暗殺組織編

第37話マリアージュ

 アナタはアイドルに『助けてもらった』ことがありますか?……俺はある。

 

 「マスター、全員集まりました」

 「よし、『オルタナティブドア』で直接サザバードに行く、みんな俺に続け!」

 「はい」

 俺たちは急いで『オルタナティブドア』をくぐる……

 オレの頭には、最悪の状況も浮かんだ……図書館島全滅……館長……

 

 扉をくぐり終え、周りを見渡す。

 「あれ?何も変わってない……いつも通り?」

 

 目の前には椅子に座って、お茶を飲みながら談笑していた館長がいた。

 「お?、ギガンティックマスターじゃないか、久しぶりだねぇ元気だったかい?」

 「いやいやいや、なんで優雅にお茶なんか飲んでるの?」

 「ん?アンタも飲みたいのかい?」

 

 「いや、そうじゃなくて、暗殺組織の襲撃を受けているって聞いて……」

 「ああ、受けているよ。数分前にも暗殺組織の構成員たちが襲ってきたよ」

 「えっ?じゃあ館長がその構成員たちをやっつけたってこと?」

 

 「いや、違うよ。

 アンタが置いていってくれた『でーぶいでー』のおかげで、時間を稼ぐことができたよ」

 「でーぶいでー?」

 

 その時、茂みの向こうから声が聞こえてきた……

 「よーし、そろそろ魔力も切れるころだろう、大勢でかかれば召喚する前に倒せるはずだ」

 「このままだと、オレ達がボスに殺されちまう……気合い入れていくぞ」

 

 

 「どうやら暗殺組織の構成員たちが、襲ってくる気配だぞ」

 「丁度いい、『でーぶいでー』を使って脅かしてみようか」

 そう言うと館長は大陸大図書館の前に行き、装置を準備する。

 

 「すいっちおん!」

 カチッ

 

 「ギャオオオオオ!」

 「これは?怪獣映画のDVD?」

 俺が置いていった『プロジェクションマッピング』を使って、図書館の壁をスクリーンにして、DVDを流し始めた!

 

 「うおー、また出たー巨大な召喚獣だーー」

 「なるほど、この怪獣映画を見て、巨大な召喚獣と勘違いして、勝手に警戒してくれたってわけか。こういう使い方もできるとは……」

 目からウロコとはこのこと。

 

 

 「『鏡魔法』で他の島の長にも声をかけておいた……一日たったし、もうじき駆けつけてくれるだろう」

 

 「館長、無事マッスルかー?」

 「おお、『筋肉団長』、待っていたよ」

 久しぶりに会った『筋肉団長』は、キチンと元の筋肉モリモリの状態に戻っていた。

 「団長、語尾もちゃんと『マッスル』に戻ったんだな……よかった」

 

 「ミーは悟ってしまったのです、『温泉』や『サウナ』、『ビール』などのご褒美を先に頂いてしまったからいけなかったのだと……

 辛い筋トレをこなし、そのご褒美として頂けば、こんなに幸せなことは無いのだと」

 

 なんか当たり前のことを、さも哲学的みたいに言ってるけど……まいいか。

 

 「館長無事ガウか?」

 「館長、応援にきたのだが」

 「館長生きてるかい?」

 「なんだ、無事なのかい」

 他の長たちも駆けつけてきた。

 魔獣島の酋長や、砂漠の民の島のオアシス長、魔占術の島の占術長、呪術の島の呪術長まで。

 

 「ああ、アンタたちが来てくれるまで、何とか時間を稼ぐことができたよ」

 七長老たち以外にも、色んな島から応援に来てくれている。

 

 ぞわっ……

 「なんだ、この寒気みたいな気配……これは、まさか……」

 構成員たちの後ろから、見たことのある二つの影……

 長髪に、左の頬に赤いタトゥー……

 「あいつ……暗殺組織デスサイズのボス、『コンドル』……」

 横には秘書も立っている。

 

 コンドルは図書館島を見渡し、不思議そうな顔で遠くを見つめている。

 「とっくに全滅させていると思っていた、

 まさか一日も耐えるとは……意外だったな」

 

 「……コンドル!」

 「お前も来ていたか、ギガンティックマスター……様子を見に来て正解だったな」

 

 「今度は何しに来たんだ?」

 「決まっているだろう……?

 我々『暗殺組織デスサイズ』のモットーは『絶対・即殺』……ターゲットに指定したお前達を、このままにしておくにはいかないのさ……組織の信用に係わるからな」

 

 「そんなことのために……サザバードを襲撃して、俺たちをおびき出したのか!?」

 「その通り……まあお前たちの悲嘆した姿を見たかったというのもあるがな」

 

 コンドルは、構成員たちに指令を下す。

 「お前達、臆することは無い、あれはただの『幻』だ。

 その証拠に、今まで一度として攻撃されたことは無いだろう?」

 

 「そ、そうなんですか?ボスが言うのなら……くそっ、よくも騙しやがったな」

 「野郎ども、行くぞ!」

 「おおー」

 

 あの野郎、一目で見抜きやがった……

 「あー、さすがにバレたみたいだねぇ」

 「よーし、俺たちが相手になって……」

 「ちょっと待ってくれ」

 「?」

 

 「せっかく『七長老』が揃ったんだ、サザバードのことはサザバードの民に任せてくれないかい」

 「館長……大丈夫なのか?」

 「せっかくギガンティックマスターのおかげで平和になったのに、暗殺組織なんかに壊されてたまるか」

 「オアシス長……」

 「ヤバくなったら助けておくれよ」

 「モチロンだ、館長」

 

 

 「そーれお前達、ミーがお相手してあげましょう!」

 「テメェみたいなゴリマッチョに、やられてたまるか、やっちまえ!」

 団長……そういえば団長の『ビルド魔法』って、見たことないや。

 

 「まずはバフをかけるとしよう……

 『エアリアルエンチャント!』

 『ブレイズエンチャント!』

 『アースエンチャント!』

 『オーラエンチャント!』」

 

 スゲェ!四つのエンチャントを同時にかけてる!あんなの俺にもできないよ。

 「さあ行きますよー、ビルド魔法『マッスルシフト・上腕二頭筋』!」

 

 団長の体中の筋肉がしぼんで、右腕だけが異様に大きくなった!

 「ミーの右腕は、今、世界イチーーーー!」

 そう言いながら、でっかい右手を構成員たちの上に振り下ろす!

 「うわああああ!」

 ズガアアアン!

 

 「よくもやりやがったな、このゴリラ野郎!」

 別の構成員が、後ろから攻撃してきた!

 「団長!あぶなっ……」

 「ビルド魔法『マッスルシフト・広背筋』!」

 ガキィィーン!

 団長の背中を斬ったはずの剣が……折れちゃった!

 「今、ミーの背中は、世界イチでーす」

 キラリン!

 

 「ビルド魔法『マッスルシフト・大腿筋』!」

 今度は右足が大きくなった!

 「アナタ達はお仕置きです、食らいなさい、『世界イチ大腿筋キーーック』!」

 ドガガガガ!

 「ぎゃああああ」

 

 ビルド魔法スゲェ……

 

 

 「あのヨボヨボの犬っころ、弱そうだぞ、やっちまえ!」

 魔獣島の酋長が、構成員たちに狙われてる!

 

 「ビースト魔法、『ビースト・トランス』!」

 バキバキバキ……

 「アオオォォーーン!」

 ええ!?酋長がでっかい魔獣になっちゃった!?

 

 「ビーストクロー!」

 「グハッ」

 「ビーストブレス!」

 「ぎゃああああ」

 

 凄いスピードであっという間に倒しちゃった。

 酋長、こんなに強かったのね……

 

 ……ってかこれ、二人とも魔法じゃなくて物理攻撃なんじゃあ……

 まあ、細かいことはいいか。

 

 

 「全員で畳み掛けろ!」

 構成員たちが一斉に襲ってきた!オアシス長が前に出る。

 「『絶対防御鉄壁』!」

 ガキーンガキーン!

 おおー、カスミがよく使う技、オアシス長も使えるのか、しかも三枚同時。

 

 「後ろがガラ空きだぜ!」

 まずい、オアシス長!

 スカッ!

 「なにぃ!?これは、『ファントムシフト』か!?」

 おお、オアシス長、やるぅ!

 

 「私の得意技、『ファントムシフト』……砂漠の民の『ファントムシフト』は一味違うぞ!」

 シュシュシュン!

 ええ!?オアシス長が十人に増えた!?まるで『分身の術』じゃん!?

 「え!?ど、どれが攻撃してくるのかわからない……」

 

 「砂の王に進言する 顕現せよ 地上を脅かす者どもを蹴散らす力となれ 砂属性ハイアナグラム『デザートストーム』!」

 ドバアアアーー!

 「ぐわああああ」

 

 恐るべし、オアシス長……

 

 

 「エームピー♪エームピー♪おーおーマジックポイントー♪

 い~ずみのよ~にわ~きあがれ~♪エームピー」

 

 「な、なんだこの歌?」

 「この歌は……音の民の『MP回復の歌』です!味方全員のMPが徐々に回復していきます」

 そうか、マキアはこの歌聞いたことがあるのか。

 「さすがは音の民の島の学長だ」

 

 「その耳障りな歌を消してやるぜ!」

 学長の後ろに構成員が!

 「学長、危ない!」

 「アドバンスドアーツ、『音の壁』!

 ワーーーーーーーーー!」

 ガキーーン!

 「な、なんだ?見えない壁が……」

 

 「音の民の技~舐めないでくださいね~♪

 続けていきますよ~♪、アドバンスドアーツ『デスヴォイス』!

 ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ーーー!」

 もの凄い声量の『がなり声』……これは凄い。

 攻撃してきた構成員は、全員白目をむいて倒れている……

 

 音の民……後方支援だけじゃなくて、攻撃もいけるのか、スゲェな。

 

 

 「アタシは魔占術の島の『占術長』。

 手相、星占い、亀甲占いから風水まで、何でもござれだよ」

 「『魔占術』だと?ただの占いで、戦いなんてできるか!やっちまえ!」

 

 「『魔占術』とは、占いを戦闘用に発展させたものさ、普通の魔法とは一味違うよ」

 「くそっ、これでもくらえ!」

 構成員が弓矢を放ってきた!

 「占術長、危ない!」

 「大丈夫さ」

 シュン、シュン!

 

 「え?矢が、当たらない……?」

 「アタシはね、自分の手相をいじって、運をもの凄く良くすることができるのさ。 悪いけど、攻撃も、魔法も、もうアタシには当たらないよ」

 

 「それってもう無敵じゃん!?」

 「それがそうでもないんだよ、それ以外のことが悪くなっちまうのさ」

 「それ以外……?」

 「そう、アタシの場合、『お金』と『婚期』が遠のくのさ……」(泣)

 「あちゃー……」

 

 「アタシの八つ当たりに付き合ってもらうよ!『風水術・吉兆陣』!」

 

 「な、なんだ?何もないじゃないか……」

 「アタシがアンタたちを、そこの場所に誘いこんでいたのに気づかなかったかい?」

 「な、なに?」

 「その場所は風水的には『凶兆』の場所……アンタはもうすぐ、ひどい目に会うねぇ」

 「そんなことで騙されないぞ……ほうら見ろ、全然だいじょ……」

 

 その時、突然構成員たちが立っている場所が崩れた!

 ガラガラガラ……

 「うわあああああーー」

 

 「あーあ、死んでなきゃいいけどねぇ」

 これも魔法なのか……?恐ろしいんだけど。

 

 

 「くそっ、こいつら思ったよりもやるぞ……ボスのところまで一旦下がろう。

 って、なんだこの婆さん?邪魔だどけ!」

 「ヒッヒッヒ……そんなこと言っていいのかえ?

 ワシの呪いは恐ろしいぞえ……ゆけ、『呪霊騎士カースドナイト』!」

 「オオオオオオーン……」

 「なんだ!?この黒い騎士は……斬っても手ごたえがない」

 『呪術長』!?いつの間にそこに?まったく気配を感じなかった……

 

 「おぬし達にはこれをプレゼントしてやろう、『怨霊玉』!」

 ドンドンドンッ!

 「ぎゃあああああ」

 

 ……呪術長、やっぱり強ぇーな。

 

 

 「みなさん大丈夫ですか!」

 他の島の住民たちも駆けつけてくれた。

 

 「四季術、『サマーウェイブ』!」

 ザバアアアアン!

 「うわああああ」

 おお?『季節の魔法』の『夏の魔法』か?構成員が波にさらわれていく……

 

 

 「花言葉魔法、『アイリス』!」

 ボアアァッ!

 「アチッチチチ!」

 投げた花が、相手の足元で急に燃え出した……これは?

 

 「『アイリス』の花言葉は『燃える思い』です!」

 それで燃えたのね……他にもたくさんありそう。

 

 

 「ワタシニモテツダワセテクダサイ」

 うわっビックリした、なんでロボットがこんなところに?

 

 学長がロボットを見ながら話す。

 「彼は『機械の民』……

 機械の神である『機神帝ギギア』が、ロボットに命を与えた、立派な亜人種さ」

 命あるロボット……異世界スゲェー!

 

 「ミナサンヲ敵ノ攻撃カラマモリマス、保全魔法『セキュリティ』!」

 ガシャンガシャン!ビーーーー!

 なんかレーザー的なもので囲って、敵の攻撃を防いでくれてる。

 

 「イキマス、『機械語魔術マシンナリーロア』、『トランザクション』!」

 カアアアーー!

 いきなり光ったかと思ったら、構成員たちが可愛いモンスターの姿に!

 「な、なんじゃこりゃー?」

 

 「アナタタチノ『テクスチャー』ヲ変更シマシタ、モウ一生コノママトナリマス」

 「そ、そんな……うわああああ」

 構成員たちは走って逃げていった……

 

 「……ジツハワタシカラ離レルト、元ニ戻ッテシマウンデスケドネ、プププ」

 冗談に毒舌まで使えるとは……実は中に人間が入ってるんじゃないのか?

 

 

 「見たことも、聞いたこともない魔法がこんなにたくさん……『魔導連邦サザバード』、スゲェ」

 

 

 「雲合霧集 黄霧四塞 五里霧中 神秘なる霧よ 二度と抜け出せぬ 幻の中へ誘い給え 蜃気楼属性クアトログラム、『ミラージュ』!」

 パアアア……

 「うおっ、なんだこの霧は……俺はいったいどこに?」

 前にお話したことのある、霧の民!

 マコトの使った蜃気楼の魔法……これが本来の効果か。

 

 

 「ちくしょう、調子に乗るなよ!」

 構成員の前に魔法陣が展開……『炎』『地』『地』

 「赤き炎 我を中心に回り広がれ 爆ぜる火炎よ 消えない恐怖を敵に刻め 焼き払い 全てを焦土と化せ 焼夷属性ハイアナグラム『ナパームサークル』!」

 お?俺が前に使ったことのある、『焼夷属性魔法』だ!

 

 「鏡属性ハイアナグラム、『ミラーリフレクション』!」

 パキーーン!

 「うわああああ」

 相手の魔法を跳ね返した!

 「これが鏡の民の魔法か……初めて会った人だけど、いろいろお世話になってます」

 「?」

 

 

 「さあて、私もそろそろ活躍しないと、忘れられちまうねぇ」

 そう言いながら、図書館島の『館長』が、本を開く……

 

 「昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。

 おじいさんは芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯をしに出かけました」

 「えっ、それって……」

 ズズーン!

 空からでっかい鎌を持ったおじいさんっぽい魔物と、でっかい桶をもったおばあさんっぽい魔物が降ってきて、構成員たちを攻撃している!

 

 「桃太郎さん、桃太郎さん、お腰につけたきび団子、一つ私に下さいな」

 ズズーーーン!

 今度は犬っぽい魔獣と、サルっぽい魔獣と、キジっぽい魔獣が降ってきたーーー

 現実世界の絵本、『桃太郎』……異世界に『桃太郎』があるとは……

 あーでも、ここは現実世界の人間が作った『ゲームの世界』、まあアリっちゃアリなのか。

 

 「桃太郎とそのお供は、鬼が島で鬼を退治しましたとさ」

 ヒューーン、ズズーーン……

 「グオオオオオオオ!」

 「お、鬼だー!今度は鬼が来たぞーーー逃げろーーー!」

 空から降ってきた鬼は、でっかい金棒を振り回して、構成員たちを次々なぎ倒していく……

 読んだ本の内容を現実にする能力……でもなんか俺の知ってる『桃太郎』と少し違うーー?

 

 「グハッ……少し、張り切りすぎたかね」

 「桃太郎を読んで血を吐いた人、初めて見たよ……本の民スゲーな」

 今度叶えてほしいことが書いてある本、持ってこようかな……

 

 

 「なるほど……予想以上だな、さすがに構成員だけでは荷が重いか」

 コンドルが秘書風の女性に、目で合図を送る……

 

 「『七長老』の力はかなりのものだが、お前を倒すことができれば、

 その混乱に乗じて全滅させることは容易そうだな……」

 コンドルの秘書風の女性が、俺の後ろに回る……

 二人で挟み撃ちにするつもりらしい。

 

 「フッ……」

 コンドルが手刀を振り上げる……何かの攻撃か?

 俺は『対斬撃結界』を張る、すると……

 「危ない!」

 コンドルの秘書風の女性が、俺を抱えて横に飛ぶ!

 その刹那、俺の後ろにあった巨岩が真っ二つに!

 

 「今の技は、アドバンスドアーツ『次元刃ジゲンジン』……

 空間ごと相手を斬り裂くことのできる技です、どんな防御も無意味です、必ず避けてください」

 「そうだったのか、ありがとう助かったよ」

 

 「お前、いったい何をやって……」

 コンドルが、信じられないといった顔をしている。

 「彼女は俺の味方だ、彼女のおかげでお前の情報を得ることができた」

 

 「そんなバカな、その女は魔法と薬を使い、私の命令しか聞かないように支配しているはず……」

 

 「彼女はお前の側近じゃない」

 その女性が術を解くと、見覚えのある姿が……

 

 「彼女の名前は『カレン』……俺の『異世界あいどる24』のメンバーだ」

 「なんだと、そんなバカな……いつの間に」

 

 「彼女にはアドバンスドアーツ『模写』を使って、お前の秘書に擬態してもらっていた。数か月前からな」

 

 「数か月前からだと!?この私に気付かれることなく?」

 かなりびっくりしてる……それだけカレンの『擬態』が本物に酷似していたってことだな。

 「お前達『暗殺組織デスサイズ』が、サザバードを襲撃しているという情報も、

 彼女から得た」

 「バカな、その女はほとんどの時間、すっと一緒にいた……いったいどうやって情報をお前に流したのだ?」

 

 「せっかく使えるんだ、こういうものも利用しないとな」

 俺は懐から『携帯電話』を取り出す。

 「『携帯電話』……『SNS』か」

 このセリフ……ファルセイン城の時のヴァイガンみたいだ。

 

 

 「申し訳ありませんマスター、コンドルが魔界のカード『恋人ラヴァーズ』と『死神デス』を所持していることまでは突き止めたのですが、どういう能力を持っているかまでは……」

 「ああ、それだけで十分だ、ありがとうカレン」

 

 「私もここにおりますよ」

 「ハーミットか」

 

 ファルセイン攻城戦のあと、『ハーミット』ことアリソンは、

 すっかりカレンに心酔し、配下としてカレンのサポートをやっている。

 

 「ちなみに、本物の秘書は救出後、元に戻るための治療中です……

 昔の私の力を使えば、アナタの薬や魔法による支配の解除など、お手の物ですよ」

 「自慢にはならないけどな……」

 

 

 「フム……正直今のはこの私も驚いた。私の情報も、大分お前に流れているようだな……」

 「ああ、お前が『転移者』だってこともわかっている」

 

 「!ッ……暗殺組織のボスは、転移者だったのか!?」

 元暗殺組織のヒットマン、カズキも知らなかった情報だ……

 

 

 「そうか、そこまで……

 『アナライズ』を使えば一発で分かったのに……私はいつの間にかその女を完全に信用してしまっていたようだな。私もまだまだか」

 「このまま降参してくれると、助かるんだけどな」

 「降参?私が?フフフ、面白い冗談だ」

 こいつ、まだかなり余裕がありそうだな……

 

 

 「私にはまだ『奥の手』がある……でもその前に、面白い話をしよう」

 「面白い話……?」

 

 「お前達は、この『ギルギル』の、第一章のラスボスが何だか知っているか?」

 「ラスボス……?」

 

 「この『ギルギル』第一章のラスボスは、狂人的天才錬金術師『Dr.ナマズエ』」

 「『Dr.ナマズエ』……確かカイエル宮廷五獣士に『獣魔システム』を使ったやつ……」

 

 「彼は自身が開発した『擬人化システム』を使い、世界を征服する計画を立てた」

 「『擬人化システム』だって?なんだそれは?」

 

 「『擬人化システム』は、入力した言葉を、AI(エーアイ)が自動的に『擬人化』させることができる……

 彼は『擬人化システム』を使い、『災害』を擬人化する実験を行った」

 「『災害』を……『擬人化』……?」

 

 「人類にとって最悪の五人が誕生した……その名は『ハザードファイブ』。

 震災・雷撃・火災・暴風・水害を擬人化し、そのチカラで世界を征服するハズだった……しかし、実験は失敗、その五人には『魂』が存在しなかった」

 「魂の存在しない人間、それって……」

 

 「この世界で、魂が存在しない体があったらどうなるか……お前達ならわかるハズだ」

 「モンスター化……」

 「そう、この世界で魂の無い体は、魔粒子を際限なく取り込み、やがてモンスター化する……災害の力を持つハザードファイブも、その例にもれず全員モンスター化した」

 ゴクリ……

 俺は思わず冷や汗を流し、唾を飲み込んだ。

 

 

 「そしてモンスター化した『ハザードファイブ』は、それぞれ 震災獣ベヒーモス・雷撃獣ヌエ・火災獣ファイアドレイク・暴風獣ガルーダ・水害獣クラーケンとなり……『災害獣』と名付けられた」

 

 「クラーケン……!?」

 「そうだ、災害獣のうちの一体、水害獣クラーケンは、お前たちの元にいるようだな」

 「クラちゃんが、水害獣……」

 マリネもびっくりしてる。

 騎士国カイエルで、海賊たちと戦ったあのクラちゃんが、世界を征服するために作られた元人間で、しかも『災害獣』だったなんて……

 俺からしてもかなりの衝撃の事実だ。

 

 「残りの災害獣は、全て私が捕獲した……こういう時のためにな」

 「こういう時のため……?」

 

 

 「そして私の所持しているこのカード……

 魔界のカードである『恋人ラヴァーズのカード』……その能力は『融合』だ」

 「『融合』……?」

 

 「そう、人と何かを融合し、新たな生物を生み出す能力」

 「なん、だって?お前、まさか……」

 

 「さあ、私の『奥の手』を紹介しよう……」

 コンドルの後ろから、巨大な影が四体現れ、徐々に姿が見えてくる……

 「……ウソだろ……お前、レイブンか!?」

 

 巨大なベヒーモスの頭に、レイブンの上半身が融合している……

 

 「お前を仕留めそこなったオレは、罰としてこんな姿に……

 融合してしまった以上、もうオレは二度と元の姿には戻れない……

 全部お前のせいだギガンティックマスター、せめてお前を殺さないとオレの気が済まねぇ!」

 「レイブン……」

 

 「頼む、オレのために死んでくれギガンティックマスター!!」

 

 「お互いがお互いを必要とし、一つになる……

 私はこれを『結婚』と呼んでいる……どうだい、素晴らしい『マリアージュ』だろう?」

 コンドルが満足げに語る。

 

  「テメー……」

 俺は自分でもよく分からない怒りを感じながら、コンドルを睨みつける……

 

  「……この人でなしが!」

 

  「ありがとう、最高の誉め言葉だ」

 

 

 ☆今回の成果

  筋肉団長 『ビルド魔法・マッスルシフト』

  魔獣島の酋長 『ビースト魔法・ビースト・トランス』

  占術長 『魔占術』

  鏡の民 『ミラーリフレクション』

  花の民 『花言葉魔術(フラワーロア)』

  機械の民 『機械語魔術(マシンナリーロア)』

  館長 朗読『桃太郎』

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