふぅっ!」

 

 コンドルは吹き飛び、今度は巨大な岩盤に激突して、破壊した。

 「ハァ、ハァ、ハァ……ぐううっ」

 ドクンッ!

 

 「やった!マスターやりました」

 「いや……」

 岩と瓦礫の中から、上半身の服が破れた姿でコンドルが出てきた……

 「えっ、あれって……」

 

 「やっぱり……カレンの情報通り、お前『転移病』だったんだな」

 コンドルの上半身、心臓から木の根の様な真っ赤な刻印が、体中に刻まれている……コンドルは不敵な笑みを浮かべる。

 

 「その左頬の赤いタトゥーも、『転移病』の刻印がそこまで浸食していたものだったのか……ということは、すでに『理性の無いバケモノ』になっているな?」

 

 「フフフ、『理性の無いバケモノ』か……確かにそうかもしれん。

 私は現実世界で、子供のころからずっと『人を殺してみたい』と考えていた……

 しかし現実世界で人を殺せば、あっという間に捕まり、刑罰を受けることになってしまう。

 私は人を殺すことは諦め、つまらない平凡な暮らしをしていた……

 そんな時この『ギルギル』に出会い、召喚された。

 現実世界では人を一人殺しただけで捕まってしまうが、

 この異世界では人を何十人も殺せば英雄扱いだ。

 私は歓喜したよ……こんな素晴らしい世界が、他にあるか!?」

 

 「……自分の『殺人欲求』を満たすためだけに、破壊と殺戮を繰り返す、まさに『理性の無いバケモノ』。

 暗殺組織のボスになったのも、当然の成り行きってわけか」

 

 「私はこの『暗殺組織デスサイズ』で、これからも人を殺していく……『殺人』ほど甘美で、魅力的な快感は、この世に存在しないと思っている」

 

 「このまま放っておけば、お前は俺も、メンバーも、全員殺す気だな?」

 「モチロンだ、相手が強ければ強いほど、殺した時の快感は倍増するからな」

 

 

 「お前を、このままにしておくわけにはいかない……たとえこの命に代えても!」

 俺はストレッチなしで、怒りを上げていく……

 「うおおおおおお、『怒り百パーセント』!!」

 ズアアアアッ!

 

 「百パーセント!?マスター、危険です!」

 マキアの声が遠くに聞こえる……

 体中で、巨大な魔力が駆け巡っているのがわかる。

 

 ドクンッ!

 「グッ……」

 『転移病』がまた一つ侵食した……でも構っていられない!

 「いくぞ、コンドル!」

 コンドルは余裕の表情で、胸で腕を組み、待ち構える。

 

 

 「セイ・タルス・クエト・ジータ・アースクレート・ヴァイアロン

 重轟場属性 五芒星魔術ペンタグラム、『ヘクト・グラビトン』!」

 雷を伴った重力球で、コンドルを地面に叩きつける!

 「へぶしっ!」

 

 俺の前に魔法陣が展開……『炎』『水』『風』『地』

 「アルガン・ヴェナ・オー・ドラエル

 炎の摩擦 水の渦 地の振動 風の波動

 我が前に下りてその力を示せ 我が怒りを糧とし 汝の敵を焼き尽くせ!

 極炎属性クアトログラム ギガンティックフレア!」

 ガガガガガ!

 

 ドクンッ!

 「ぐ……ハァ、ハァ……」

 重力球とギガンティックフレアの連続攻撃、今までの相手ならこのコンボで決まりなんだが……

 ガラガラガラ……

 コンドルはすぐに出てきた。

 

 「ひっ……」

 メンバーから悲鳴が上がる……

 腕や足がちぎれかかっていて、首も折れているっぽい……

 ギュルギュルギュル

 もの凄い速さで修復されていく……

 

 

 「く、くそっ……あれでも死なないのか……」

 「いや、一度死んだよ、素晴らしい攻撃だった」

 「なに?それはいったいどういう……」

 

 「フフフ、私はもう一枚、『魔界のタロットカード』を所持していてね……」

 そう言いながら、ポケットから一枚のカードを取り出す。

 「『死神のカード』……このカードがあれば、私は死なないんだよ」

 「なんだと……?」

 「いや、『死ねない』と言った方が正確か……私は自殺すらできないからな」

 

 「死なないって……一体どういうことだ?」

 「簡単なことだ、致命傷を受けても死なない……首を斬ろうが、心臓を潰そうが死ぬことは無い。これがこのカードの能力、『不死』だ」

 「『不死』……?死ねない能力……?」

 

 「それはおかしいね……私が調べたところによると、

 『魔界のタロットカード』を所持して、その能力を使えるのは、一枚で一人のみ。

 アンタはすでに『恋人のカード』を使っていたじゃないか」

 魔占術の島の占術長が、説明してくれた。

 

 「しかもその『死神のカード』……

 アタシの記憶が確かなら、アタシの店に来た『短髪で眼帯、顎鬚を蓄えたガッチリ体系の男』が所持していたはず」

 

 占術長の話を聞いて、カレンが話し出す。

 「その容姿、おそらく『暗殺組織デスサイズ』の、前任のボスでしょう……」

 「前任のボス……確かに、そんな感じのワルだったよ」

 

 カレンは、ハーミットと顔を見合わせ、話を続ける。

 「前任のボスが『死神のカード』の所持者だったとしたら、私の推測が現実味を帯びてきました」

 「カレンの推測……?」

 「暗殺組織内で噂になっていた話があります……それは、前任のボスを殺したのは『コンドル』ではないのかと。

 その時に、『ボスの座』と『死神のカード』の両方を奪ったんだと言っていました」

 

 「だが、カードを奪っただけでは『所持者』として認めてはもらえないはず……」

 占術長の疑問はもっともだ。

 「その通りです、ですがこんな噂も聞きました……カードが『所持者』を判別するのは、所持者の『匂い』や『その雰囲気』などだと」

 「つまり、どういうことだい?」

 

 「コンドルは、前任のボスを殺害し……『食べた』のではないでしょうか?」

 「……!ッ」

 「そんな……」

 「なんてこと……」

 

 「確かに……

 人の血や肉を食べれば、その人の『匂い』や『雰囲気』を再現することはできそうな気はする……想像したくもないけどね」

 「だとしたらこのコンドルという男、とんでもない狂気をもった人間ですね……」

 

 

 「憶測は済んだのかな?

 まあ、どんな想像をしようが勝手だが、実際にこの『死神のカード』の所持者に、

 私がなっているのは事実だ」

 「こいつが狂った思考の持ち主だというのはわかったが、本当に死なない『不死の体』なんてものが存在するのか……?」

 

 「私は、この『死神のカード』を所持したことにより、『死』を克服した……

『死』を超越したもの、『ビヨンド・ザ・デス』と呼んでくれ給え」

 「『ビヨンド・ザ・デス』……」

 

 俺は改めてコンドルの前に対峙し、気合いを入れる。

 「『絶対に死なない人間』なんてこの世に存在しない……俺がそれを証明してやる!」

 

 

 俺の前に魔法陣が展開……『炎』『風』『光』『光』『光』

 「あまねく光よ 我と共に 集まり 重なり 束ねよ

 その光で悪しき者を祓い 正しき者を照らせ 光弾よ収束せよ

 サマンサル・クラジミール・アタナシオン・グルド

 収束属性 五芒星魔術ペンタグラム、『ヴァーミリオンノヴァ』!」

 

 何百という光弾が俺の前で収束し、巨大な光線となってコンドルに照射される!

 キュウゥゥン……バシューーーー!!

 「だびしぃっ!」

 巨大な光線をまともに受けて、コンドルは吹き飛んだ。

 

 ズドドドドド……

 光線を放った跡は、熱により地面が燃えてえぐれている。

 「凄い……あのコンドルが全く抵抗もできず……」

 「いや……仕留めきれなかった」

 

 コンドルがいた場所には、体は吹き飛んだが、四肢と頭が残っていた。

 まるで昔見た『合体するロボット』のように、繋がり、再生していく……

 「そんな……あの状態から……?」

 

 「フ、フハハハ……いいね、今も一度『死んだ』よ。

 死んでしまえばたとえ『超回復魔蟲』でも、回復はしてくれなかっただろう……

 私のこの『死神のカード』の能力と、『超回復魔蟲』の相性は最高にいいらしい」

 

 くそっ……『不死』と『再生』のコンボがここまでとは……

 

 

 「ここでお前たちに問題だ、『最強』とは何だと思う?」

 「『最強』……だと?」

 

 「力の強いもの?魔力の高い者?だが相手を倒せないのなら意味がない、そうだろう?」

 「何が言いたい?」

 「答えを教えてやろう……『最強』とは、『死なない者』だ。

 どんなに凄まじい攻撃を受けたとしても、死にさえしなければ、負けることは無い……負けない者が『最強』なのだから」

 ……これが『悪の哲学』ってやつなのか?俺にはよく理解できない。

 

 「私の名は『死を超越せし者ビヨンド・ザ・デス』……『最強』とは私のことだ、フハハハハハ!」

 

 

 たまらずマキアが俺に提案してきた。

 「こうなったらもうタイマン勝負だなんて言っていられません、

 禁呪の石化魔法『フェノメノン』や、メメの『メデゥーサ・アイ』で石にしてしまえば……」

 

 「いや、『フェノメノン』は徐々に石化していく魔法、完全に石化する前に自害して死ねば復活できる……

 『メデゥーサ・アイ』は『石化』じゃなく『風化』だ、その時点で死亡が確定してしまい、復活する可能性がある」

 

 「そんな……では『ジャッジメントドラゴン』の『百年牢獄プリズンオブセンチュリー』では?」

 「おそらく、封印される前に『次元刃ジゲンジン』で脱出可能だろう……

 スミレの『地獄巡り』も破ったぐらいだからな」

 

 「それではもう、打つ手が……」

 「いや、ある……『超回復魔蟲』でも修復できないくらいに完全に消滅させるか、

 回復速度を上回るほどの攻撃を与え続けるか……」

 

 「ですがマスター、その体ではもう……」

 「いや、俺がやらなければ、あいつはこれからも人を殺し続ける……

 しかも、真っ先にその対象になるのはお前たち『異世界あいどる24』だ」

 

 たとえ俺が『理性の無いバケモノ』になったとしても、きっとメンバーが何とかしてくれる!

 「マキアは俺を『信頼』してくれた、次は俺がメンバーを『信頼』する番だ!」

 

 俺の前に魔法陣が展開……『炎』『水』『風』『地』『光』『闇』

 「スー・シュー・ゴウ・レイ・ファシオン

 炎神 水神 風神 地神 光と闇の王をいただきて すべての者に安息と死を……

 六極炎属性 六芒星魔術ヘキサグラム、『ヘキサゴンフレア』!」

 

 「マスターの最強魔法!みんな『対魔力結界』を!」

 ズガガガガガガガガァァ!

 「キャアーー」

 

 ドクンッ!

 「ガハッ……ハァハァ」

 煙はまだ晴れず、コンドルは確認できない。

 

 俺の前に魔法陣が展開……『炎』『水』『風』『地』

 「アルガン・ヴェナ・オー・ドラエル

 炎の摩擦 水の渦 地の振動 風の波動

 我が前に下りてその力を示せ 我が怒りを糧とし 汝の敵を焼き尽くせ!」

 振り上げた俺の両手には、巨大な火球が一つずつ……

 

 「こいつが今の俺の全力だーーーー!

 極炎属性クアトログラム 『デュアル・ギガンティックフレア』!」

 

 「なんとーー!?」

 「そんな、クアトログラムを『ダブルキャスト』で!?」

 「威力だけなら、ヘキサグラムを超えるぞ!」

 

 ズッドオオオオオオオオ!!

 

 「キャーーー」

 煙が立ちのぼり、まだ何も見えないが、二つのギガンティックフレアが

 コンドルのいた場所に直撃する!

 ドドドドドドド……

 凄まじい爆音とともに、コンドルのいた場所は焼け野原に。

 

 何か小さい欠片のようなものが、うねうねと動いている……

 欠片は動きながら一か所に集まり、徐々に形を成していく……

 まるで粘土で人間を作るがごとく、

 スライムが人間に変身するがごとく、

 その欠片は『コンドル』になった。

 

 「素晴らしい、素晴らしいぞギガンティックマスター……

 お前のことではない、私のこの『体』だ……

 今の攻撃で私の体は、そのほとんどが熱で焼け、数センチメートルの破片にまで粉々になった…… しかし復活した!フハハハハハ」

 「あれは、本当に『コンドル』なのか……?」

 

 「これで私は『最強』、いや『最凶』!……まさに『無敵』!私を殺せるものは存在しない!ハーハハハハ!」

 「あれでダメなんて……もう私たちでも、どうしようも、ない……?」

 「く、くそっ……」

 

 ドクンッ!

 「うぐぅっ!」

 俺は『転移病』の痛みで、その場に倒れてしまった……

 刻印は体中に広がり、コンドルと同じように俺の頬にも刻印が侵食している……その色もオレンジ色を超えてほとんど赤色だ。

 

 「マスターーー!」

 「待って、マキア!」

 「お願い行かせてカレン、もうマスターは……」

 「まだよ……マスターのあの目、マスターはまだ諦めていないわ!」

 

 

 俺は小刻みに震えながらも、ゆっくり、立ち上がる……

 無理をしたので体中痛みが走る、体のいたるところから血が流れている。

 魔力が暴走寸前で、俺の体中の穴から今にも吹き出しそうだ。

 

 「その状態でもまだ戦おうとするか……大した精神力だ。

 しかし、もう『転移病』最終段階までほんの少し、お前はもう終わりだ」

 「……」

 俺は黙ってコンドルの話を聞く。

 

 「お前が『転移病』になれば、最高の『理性の無いバケモノ』になる……

 そうだ、そうしたら組織に入るといい、一緒に永遠に殺しを楽しもうではないか!

 私とお前で、最凶の暗殺組織の誕生だ!ハーハハハハ」

 

 「……」

 

 俺は目を閉じ、空を見上げる。

 「俺は……」

 目を開けて、昔を思い出す……

 「俺は現実世界ではしょうもない人生を送っていた……

 仕事も遊びも半端で無気力だったし、世界が平和になればいいと思いながらも、何もしていなかった。

 でも異世界に来て、メンバーに出会って、俺は変わった、いや『変われた』」

 頭の中には、メンバーと出会った時の思い出がリフレインされる……

 

 「俺は変われる『きっかけ』が欲しかったんだ……

 メンバーが、俺に『変われるきっかけ』をくれたんだ」

 

 

 「わかりました、これからはマスターとお呼びいたします」

 「マスター……美味しいです。こんなに美味しいもの生まれて初めて食べました」

 「本当ですか、嬉しいです。えへへ」

 

 「せめてこのカラダでご奉仕をしようと……」(小声)

 

 (このひとなら、私を許すと言ってくれたマスターなら……『信じられる』!)

 

 「犯人さがしはこの『名探偵アンジュ』にお任せあれぇ」

 

 「マスター、オルタナティブドアを開けておいてください」

 

 「私は不器用で、鍛冶が全くできないんです。なんでドワーフに生まれたのか……」

 

 「だって、男性を誘惑するとかそんなの……キャ、恥ずかしい!」

 

 「アドバンスドアーツ、『ハウリングヴォイス』ニャーー!」

 

 「オレは、まだこれからも……お前の親友で、いいのか……?」

 

 「キャー!私のお尻、触らないでーー!

 

 「私も奴隷という地獄から復活した『りさいくる』だから!」

 

 「ハーミットさん、私にはアナタが持っていなくて、私が持っているものがあります……それは『ギガンティックマスター』です」

 

 「どきません、私はマスターが奴隷になるのを見るのは嫌です!」

 

 「私に任せておいてください!あのトカゲさんギッタンギッタンにして、

 尻尾をちょん切って丸焼きにして食ってやりますよ!」

 

 「ボクは……信じていいのですか、王の言葉を。ボクは……目指していいんですか、双林寺活殺拳の会得を」

 

 「海で暴れ、海を汚すアナタに、海は怒っています……私も『激おこぷんぷん丸』ですっ!!」

 

 「私のクラスは『投擲士』。私が手に掴んだものは、なんでも投げることができます」

 

 「マスター、ちょっと私ここで研究させてください!」

 

 「さあ、では行きますよ……『砂に代わってデコピン』よ!」

 

 「魔獣を道具のように扱うこんな人に、私は絶対に負けんとよ!」

 

 「……恋する乙女、舐めんな!!」

 

 「マスター、その『妄想力』頂きました!変身!」

 

 「(この人がそばにいてくれれば、私はずっと幸せかも……)否!?……否ー!」

 

 「マスター、天気を変更したいときはいつでも私に言ってくださいね」

 

 「この『真名マナ』を他人に知られると、その者に逆らえなくなるのです」

 

 「いつも私の事を子ども扱いして……私も困っていたんです」

 

 「レゾナンスアーツ、『親子の絆アターーーック』!」

 

 「次は猫ちゃんの目をしたアイマスクがいいのじゃ」

 

 「師匠……私は、今、ここで、アナタを超えます」

 

 「私は『異世界あいどる24』ファースト筆頭エースのマキア……

 『アイドルなめんな!』」

 

 

 「……だから俺は、メンバーに嘘はつかないし、約束は必ず守る」

 俺は視線をコンドルに向ける、拳に力を入れる。

 

 「俺は、メンバーに『必ず帰る』と約束した……約束は必ず守る!

 これが俺の、たった一つの、俺の中にある『誇り《プライド》』だ!!」

 はらは決まった、後はやるだけだ!

 

 

 こっから先、俺はまた記憶が曖昧でよく覚えていない……

 なので俺とマキアやミユキなど、色んな人の総合した話になる。

 

 

 「うおおおおおおおおお!」

 「怒り……『怒り百二十パーセント』だああああ!」

 ズアアアアアアア!

 大地が震え、まきあがる煙……

 

 煙の中から俺の手だけが伸び、コンドルの胸に拳が当たる。

 「トンッ……」

 「?」

 「『インプロージョンブロウ』……」

 

 拳が離れ、煙が晴れる……

 「今さらこの程度の打撃で、私を殺すことができるとでも……うっ」

 コンドルの様子がおかしい。

 腹をおさえ、体中から煙が上がっている。

 「ゴ、ゴバァッ!」

 ドサッ

 コンドルは体中の穴から炎を吹き出し、その場に倒れた。

 

 

 「『インプロージョンブロウ』の熱伝導率、破壊伝導率は百パーセント……

 たとえ防御しても、体の内側から燃やし尽くす」

 

 ピクッ……

 倒れているコンドルの指が動く。

 ギュルギュルギュルッ!

 コンドルが立ち上がる……

 「フ、フフフ……い、今のも、良かったぞ……また一度死んだ」

 ここから先は時間との勝負、一気に畳み掛ける!

 

 「疾風怒濤 汝風の如く舞い 風の如く斬る その身触れること能わず

 風属性アナグラム、『エアリアルエンチャント』!」

 

 「疾風迅雷 電光石火 風林火山 汝に風の力を 浮かせ 滑空させよ

 滑空属性ハイアナグラム、『エア・グラインド』!」

 

 俺は速度アップのバフと、地上を滑空して走ることができる滑空魔法を、自分にかけた。

 

 「アドバンスドアーツ、『次元連断ジゲンレンダン』!」

 コンドルが手刀を激しく振る。

 目には見えないが、無数の『次元刃』を飛ばしている!

 俺は見えない『次元刃』を、地上を滑空しながら走って避ける。

 ザザザザザアアアーー!

 

 俺が避けたあとから、後ろにあったいくつもの岩や建物が真っ二つになっていく。

 ズズン……ズズン……ドドドド……

 

 俺の前に魔法陣が展開……『水』『水』『地』『地』『地』

 「天届く塔 その頂上で天を仰ぐもの 神の罰を受けてなお 天に挑戦するものに 賞賛と賛美を

 レコン・アーク・ドレイスラ・カーライン・ソレルド・エーマ

 「凄い……動きながらの詠唱は、相当な集中力を要するのに……」

 

 「巨塔属性 五芒星魔術ペンタグラム、『バベル』!」

 

 「あれは、『尖塔属性 クアトログラム オベリスク』の上位魔法!?」

 ドンッドンッドンッドンッ!!

 コンドルの足元から、巨大な『塔』が、何本も屹立きつりつする!

 「うおおおおおお!?」

 『巨塔』の一つが、コンドルを上空高くにかち上げる!

 

 俺の前に魔法陣が展開……『地』『地』『地』『闇』『闇』『闇』

 「セイ・タルス・クエト・ジータ・アースクレート・ヴァイアロン・ゼスタ

 無限の宇宙より 重力の塊を召喚せよ 我が敵を粉砕せよ 汝が敵を圧し潰せ

 我に 世界を更地にする力を!

 重力球属性 六芒星魔術ヘキサグラム、『グラビトンクラスター』!」

 ズドドドドドドォォッ!

 「ぱべるがっ!!」

 いくつもの巨大な『重力球』が、今度はコンドルを地面に叩きつけ、圧し潰す!

 巨大なクレーターがいくつもでき、煙を上げる……

 その中から色んな箇所が欠損したコンドルが歩いてくる。

 両腕は無く、腹と肩口と頭が削れている……

 ギュルギュルギュル……

 

 「フフフ、ハハハハー

 私は死んでいないぞぉーーー!ハーハハハハ!」

 

 「そんな……あれでも……?」

 

 俺の前に魔法陣が展開……『風』『地』『光』『闇』『闇』

 「おっと、そう何度も詠唱を唱えさせはせん!」

 

 コンドルは両手を頭の上で合わせ、そのまま振り下ろす。

 「アドバンスドアーツ、『大次元閃ダイジゲンセン』!」

 「マスターーーーー!」

 

 「アドバンスドアーツ、『うつせみ』!」

 カレンが『うつせみ』で俺と入れ替わる!

 「カレンーーーー!」

 マキアが叫ぶ、俺は構わずそのまま詠唱を続ける……

 

 「圧力 圧迫 圧縮 見えざる力携えし者よ その手で千を一に 万を零にせよ

 リーヌ・ファン・ライスト・プリクティーレ・ターンマクス

 圧縮属性 五芒星魔術ペンタグラム、『ギガ・コンプレス』!」

 俺は自分の手を目の前で合わせる。

 するとコンドルの体も、見えない手のようなもので圧縮されていく。

 「はぶしゅっ!」

 

 「くっ……カレンは?」

 「私は大丈夫です……」

 カレンがメンバーの影の中から出てきた。

 「『影足えいそく』か……よかった」

 

 俺はそのまま、両手に力を入れる。

 「はあああああ……」

 コンドルもさらに圧縮さていく……

 「が、があああああ……」

 バチュンッ!

 「ひぃっ!」

 

 コンドルは見えない手で圧縮され、空中でバラバラになって地面に転がった……

 ドクンッ!

 「がああ……ハァハァハァ……」

 俺はその場で膝をつく。

 「マスター!」

 みんなが心配そうに俺を見て、駆け寄ってこようとしている……

 俺はそれを止める。

 

 ギュルギュルギュル……

 バラバラになった体は、一か所に集まり、コンドルになっていく。

 「わ、私も無事だよ……フフハハハ、お前はもう限界、『諦めが肝心』という言葉もあるが?」

 

 「……次が最後だ、次に今の俺の全てを込める」

 目が霞んで頭痛がする……次で俺はきっと、『転移病』で『理性の無いないバケモノ』になるだろう……

 「メンバーには絶対に手出しさせねぇ!たとえこの身と引き換えにしても、お前は、俺が倒す!!」

 

 「おおおおおおおおおおおおおおお!!」

 俺は最後の力を振り絞る!

 俺の前に魔法陣が展開……『炎』『水』『風』『地』『光』『闇』……

 「スー・シュー・ゴウ・レイ・ファシオン

 炎神 水神 風神 地神 光と闇の王をいただきて すべての者に安息と死を……

 六極炎属性 六芒星魔術ヘキサグラム、『デュアル・ヘキサゴンフレア』!」

 

 俺は数十メートル級の巨大な火球を二つ、コンドルに叩きつける!

 「ヘキサグラムをダブルキャストで!?」

 「図書館島が沈んでしまうよ!」

 

 「うおおおおおおおおお!」

 ズアアアアッ……

 「たぶろばッ!」

 ガガガガガガガガガッ!!

 

 「『アマノイワト・龍』!」

 カスミの『広範囲防御』が展開、メンバーを守る。

 他のメンバーも、各々『防御結界』を張る。

 ドガガガガガガガッ!!

 「キャアーーーーーー」

 防御していても、凄まじい衝撃がメンバー達に襲い掛かる!

 

 轟音が鳴りやみ、煙が少しずつ晴れていく……

 「マスター!マスターー!」

 コンドルがいた場所は、巨大なクレーターが二つ、重なるようにあいていた。

 ゆうに図書館島の三分の一を削っている……

 カスミの『アマノイワト・龍』がなければ、被害はもっと拡散していただろう。

 コンドルの体は見当たらない……

 

 俺の体は、転移病の刻印が体全体に侵食し、色も赤色に……

 意識もなく、その場に力なく倒れた。

 「マスターーーーー」

 メンバー達が俺に駆け寄ってくる……その時

 

 「うがああああああ!」

 突然俺が起き上がり、咆哮を上げる!

 意識は失ったまま……

 「マスター、そんな、まさか……」

 そう、この症状は『転移病』の最終段階、理性を失い『破壊と殺戮のバケモノ』に……

 

 「そんな……マスターが、『理性の無いバケモノ』に……一体どうすれば……」

 

 

 ☆今回の成果

 

  カスミ 一人レゾナンスアーツ 『アマノイワト・龍』

  俺 極炎属性クアトログラム 『デュアル・ギガンティックフレア』

  俺 収束属性ヘキサグラム 『ヴァーミリオンノヴァ』

  俺 アドバンスドアーツ 『インプロージョンブロウ』

  俺 滑空属性ハイアナグラム 『エア・グラインド』

  俺 巨塔属性ペンタグラム 『バベル』

  俺 重力球属性ヘキサグラム 『グラビトンクラスター』

  俺 圧縮属性ペンタグラム 『ギガ・コンプレス』

  俺 六極炎属性ヘキサグラム 『デュアル・ヘキサゴンフレア』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る