第36話魔角族の王

 アナタはアイドルに『心配』されたことがありますか?……俺はある。

 

 「死ねニンゲン!エクイップメントアーツ『三重殺トリプルマーダー』!」

 「マス……」

 「!……ッ」

 

 ザシュッ!!

 

 正直『やられた』!……と思った、でも……

 「メルフィス!」

 

 俺の前に盾になるようにメルフィスが立ち、俺をかばってくれた。

 胸に魔族のダガーが刺さっている……

 「しまった……外した!?」

 

 「ストリングキャプチャー!」

 ジュンが襲ってきた魔族を、糸で捕まえてくれた!

 「うぐっ……おのれ……」

 

 「メルフィス、しっかりしろ!メルフィス!」

 「う……ワタクシとしたことが、し、しくじってしまいました……」

 「大丈夫か?今治療してやる」

 「無駄ですギガンティックマスター、このダガーは『三重殺のダガー』……

 一度刺されば取れず、回復も阻害されます……『悪喰』も、発動しないようです……そう、ですね?……魔角族皇子、シャルド様……」

 

 「魔角族の、皇子……?」

 「ニンゲンの貴様を殺せば、形勢を逆転できると思ったが……まさか『カイーナ級』の魔族ごときに邪魔されるとはな」

 「くっ、テメー……」

 

 「グフッ……ゴホッゴホッ……どうやらワタクシはここまでのようです。最後までお供できず、申し訳ございません……」

 

 「諦めるな……お前、裏で何か考えていたんだろ?こんなところで死んでいいのか!?」

 

 「!……やはり、気づいていましたか……ワタクシは『並列思考』持ち、『深層思考』では、別の事を考えていました……

 ギガンティックマスター、アナタにだけは、バレたくなかった……」

 「俺にだけは……?」

 

 「はい……魔族と人間のハーフであるワタクシが、人間に、アナタに惚れていたなど、知られたくなかった……ゴフッゴホッ……」

 「もういい、しゃべるなメルフィス」

 

 「いいえ、聞いてください……

 ワタクシは幼少のころ、あの『蝙蝠魔族』すらまともに見えるほど、クズな性格でした…… 毎日のように暴力に明け暮れ、相手を罠にはめ、罵り、蔑んでいました」

 「……」

 「しかしある日、家に戻ると、ワタクシに復讐しにきた魔族に、母親が殺されていました……唯一、ワタクシのことを理解してくれていた人だったのに……」

 「ひどい……」

 マキアや他のメンバーも、話を聞いている……

 

 「死ぬ間際に母親が言っていました……

『人の下に、下になって生きなさい……そうすれば、いつの日かアナタの事を分かってくれる人が現れます……』と」

 メルフィスの傷口の血が止まらない……

 

 「ワタクシは、この魔界を変えたくて、必死に知識を得ました。

 ですが、知識だけではダメなのです……

 この魔界を変えるためには、正しき心を持つ、圧倒的な力が必要なんです!」

 メルフィスは、血みどろの手で、俺の手を握り締める……

 

 「ギガンティックマスター、アナタなら、この魔界を変えることができる……

 アナタは絶対に、死んではいけないのです!

 グフッ、ゲホッゲホッ……」

 「メルフィス、しっかりしろ!」

 メルフィス、口からも血が……

 

 「お願いですギガンティックマスター、魔界を救ってください!

 ワタクシと、ワタクシの母が、愛した……この、魔界……を……」

 「メル……ッ」

 ガクッ……パアアア……

 魔族が死ぬと、その体はすぐに魔粒子となって消える……

 

 「これは……」

 メルフィスの左手だけが、なぜかその場に残っている。

 「メルフィスさんが言っていました、自分の左手が一番人間に近いのだと……」

 「メルフィス……」

 

 「フッ、フハハハ、やっと死んだのか?

 魔族は階級が下になるほどお喋りが長くなる……そいつはその典型だな」

 「くっ……アナタは……」

 「おお、殺せ殺せ!このまま生き恥を晒すくらいなら、ここで死んだほうがマシだ。だがオレが死んだくらいじゃ魔角族の勝利は揺るがないぞ、覚えておけ!」

 

 「待てマキア、いい」

 「し、しかし……」

 「ジュン、こいつの糸をほどいてくれ」

 「えっ」

 「誰か、ライカンスロープのララを泣き止ませてきてくれ」

 「マスター……」

 

 「おいお前、魔角族の皇子……確か『シャルド』って言ったな、俺とタイマンをはってもらおう」

 「なんだと……?たかが人間が?このオレ様と?

 魔脈が使えないのならいざ知らず、先ほどからのあの泣き声が消え、魔脈に魔力と精霊が集まってきている……

 この状態でこのオレ様と戦って、本気で勝てるとでも思っているのか?」

 

 「ああ、思っているよ」

 「フッ、なかなか笑わせてくれる……いいだろう、目にものを見せてくれる」

 

 「このタイマンでの『敗者』は、一つだけ『勝者』の言うことをきくことにしよう……俺が負ければ、このままこの軍を撤退してやってもいい」

 「なに?本当だな?」

 

 

 俺はその場でストレッチを始める……

 「メルフィス、まったくあいつはいいだけ俺たちをかき回しておいて、勝手に死んじまって、迷惑ったらないなー」

 「マスター……」

 

 「しかも俺に惚れていた?魔界を救ってくれ?

 自分でできないからって他人を頼るなんて、他力本願もいいとこだ」

 俺はストレッチを続ける……

 首を回し、肩を回し、腕を回し、足を伸ばす……

 

 「まあ、あいつも昔は相当なワルだったみたいだし、これも自業自得ってやつだな」

 「マスター、そんな……」

 「待って、ジュン」

 「マキアさん……?」

 

 「いつも十秒くらいで終わるストレッチを、もう二分以上している……

 マスターは現実世界の『アンガーマネジメント講座』で、怒りのコントロールを習得した。それは『大きな怒りをストレッチすることで抑える』という方法なの」

 「大きな怒りを、抑える……」

 

 「つまり、ストレッチの時間が長ければ長いほど、マスターは『怒っている』ことに。このストレッチの長さ、今マスターはかつてないほど怒っている……」

 「えっ、それって……」

 

 「みんなもっと下がって。カスミ、『アマノイワト』を出せる準備を!

 他の人はいつでも結界を張れるように」

 

 

 シュウウゥゥ……

 ゴゴゴゴゴ……

 「なんだ?地面が震えている……?」

 

 「準備できたぜ……さあ、やろうか」

 俺とシャルド、お互いに対峙する……

 「おおおおおおお」

 「はああああああ」

 

 シャルドの前に魔法陣が展開……『闇』『闇』『闇』『闇』

 「スーレイ・アブトゥル・ラーズ・クルス

 漆黒よ 暗黒よ 暗闇よ 常闇よ すべての闇よ 波のように荒れ狂え  闇属性クアトログラム、『ダークネスオーシャン』!」

 

 海の津波のように、うねりを伴った闇の魔力が押し寄せる!

 

 キュウゥゥン……

 「な、なに!?」

 「『対魔力結界』……お前の魔力は吸収させてもらった。

 まさかこんなもんじゃないよな?」

 

 「おのれ、舐めるなよ!」

 

 

 シャルドの前に魔法陣が展開……『風』『風』『地』『地』『闇』

 「天空に輝く 昏く 強き真円 それを貪るは 影の王

 逢魔が刻の始まりを告げるは 闇の鐘の音

 ヴァル・ベル・アシード・フルグレール・レーベン・ロア・キルド

 月蝕属性 五芒星魔術ペンタグラム、『エクリプス』!」

 

 天空に月が現れ、影に飲み込まれていき、真っ暗になったかと思うと、突然鐘の音が鳴り出す……

 

 俺の前に魔法陣が展開……『炎』『炎』『地』『地』『光』

 「原子炉溶融 原子崩壊励起 核分裂の力をもって 想像を絶する炎を 太陽のごとき爆炎をその手に!

 シン・ヴァレリアル・サンセルト・ジン・ガインゼル・パララシオン

 融解属性 五芒星魔術ペンタグラム、『メルトダウン』!」

 

 全てを融解する真っ赤な爆炎が、俺を中心に竜巻のように回転しながら上っていく!

 ドドドドドド……

 ズズズズズズ……

 

 「な、シャルド様のペンタグラムが、打ち消された!?なんて詠唱の速さだ……」

 魔角族の兵たちがざわつく……

 

 

 「くそっ、ならこれでどうだ!」

 シャルドの前に魔法陣が展開……『水』『水』『地』『地』『闇』『闇』

 「パラル・エル・ドゥーン・ゲイズ・ハリアルサイド・ズー・ヴァール

 深く 深く 深淵の底で眠るものよ 今こそ目覚めの時 その御手で掴みし者を 永遠の事象の彼方へ……

 深淵属性 六芒星魔術ヘキサグラム、『デプスゾーン』!」

 

「出たーー、シャルド様の最強魔法だーーー!

 シャルド様は魔界でも三本の指に入るほどの魔力の持ち主、しかも今は『魔脈』のおかげで、魔力もパワーアップしてる!この魔法を防ぐことなんて不可能だ」

 

 俺の前に魔法陣が展開……『炎』『水』『風』『地』『光』『光』

 「シアン・マセルダ・ローエル・ハイアロット・ヴークライン・ロゼ

 炎は地に 水は風に 風は水に 地は風に 光は闇に 物質の理を翻し 我に反物質の力と 消滅の力を

 対消滅属性 六芒星魔術ヘキサグラム、『アナイアレイション』!」

 

 パアアアア……

 俺の周りを光の壁が包み、広がっていく。

 光が深淵に触れると、光とともに粉々になり、消えていった……

 

 『対消滅』……

 素粒子とその反粒子である『反物質』とが合体して消滅すること。

 俺は魔法で『反物質』を作り、衝突させ、光属性以外の全ての属性を『消滅』させた。

 

 「なんだと!」

 「『魔脈』のおかげでパワーアップしているのは、お前だけじゃないんだよ!」

 「そんな……シャルド様の最強魔法が……」

 

 ドクンッ……

 「ぐっ……」

 俺の心臓が痛む……転移病の症状だ。

『魔脈』で魔力は枯渇しないはずなのに、さすがに大きい魔法は負担がデカいからか?

 

 「まだだ、まだオレは負けていない!」

 シャルドは右手を上げ、魔力を放出する。

 「来い!『ダークマタードラゴン』!」

 

 地面が割れ、真っ黒なドラゴンが三体現れた!

 「あいつを攻撃しろ!」

 真っ黒なドラゴンは回転しながら俺めがけて突撃してきた。

 「ギャオオオオオオオン」

 

 「セイ・タルス・クエト・ジータ・アースクレート・ヴァイアロン

 重轟場属性 五芒星魔術ペンタグラム、『ヘクト・グラビトン』!」

 

 ズドドドドドン!!

 雷を伴った巨大な重力球を、三体のダークマタードラゴンの上に叩きつけた!

 ダークマタードラゴンは地面にめり込み、一ミリも動くことができない。

 「ギ、ギャオ……オオ、オン……」

 

 

 「ダークマタードラゴン!?……くそっ」

 「どうした、もう終わりか?

 「うるさい!舐めるなと言っただろう!」

 

 シャルドの前に魔法陣が展開……『地』『地』『闇』『闇』『闇』

 「混沌より現れし影の王よ 命あるものと命なき者 その境界をなくせ この世のすべてを その影の中に呑み込め!

 ギャリア・ギャザリス・サイエンテッド・シーカー

 影召喚属性 禁呪 『キングオブシャドー』!」

 

 「うわあああシャルド様が『禁呪』を!全員退避ーー!」

 シャルドの影が大きくなり、その中から巨大で真っ黒な人型の『影の王』が出現した。

 

 「影の王『キングオブシャドー』は、一度召喚されると、術者であるオレの魔力が尽きるまで、自分の周りを『影の世界』に引きずり込んでしまう、とんでもない魔法だ!」

 

 「ルオオオオオオオ……」

 『キングオブシャドー』は自分の影を伸ばし、所かまわず影の世界へ引きずり込み始めた!

 「うわああああ、助けてくれーーー!」

 魔角族も、邪尾族も、建物も、何もかも影の中に呑み込んでいく……

 

 「ワーーッハッハッハ、オレ様を怒らせるからこうなるのだ!みんなみんな、影の世界に呑み込まれてしまえ!」

 「こんな危険な魔法まで使うとは、お前、救えないな」

 俺は一人、シャルドの方へ歩き出す。

 「マスター、危険です、戻って下さい!」

 

 「ワハハハハ、お前も影の世界に呑み込んで、この勝負はオレ様の勝利だ!」

 「そうはいかない……」

 俺は自分の懐から一枚のカードを取り出す。

 「そ、そのカードは……」

 

 「さあ、お前の出番だ、来い!『ジャッジメントドラゴン』!」

 俺の呼びかけに呼応して、空に巨大な穴が開く……

 「うおおおおおーー!やっとワシの出番じゃーーーーー!」

 巨大な穴から黒いドラゴンが出現!

 

 「ジャッジメントドラゴン、あの影の王を何とかしてくれ」

 「ワシに任せておくがいい……」

 

 『キングオブシャドー』と『ジャッジメントドラゴン』……二体の巨大な召喚されしものが、対峙する。

 「ルオオオオオ……」

 キングオブシャドーが自分の影を伸ばし、ジャッジメントドラゴンを飲み込もうとしている!

 「影の王……所詮おぬしは『影』、正義の光の前には無力じゃ」

 ガアアアーー……

 ジャッジメントドラゴンの体が光ると、キングオブシャドーの影は消えていく……

 「ル・ルオオオオ?」

 

 「まずは少しじっとしていてもらおうかのぉ……アドバンスドアーツ、『三年殺し』!」

 ズガアアア!

 「ルオオオオーン!?」

 地中から三本の柱が飛び出し、キングオブシャドーを串刺しに!

 動きを封じた!

 

 「フム、では……」

 ジャッジメントドラゴンはキングオブシャドーを見つめる……

 もしかして『アナライズ』しているのか?

 

 「なるほど……かなりの重罪じゃな、覚悟してもらおう」

 そう言うと、『影の王』の周りにたくさんの魔法陣が展開した。

 

 「『審判竜』の名において、判決を言い渡す……

 キングオブシャドー、おぬしは『禁錮百年の刑』とする。

 アドバンスドアーツ、『百年牢獄プリズンオブセンチュリー』!」

 

 キングオブシャドーの前に小さい球が現れたと思ったら、

 ドンドン大きくなり、キングオブシャドーを包み込んだ!

 「ルオ?ルオオオオ」

 「刑、執行」

 

 キングオブシャドーを包み込んだ球は、今度はキングオブシャドーごとそのままドンドン小さくなっていく!

 「ル・ルオオ?ル……ルオォ……」

 キュウゥゥゥ……シュン!

 キングオブシャドーごとドンドン球は小さくなっていき、そのまま点になり、消えた。

 

 「終了じゃ、今後百年間、この世界での召喚・実体化を禁ずる」

 「そんなバカな……影の王が……」

 

 「ウム、久しぶりにいい仕事ができた……ではさらばじゃーーーー」

 キュウゥゥン……

 ジャッジメントドラゴンは帰っていった。

 

 「ありえん……あまりの凶悪ぶりに、この魔界でも禁呪となった最悪の召喚魔法だぞ」

 「今のが『とっておき』か?ならそろそろ終わりにしよう」

 

 

 「おのれニンゲン……こんなにコケにされたのは生まれて初めてだ」

 「シャルド様?まさかあれを!?」

 「おおおおおお……『六の獄・暴帝カリギュラ』!」

 

 シャルドはの体は筋肉が倍以上に膨れ上がり、牙が生え、爪が伸び、黒い翼も生えた……まるで魔獣のようだ。

 アナライズすると、腕力や脚力がかなり上がっている、ライカの『クレイジートランス』みたいだ!

 

 「がああああ!ワイショーでヒヨワななニンゲンが……オオレにかなうとおもっておれるのか!」

 そう言いながらシャルドは、自分の周りにいる魔角族兵をも巻き込んで、暴れ出した。

 「なんだ?理性が飛んでるのか?ほとんど『バーサーカー』だな……」

 

 俺はバーストガントレットを構える。

 「くらえ、『デトネーションブロウ』!」

 ドンッ!

 

 「き、きがねぇなああああ!」

 ドガアッ!

 「ぐっ!」

 「マスター!」

 俺は『対打撃結界』で受ける。

 「大丈夫だ……こいつ、防御力もかなり上がっているな」

 

 俺は再度バーストガントレットを構えて、魔力を集中する……

 「おおおおおお、『エクスプロードブロウ』!」

 ズドガアアッ!

 「ぶろおおおおお!?」

 『エクスプロードブロウ』は単純に爆発力を底上げし、威力を倍増している。

 

 俺の『エクスプロードブロウ』は、シャルドの腕をぶち抜き、脇腹を貫通した。

 シャルドは吹き飛んで崖にぶつかり、そのまま岩の下敷きに。

 「がああああ!」

 岩の中からシャルドが出てきた……中々しぶとい。

 「二の獄・『悪喰』!」

 シャルドは自分の腕を食べて、悪喰で回復。

 

 「くそっくそっ!ニンゲン……」

 シャルドが殴り掛かってきた。

 「……念動魔法、『サイコキネシス』」

 「うおおおお?」

 シャルドは俺のサイコキネシスで、そのまま後ろの崖に叩きつけられた。

 「ガハッ」

 俺はそのままシャルドのところまで歩いていく……

 

 「オオオオオオオラララアアアアア!!」

 ドドドドド!

 「グホッ!グハアァッ!」

 『エクスプロードブロウ』のラッシュ!

 

 ドガァッ!

 「ガフッ」

 「あいつは、メルフィスは、魔界に必要な男だったのに……」

 

 ズドンッ!

 「ブベヘェッ!」

 「お前が……」

 

 ボゴォッ!

 「ガボボォッ」

 「お前が来なければ……」

 

 グシャアァ!

 「ギャフンッ!」

 「あいつは死なずに済んだのに!」

 

 俺の右手には、シャルドが持っていた『三重殺のダガー』が……

 ボロボロになったシャルドは、すでに『暴帝カリギュラ』は切れ、正気に戻っている……

 「……殺せ!生かしておけばオレは必ずお前に復讐しにくる、殺せ!」

 

 「お前のせいで、メルフィスは……お前のせいで!」

 俺は振り上げた『三重殺のダガー』を、シャルドめがけて振り下ろす!

 ……ッ!

 

 

 (お待ちくださいギガンティックマスター、彼を殺してはなりません)

 メルフィスの幻が、俺の右手を掴んで、俺の攻撃を止めた……

 「メルフィス……」

 (ギガンティックマスター、彼はこの戦いのキーとなる人です、怒りをお鎮め下さい)

 

 よく見ると、メルフィスの左手が、俺の右手に引っかかっていた、

 まるで本当に俺を止めたかのように……

 (今はワタクシ個人より、魔界と地上の事を優先して下さい)

 

 俺は空を見上げ、深く深呼吸をする。

 「スーーーハーーー」

 

 「どうした、早く殺せ!」

 「いいや、殺さない……あいつの遺言だからな」

 「遺言……?」

 「それより、最初の約束覚えているか?敗者は勝者の言うことを一つ聞く、というのを」

 「……覚えている」

 

 「じゃあ……」

 

 

 ◆邪尾族side

 

 邪尾族王と大臣は、密かに本隊をギガンティックマスターのすぐ後ろに待機させていた。

 

 「フハハハ、どうやらあのニンゲンが魔角族皇子のシャルドを倒したようだな」

 「双方ともかなりのダメージ……今ならこの本隊で、両軍とも殲滅できるでしょう」

 「よし、作戦通り行くぞ、皆の者、余に続け!」

 「おおおおー!」

 

 邪尾族王を先頭に、ドラゴンに乗った邪尾族兵たちは、

 ギガンティックマスターと吸血鬼族の軍の後方から侵攻する。

 

 「やつらの兵でまともに戦える者は二千程度、こちらは五千の本隊、『魔脈』さえ手に入れば、魔角族の戦力は半減する……勝利は見えた!『魔界王』の称号はすぐそこだ!」

 怒号を上げながら進軍する五千の邪尾族兵……吸血鬼族の兵の姿が見えた!

 

 邪尾族王は肺に空気をいっぱいに吸い込み、魔界中に響くがごとく、大声で叫ぶ。

 「余は邪尾族王なり!たった今、吸血鬼族とニンゲンとの同盟は破棄する!

 命が惜しいものは、今すぐこの場から立ち去るがいい!」

 

 すると魔脈の崖の上に、ギガンティックマスターが顔を出す。

 横にはなぜか、魔角族皇子のシャルドの姿も……

 「あれは魔角族皇子のシャルド……?生きているのか?」

 

 ギガンティックマスターが、マイクを持って叫ぶ。

 「奇遇だな邪尾族王、俺も同じことを考えていた!」

 

 「なにぃ!?」

 

 

 〇俺side

 

 「待っていたぜ……だいたいメルフィスの作戦通りだ」

 「本当にお前が言った通りになったな……」

 横にいて感心しているのはシャルドだ。

 

 「『策士、策におぼれる』とはまさにこのこと……さあ、ケリをつけようか」

 俺はカラオケのマイクを持って邪尾族兵たちに叫ぶ。

 

 「吸血鬼族と人間の俺たちは、邪尾族との同盟を破棄、そして新たに今ここに、魔角族との同盟を宣言する」

 「な、なんだと!?」

 邪尾族王のデカい声が、ここまで聞こえる。

 

 「すでに魔角族兵も、吸血鬼族の兵も、体力は回復済みだ。

 『魔脈』があるから魔力も尽きることは無い……さあ返り討ちにしてやるからかかってこい!」

 「おのれニンゲン……全軍突撃ーーーー!」

 「わあああああ」

 

 「みんな、さっきの戦いではアンタッチャブルズが大活躍したわ、今度は私たちの番よ!」

 「おおー!」

 マキアの檄で、メンバーにも気合いが入る。

 

 こちらの戦力は、さっきの戦いで多少減ったとはいえ、魔角族、吸血鬼族、俺たちと合わせてまだ三千人以上。

 こっちには『魔脈』があるし、まだまだ戦えるぜ。

 

 俺たちは邪尾族兵を蹴散らしながらズンドコ進軍し、とうとう邪尾族王がいる陣の目の前まで来た。

 中から邪尾族王と大臣と、邪尾族兵の声が聞こえる……

 

 「邪尾族王さま、敵の進軍が止まりません……

 恐ろしく強いニンゲンの女たちと、数名の魔物、しかもあの魔角族の皇子までが相手となると……ここに来るのも時間の問題です」

 「くそ~、大臣、相手は疲弊しているのではなかったのか!?」

 「その予定だったのですが、まさか魔角族と吸血鬼族が同盟を結ぶとは……」

 

 「ええい、言い訳とは見苦しい、責任をとってお前がやつらの相手をしてこい!」

 「そんな殺生な……」

 

 「よっ、邪尾族王、久しぶり」

 話の途中っぽかったが、俺は構わず陣の中に入る。

 「き、貴様は、あの時のニンゲン!?もうここまで進軍していたのか!?」

 

 「ほらほら、逃げないとやっつけちゃうよ?」

 「邪尾族王、覚悟!」

 シャルドが俺の制止も聞かず斬りかかる。

 ……が、間一髪邪尾族王は避ける。

 

 「くそっ、くそっ……撤退、撤退だーーー」

 「お待ちください邪尾族王さま、た、助けてッ……」

 「ええい足を離せ、逃げられんではないか!」

 ゲシッ!

 邪尾族王は足を掴んでいた大臣を蹴とばして、一目散に逃げだしていった……

 

 「た、助け、助けてーーー」

 大臣は追いかけてきた魔角族兵たちに捕まって連れていかれた……

 

 

 「とりあえず、ケリはついたようだな」

 「ニンゲン……いや、ギガンティックマスターよ、お前の勝利の報酬、本当に『我々と同盟を組む』というので良かったのか?」

 

 「ああ、それがメルフィスの作戦だったからな。

 あいつは最初から邪尾族王と大臣を信用していなかった……裏切ると予想して、最終的にお前たち魔角族と同盟を結ぶ作戦だったんだ」

 

 「最初からそこまで計画していたとは……余程の策士だったのだな」

 「あとはお前たちの魔角族王がどう出るか……お前たち魔族の地上侵攻を防ぐのが、俺たちの最大の目的なんだ」

 

 「オレはお前に命を救われた、できる限りのことはしよう。

 まずは一緒に『魔角族の城』へ来てくれ、王に会わせる」

 

 俺たちは兵たちを残し、シャルドと俺とメンバーで、魔角族の城へ向かった。

 エアリアルエンチャントを全員にかけ三十分ほど走ると、見えてきた、あれが『魔角族の城』か……

 

 邪尾族と同じように巨大な城……

 魔角族だからなのか、先のとがった形状が目立つ。邪尾族の城よりシャープな印象だ。

 巨大な門をくぐり、中の広間へ案内される。

 ここでシャルドは、一旦別の部屋へ……体の状態のチェックと、諸々の許可を取りに行くそうだ。

 俺とメンバーはそのまま玉座の間へ……

 

 ギイィィ……

 巨大な扉を開け部屋に入ると、奥に魔角族の王とその妃らしき魔族が玉座に座っていた。

 俺たちは魔角族王の前に……

 

 「……お前たちが今回の戦いで邪尾族側についていた、ニンゲンと吸血鬼族の王か」

 「お初にお目にかかる、俺はギガンティックマスター、人間だ。

 こっちは吸血鬼族の王、コウ」

 

 魔角族の王……

 巨大な体躯、頭に六本の立派な角が生えている。

 魔角族はこの角の『数』『形』『色』で階級が決まるらしい。

 

 「フッ……ニンゲンか。

 矮小で厚かましく、卑劣で傲慢……まさか我らと同盟を結べると本気で思っておるのか?」

 ん~~、かなり厳しい感触……

 魔角族との同盟がダメとなると、相当状況は厳しくなってしまうが……

 

 その時、奥からシャルドが戻ってきた。

 「母上、ただいま帰還しました」

 「おかえりなさい、シャルド」

 「父上、ご心配おかけしました、ただいま帰還しました」

 「……」

 「父上?」

 

 「シャルドちゃーーーん、心配したよーーー」

 「父上、わかった、わかりましたから、抱きつくのはやめて下さい」

 「えっ!?」

 俺とメンバーは少しズッコケた……さっきまでの威厳ある態度はどこへやら。

 

 「おおおーーん、無事でよかったよーーもうずっとここにいてよ~」

 「父上、恥ずかしいからおやめ下さい……鼻水がついてますって」

 まるで久しぶりに会った犬のように、シャルドにしがみつく魔角族王……

 

 「……お恥ずかしい所をお見せしました」

 妃が少し恥ずかしそうに話しかけてきた。

 「私が言うのも何ですが、王は大変な『親バカ』でして……」

 だろうね……

 

 泣きじゃくる魔角族王をなだめて、シャルドが話し出す。

 「父上、今回の戦いでオレはこのギガンティックマスターに助けられました。

 そして邪尾族たちも『魔脈』から追い払うこともできました。

 全てこのギガンティックマスターのおかげです、寛大な処置をお願いいたします」

 「よし分かった、望み通りにする」

 「はやっ!」

 俺たちはまた少しズッコケた。

 

 「我が息子を助けてくれたのなら話は別だ……同盟も、地上不可侵も、すべて叶えよう」

 

 俺たちと吸血鬼族と魔角族は、正式に同盟を結び、本の民のスミレに『鏡魔法』でその様子を中継してもらった。

 魔界で最大派閥の魔角族が後ろ盾してくれるのなら、反対する者はいないだろう……

 邪尾族もしばらくは大人しくしているだろうし。

 

 

 こうして長かった魔界での作戦は、一応コンプリート。

 

 ちなみに……

 邪尾族に囚われていた『転移者』は、魔脈の戦いの最中に、別動隊に救助させていた。奴隷紋をつけたやつを探し出し、解除済み。

 

 その後、メルフィスの故郷を訪ね、簡単なメルフィスの墓を建てた。

 メルフィスの左手もそこに埋めた。

 「メルフィス、だいたいお前の計画通り、うまくいったよ。

 魔角族王も協力してくれているし、コウとアユムもしばらく魔界に常駐する予定だ。すぐ平和……ってわけにはいかないけど、魔界は少しずつ良くなっていくだろう」

 

 

 みんな魔族たちとが話をしている時、俺は自分の携帯電話を見ていた……

 「!ッ……これは」

 「マスター、どうしたのですか?」

 「マズいことになった、みんな急いで地上に戻るぞ」

 「えっ、えっ?」

 

 「サザバードが『暗殺組織デスサイズ』の襲撃を受けている……」

 「えーーー!?」

 「しかも襲撃を受けてから丸一日たっている……間に合わないかもしれない」

 「急いで全員連れてきます!」

 

 「頼む……館長、無事でいてくれよ……」

 

 

 ☆今回の成果

  俺 融解属性ペンタグラム『メルトダウン』習得

  俺 対消滅属性ヘキサグラム『アナイアレイション』習得

  俺 重轟場属性ペンタグラム『ヘクト・グラビドン』習得

  俺 『エクスプロードブロウ』習得

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